フェラーリ430スクーデリア(MR/2ペダル6MT)【海外試乗記(後編)】
フェラーリの進化がとまらない(後編) 2008.02.16 試乗記 フェラーリ430スクーデリア(MR/2ペダル6MT)「F430」ベースの高性能モデル「F430スクーデリア」。軽量化に加え、電子制御システムなどF1マシンのノウハウが投入されたスペシャルモデルに試乗。『NAVI』加藤哲也の報告。
『NAVI』2007年12月号から転載。
史上最高のフェラーリ
最終コーナーを2速で立ち上がってアウト側縁石に付く前に3速へシフトアップ、メインストレートを猛然と加速しながらCTオフモードへとスイッチを切り替える。F430がアイス/ローロードホールディング/スポーツ/レース/CSTオフの5種類が用意されるのに対し、430スクーデリアではアイスモードが省かれ、新たにトラクション・コントロールの機能だけを停止するモードが加えられた。それがCTオフ。ドライビングの楽しみと、いざとなればVDCが介入して安全性を両立することを目的に、ミハエル・シューマッハーが提案したモードである。
率直にいってこれが実にいい。2速でクリアするタイトベンドがフィオラーノには5ヵ所あり、そのどこでもスロットルを意識的に開ければテールアウトの体勢に持ち込める。中でも一番トリッキーなのがオーバーブリッジを渡った直後に待ち構える、下りの右コーナー(しかも逆バンクに見える)だが、そこでさえ抜群のコントロール性を発揮するではないか。
とりわけダンピングとE-DIFFのバランスは絶妙のひと言。まずリアがスライドに移行する際の動きが非常にソリッドだし、それでいて必要なトラクションが確保されているためクルマを前へ前へと押し出してくれる。だからこそ万全の自信を持ってパワーでリアタイヤを自在に滑らせることが可能なのだ。エンツォの圧倒的なパワーと、サイズに似合わぬ軽快なフットワークも魅力的だが、ハンドリングの洗練度では430スクーデリアの方が一枚上手。まさに史上最高のフェラーリだと思った。
遥か奥まで
フロントが398×36mmにモノブロックの6ピストンキャリパー、リアが350×34mmに4ピストンキャリパーを組み合わせたカーボン-セラミック4輪ディスクブレーキが発する制動力も強烈だ。コーナリングスピードが上がり、なおかつエンジンパワーも増強されているから、到達スピードが高まっているのは自明の理。だというのにF430より遥か奥まで突っ込んでいけるのだ。
たとえば230km/hからフルブレーキングして2速までシフトダウンする1コーナーはその面目躍如。メインストレートが左に緩くキンクする手前からブレーキを踏まないと間に合わなかったF430に対し、スクーデリアは完全にそれを越えてからブレーキペダルを蹴飛ばせば、みるみるスピードを殺してくれる。踏力の変化に対する機敏な反応も申し分ない。
ただその一方で、一般道の舗装の荒れた部分では、硬められたサスペンションが接地性を失いやすいことも否定できない。実際マラネロ近郊のワインディングロードでは、波打った路面で思ったより早くABSが作動することが気になった。
そんな場面では、これまた皇帝シューマッハー考案というセンターコンソール上に配置された“ダンパーソフト”ボタンを押せばいい。ローロードホールディング以外ではE-DIFFや変速スピードは元の設定のまま、減衰力だけを下げてくれる。姿勢変化が増えることはいうまでもないが、実際ABSの介入頻度は低くなったし、ウェットコンディション下でも有用なはずだ。
ロック魂が宿る
もちろん乗り心地だって改善される。いくらガツンとくる直接的なハーシュネスがうまく遮断されているとはいっても、そこはスポ−ティさを研ぎ澄ませたスクーデリア。やはり一般道では細かな上下動を意識せざるを得ない。それを一段マイルドな方向に振ってくれるため、快適性が高まることは必至。マネッティーノはレースモ−ドのまま、状況に応じてダンパーソフトをオンにしたりオフにしたりして楽しむのが一番賢いと思う。
トップエンドパワーだけでなく、低速トルクが充実していることも美点のひとつだ。早々とシフトアップを決め込むAUTOモードを選んでも、隔靴掻痒感を覚える機会は少ない。
室内はカーペットが剥がされ、トリムがレザーからカーボンファイバーに置き換えられているから、室内のノイズレベルは当然上がっている。しかし耳に不快なロードノイズより、エグゾーストノートやメカニカル音といったドライビング・エモーションに直接働きかける音の方が勝って聞こえるのも事実。むしろ痛快なほどだ。いわば良質のハードロックを高価なオーディオを用い、大音量でガンガン聞くようなもの。総生産台数はまだ決まってないが、フェラーリが2000台程度と予想するこのロック魂溢れる430スクーデリアに、死角は一切見当たらなかった。
(文=加藤哲也/写真=Roberto Carrer/『NAVI』2007年12月号)

加藤 哲也
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。