メルセデス・ベンツE300ブルーエフィシェンシー アバンギャルド(FR/7AT)【試乗記】
安全は安楽 2012.01.31 試乗記 メルセデス・ベンツE300ブルーエフィシェンシー アバンギャルド(FR/7AT)……747万4000円
マイナーチェンジを受けて安全装備が強化された「メルセデス・ベンツEクラス」。新たに導入された「レーダーセーフティパッケージ」でその走りはどう変わったか。
「PRE-SAFE」と「BAS」の関係は?
「Eクラスご試乗の際」と、前方のスクリーンに注意事項が映し出される。「PRE-SAFEブレーキ機能(自動ブレーキによる停車)は、時速30km/h以下で、ハンドル、ブレーキ操作が入力されていない場合にのみ発動し、条件を満たさない際には減速のみとなり完全停車には至りません……」
「時速30km/hとは『馬から落ちて落馬して』だな」と頭の中でムダな突っ込みを入れつつ、「やれやれ」と思いながら試乗車へ向かった。
PRE-SAFEブレーキとは、前方の障害物に追突しそうだとクルマが判断した場合、自動でブレーキをかけてくれるもの。高速道路を走行中、前方の、渋滞している最後尾のクルマが止まっていることに気づかず、うっかり突っ込んでしまう……。例えばそんな事故を防ぐ、いや防げないまでも、被害を軽減することを目指すシステムだ。職業的な義務として、Eクラスが搭載した新しい機能を取りあえず試す必要があるのだが、気心が知れたカメラカーを相手に十分な安全マージンを取って実施するとはいえ、毎度のことながらこの手のテストは心臓に悪い。ちゃんと止まるのか、と不安になる。
もちろん、完全停車に至る前段階として、「音とディスプレイで警告」、「ブレーキ圧を上げ」、「軽いブレーキングで注意を喚起」といった措置が取られる。つまり「PRE-SAFEブレーキ」は「BASプラス(ブレーキアシスト・プラス)」と結びついて、乗員の安全性を向上させるわけだ。
PRE-SAFEブレーキ? BASプラス? 「不必要に機能説明を難しくしてないか?」との声がいずこからか聞こえたので言い訳しますと、メルセデス・ベンツは、1950年代にEクラスの祖とも言える180シリーズで「クラッシャブルゾーン」の概念を採り入れてからこっち、ABS、エアバッグ、ベルトテンショナー、自動ロールオーバーバーなど、次々と新しい安全装備・機能を開発、搭載してきた。そのため、どうしても新旧システム間で錯綜(さくそう)する部分が出てくるのだ。
“半”自動運転が実現
クルマの中に電子部品が盛大に取り込まれるようになってから、安全機能の進化はますます急になり、複雑化した。車輪を断続的に、わずかに転がし続けることで、フルブレーキ時のタイヤロックを防ぐABSが、各輪を個別に制御することで、乱れたクルマの挙動を安定化させるESP(1995年)に発展したことは、よく知られる。
「衝突!」とクルマが判断すると、自動的にシートベルトを引き込んでたるみを取り、助手席の背もたれを衝撃に備えた角度に調整し、開いているスライドルーフを閉じたりする「プレセーフ」機能が発表されたのは2002年。そこに、ドライバーの急ブレーキに備えて、あらかじめブレーキ圧を上げておく「BASプラス」、さらに運転者に依存せず、最終的には自動で急ブレーキが踏まれる「PRE-SAFEブレーキ」が組み合わされ、そのうえ、直接的な安全機能ではないが、前走車との距離を保つ、つまりクルマが勝手に速度を加減しつつ巡航し続ける「ディストロニック・プラス」が有機的に結びつくと……。
あら不思議!? ちょっと極端な言い方をすると、200km/hから0km/h までの“半”自動運転が実現した。いまのところハンドル操作はドライバーに委ねられているが、前走車が尋常な速度で走っているかぎり、運転者がアクセルやブレーキペダルを踏むことなく、ひたすら追走することが可能となった。あまりに退屈で、ついフラフラと車線を外れそうになると、「アクティブレーンキーピングアシスト」の出番である。ステアリングホイールを軽く振動させたり、自動でブレーキをかけたりして、ドライバーに注意する。
こうしたメルセデス・ベンツのドライバー支援システムは、周囲の状態を把握するシステムが機能して、初めて有効となる。具体的には、24GHzの短距離用レーダー、77GHzの中・長距離用レーダー、そして最大500mまでを守備範囲とするカメラが、文字通りクルマの目となって周囲に目配せ……じゃなくて、目配りしてくれる。新しいEクラスでは、前方だけでなく、短距離レーダーを使って後方の確認までしてくれるのが新しい。
目玉は「レーダーセーフティパッケージ」
日本で発売されてから3年目に入ろうという現行型「メルセデス・ベンツEクラス」。セダン、ステーションワゴン、Cクラスのコンポーネンツを活用したクーペ、カブリオレと、車型が一通り出そろった。中でもセダンとワゴンのエンジンラインナップはバリエーションが豊かで、1.8リッター直4ターボ(204ps)、チューンが2種類ある3.5リッターV6(252ps/306ps)、4.7リッターV8ターボ(408ps)、AMG用の5.5リッターV8ターボ(524ps)、加えて3リッターのV6ターボディーゼル(211ps)がカタログに載る。
マイナーチェンジを受けた最新Eクラスのトピックスは、前出の安全装備が「レーダーセーフティパッケージ」としてまとめられたこと。これまで、24GHzの短距離用レーダーが国内の電波望遠鏡に悪影響を及ぼすと、なかなか認可が下りなかったのだが、天文台付近ではレーダーを発しない工夫を施すことで、ようやく装備できるようになったという。「PRE-SAFEブレーキ」と「アクティブブラインドスポットアシスト」の搭載が、直接的な恩恵となる。
「レーダーセーフティパッケージ」に含まれるシステムは6種類。「BASプラス」、「PRE-SAFEブレーキ」、「ディストロニック・プラス」、「アクティブレーンキーピングアシスト」、助手席上にチャイルドシートが取り付けられると、エアバッグがキャンセルされる「チャイルドセーフティシートセンサー」、そして「アクティブブラインドスポットアシスト」で構成される。
「アクティブブラインドスポットアシスト」は自車の斜め後ろ、ドアミラーの死角にほかのクルマが入るとミラー内のインジケーターを点灯して、ドライバーに注意を促す仕組み。警告灯に気づかずウインカーを危険な方向へ動かすと警告音が鳴り、最終的にはブレーキを自動制御して元のコースへ復帰させる。これもまたESPから派生した安全技術と言える。
心強い制動力
Eクラスのステアリングホイールを握って、「BASプラス」と「PRE-SAFEブレーキ」の機能を確認したところ、試乗前の心配は杞憂(きゆう)に終わった。ユルユルと前走車に近づいていくと、「そろそろブレーキを……」と思った瞬間に、サッとブレーキが、それも意外な強さで踏まれる。「止まるぞ!」というクルマの意図が明確に示されるようで心強い。
高機能のクルーズコントロールたる「ディストロニック・プラス」を機能させておけば、ひたすら前のクルマに追従する。前方のクルマが停車すれば、こちらも停車し、再度走りだすときにはクルーズコントロールレバーを軽く引くだけ。
試しに、片側車線が増えた区間で車線変更をして前走車をレーダーから外し、少し距離を詰めてから、再度、元の車線に戻る。動きは反対だが、高速道路で他車に急に割り込まれた状況をシミュレートしてみた、つもり。と、やはり「オッ!」と驚く素早さと強さで制動力が立ち上がり、ツンのめるようにしてクルマの速度が落ち、しかし数秒後には何事もなかったかのように追従を続けていた。
「これでは、あまりにクルマの機能に頼ってしまうことになるのでは……」と、新たな杞憂(!?)が湧きあがるほど、安楽なドライブが実現する。
「レーダーセーフティパッケージ」は、Eクラス販売の3割以上を占める「E350ブルーエフィシェンシー アバンギャルド」(セダン/ワゴン:872万円/907万円)と「E550ブルーエフィシェンシー アバンギャルド」(1120万円/1155万円)に標準装備され、そのほかのグレードには、19万円というリーズナブルな価格で提供される。欧州でのオプション価格と比較すると、半額程度だという。付けない手はない!?
(文=青木禎之/写真=峰昌宏)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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