第284回:殺人事件? トレーラーが荒野を走って犯人を追う
『ロードゲーム』
2025.10.30
読んでますカー、観てますカー
『裏窓』と同じ設定?
『ロードゲーム』は1981年の映画である。そんな昔の作品をなぜ取り上げるのかというと、日本では今回が劇場初公開だからだ。当時スルーされたということは作品の出来が悪かったからではないか、と考えるのは自然だろう。しかも、これはオーストラリア映画なのだ。主人公は巨大なトレーラーで真夜中の荒野をぶっ飛ばす運転手。あの『マッドマックス』が公開された2年後で、下手くそなパクリ作品が量産されていた時期である。荒くれ男が暴れまわる大味で雑なパチモノだと疑ってしまうのは仕方がない。
予想は見事に裏切られる。実に緻密で練り込まれた脚本なのだ。カメラワークも秀逸で、小技の利いた撮影手法が随所に見られた。基本的にはロードムービーなのだが、主人公の妄想や幻覚のような映像も織り交ぜられてサイコサスペンス的な様相を呈することになる。
長距離トラックドライバーのクイッド(ステイシー・キーチ)は、キツい仕事続きでろくに寝ていない。今日こそはベッドでゆっくり寝ようと考えモーテルに入ろうとすると、無線で仕事の依頼が舞い込む。一旦は断ったものの、謝礼を2倍にすると言われて引き受けることに。そんなやり取りをしている間に、緑色のバンが入ってきた。道でヒッチハイクをしていた女を連れている。最後の部屋が埋まり、クイッドはいつもどおりトラックの中で仮眠をとるハメに。
翌朝ゴミ収集車の音で目覚めると、相棒で愛犬のボズウェルがしきりにゴミ袋のニオイを嗅いでいる。モーテルの窓からは、緑色のバンに乗っていた男がカーテンの隙間からその様子をこっそり見ている。どうもおかしい。クイッドは何らかの犯罪が行われたのではないかと直感し、事件の真相を突き止めようとする……。映画好きなら、これってヒッチコックの『裏窓』と同じでは、と気づくに違いない。正解である。
『激突!』と逆の構造
監督のリチャード・フランクリンは、筋金入りのヒッチコックマニアなのだ。1969年の『トパーズ』で製作を手伝ったこともあり、1983年には『サイコ』の続編『サイコ2』の監督を任されている。だから、これはどう考えてもパクリではない。ヒッチコック愛が高じたあまり、『裏窓』にオマージュをささげる作品をつくってしまったわけなのだ。
『裏窓』では、骨折して自宅で療養しているカメラマンが、窓から見える向かいのアパートに暮らす人々をのぞき見していた。いさかいの絶えなかった夫婦の部屋から夜中に悲鳴が聞こえ、大雨の中で夫が大きなカバンを持って3度も外出。翌朝から妻の姿が見えなくなり、夫は包丁とノコギリを片付けている。カメラマンはバラバラ殺人だと推理し、観察を続けて犯人を追い詰めていく、という話だった。
構成の妙と巧みな視線誘導で、映画史に残るサスペンス映画の傑作とされている。限定された狭い空間ですべてが進行する。究極の静的な状況を利用して緊張感を演出した。しかし、『ロードゲーム』はトラックで荒野を移動するのだ。まったく逆の動的な展開が必要になるわけで、密室的なトリックをどのように変換するのか、監督の腕が問われる。
もう一つ、どうしても連想してしまう作品がある。1971年のスティーブン・スピルバーグ監督作品『激突!』だ。「プリムス・ヴァリアント」に乗ったセールスマンが、大型トレーラーから執拗(しつよう)に追い回される恐怖を描いていた。『ロードゲーム』は関係性をひっくり返している。『激突!』は運転手が顔を見せないまま巨大な機械の怪物となって襲いかかってくるわかりやすさがあった。『ロードゲーム』では、主人公がトレーラーで犯人らしき男が乗る平凡な小型商用車の「ベッドフォードCF」を追いかける。クルマの位置と大小が逆になっても、顔を見せないドライバーはやっぱり怖い。
狭さを生かすカーチェイス
『激突!』では山道の上り下りを使って、トラックとセダンの性能が異なることをうまく利用したクライマックスが用意されていた。『ロードゲーム』の舞台はオーストラリアの広大な大地なので、その手法は使えない。最後のバトルは市街地で展開される。パトカーも加わり、三つどもえの構図だ。決着の舞台となるのはどん詰まりの路地。狭い道幅をどうやって生かすのかが勝負のポイントになる。
1980年代には、もちろん実写しか使えなかった。斬新な発想と工夫で驚きと興奮を生み出す製作者の心意気に感嘆する。CGで派手な映像をつくるのは簡単だが、観客はもうつくりモノには飽き飽きしている。公開中の『ワン・バトル・アフター・アナザー』のラストは、カリフォルニアの砂漠を貫く一本道。はるかかなたまで見通せる直線で、エキサイティングなカーチェイスは難しいと思ったら、決め手になったのは高低差だった。アイデア次第で迫力のあるカーチェイスシーンを撮ることはできるのだ。
44年前の作品であり、いろいろとアラが見えてしまうのは仕方がない。『裏窓』をロードムービーに移し替えるのはさすがに無理があったようで、ご都合主義と言わざるを得ないポイントもある。でも、細かいことを気にしなければ『ロードゲーム』は今でも一級品のサスペンス映画だ。感動させたり泣かせたりすることを目的にしたつまらない新作を観るより、ずっと骨太な映画体験ができる。そう言っても説得力に欠けるというなら、証拠を見せよう。クエンティン・タランティーノが「好きなオーストラリア映画ナンバーワン」に認定している。古典的名作からB級作品まで、古今東西の映画に精通している彼が太鼓判を押すのだから間違いない!
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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