第21回:アモーレの国では、アペのレースで恋の花が咲く! − 『昼下がり、ローマの恋』
2012.02.10 読んでますカー、観てますカー第21回:アモーレの国では、アペのレースで恋の花が咲く!『昼下がり、ローマの恋』
デ・ニーロ初の純イタリア映画
闇の中からタクシーが現れる。乗っているのは、顔つきが濃い目なイケメン。ハートの矢を持った彼は、恋のキューピッドらしい。イタリアではタクシー運転手が愛も運ぶのだ。
彼が物語るのは、青年、熟年、老年の三つの恋である。ローマのアパートに住む男女が繰り広げる、それぞれの愛の形を描く。『昼下がり、ローマの恋』というよくわからない邦題が付けられているが、原題は『Manuale d'amore 3』で、直訳すれば「恋愛マニュアル3」だ。シリーズ物なのである。1と2がヒットしたおかげで、ぜいたくなキャスティングが実現した。
ロバート・デ・ニーロは名前でわかるようにイタリア系だが、純イタリア映画に出演するのはこれが初めてなんだそうだ。役のために太ったり痩せたりするカメレオン俳優として名高いが、この映画ではいわゆる等身大の役どころである。アメリカ人の元歴史学者で、妻と別れてローマに一人で移り住んでいる。彼のイタリア語がどのくらい達者なのかはわからないが、英語のほうが流暢(りゅうちょう)という設定だから無理がない。
お相手を務めるのは、“イタリアの宝石”ことモニカ・ベルッチだ。よわい40を超えてもセクシー爆弾ぶりは健在で、登場するやいなや男を狂わせる危険な香りがぷんぷん漂ってくる。恋愛沙汰のいざこざが出来(しゅったい)するのは、火を見るより明らかだ。ご老体のデ・ニーロは心臓を患っているという設定だから、ベッドシーンは俄然(がぜん)人命のかかったサスペンスをはらむのだ。
なぜかフォルクスワーゲンのクルマばかり
もう一つ、セックス中毒のストーカー女にちょっかいを出したばかりに人生を破滅させる熟年編も面白いのだが、これから紹介するのは青年編だ。駆け出しの弁護士ロベルト(リッカルド・スカマルチョ)は、恋人のサラ(ヴァレリア・ソラリーノ)と結婚間近。用地買収の交渉を任された彼は、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に乗ってトスカーナの村に赴く。さっそく農場に乗り込んで立ち退きを迫るが、頑固なオヤジに撃退される。
何もない質素な村だが、なぜか一人やたらにゴージャスな美女ミコル(ラウラ・キアッティ)がいた。「アウディA5カブリオレ」に乗って現れた彼女に、ロベルトは一発で恋してしまう。そりゃそうだろう。ゴルフに乗った実直な青年なのだ。恋人のサラはいい奥さんにはなりそうだが、いかんせん地味めである。A5カブリオレで快楽主義をひけらかされたんじゃ、ひとたまりもない。かくして、ロベルトは買収交渉を長引かせたまま、ずるずると滞在を延ばしていく。
クルマによって登場人物の性格を描き分けているわけだが、くしくも2台ともフォルクスワーゲングループのモデルだ。それどころか、ほかにも「ポロ」「トゥーラン」「トゥアレグ」、さらには「セアト・イビザ」まで出てくる。「アルファ・ロメオ159」のパトカーが辛うじて登場するが、横腹にクルマが突っ込んできて壊されてしまう。ひどい役回りだ。グローバル化によってイタリア車が衰退していることを暗示しているのだろうか。そんな面倒な話ではなくて、エンドクレジットを見たら謎が解けた。いずこでも“大人の事情”というものがあるのだ。
あの3輪トラックでレース!?
ローマのサラからは、毎夜パソコンのテレビ電話で連絡がくる。ロベルトは平静を装うけれど、女というものはささいな変化を敏感に察知する。ヤバいと思いながらも、村の若者たちとも仲良くなるし、ここでの暮らしが楽しくて仕方がない。オリーブの畑が丘に広がり、砂浜からは夕日でオレンジ色に染まる海が見渡せる。そして情熱的なベッピンさんがそばにいるとなれば、女性経験の乏しい(臆測)ロベルトくんは舞い上がってしまう。
村では毎日がばか騒ぎで一日が過ぎていく。街路でのレースが象徴的なシーンだ。両側から壁が迫る石畳の道を、サーキットさながらに駆け抜ける。何しろ狭いから、ここではフォルクスワーゲンのクルマは使えない。レースにエントリーするのは、小回り性能では他の追随を許さない「ピアッジョ・アペ」である。『webCG』の人気コラム「マッキナ、あらモーダ!」でおなじみの大矢アキオ氏が偏愛するあの3輪トラックだ。無理やり二人乗りで走っている。もちろんスピードは知れているが、コースが超テクニカルだから迫力は満点だ。
イタリアといえば、アモーレ、マンジャーレ、カンターレ。そんなステレオタイプなイメージはどうなんだろうと思うが、この映画はあえて抵抗せずに陽気で楽しいイタリアを臆面もなく描いている。観れば誰だってイタリアに住みたくなってしまうから、大成功だ。そして、ほかのどのクルマよりも印象に残ったのは、レトロな低性能車のアペだったのだ。
(文=鈴木真人)
拡大
|
|
拡大
|

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第285回:愛のためにフルヴィアクーペで突っ走れ!
『トリツカレ男』 2025.11.6 夢中になるとわれを忘れるトリツカレ男がロシアからやってきた少女にトリツカレた。アーティスティックな色彩で描かれるピュアなラブストーリーは、「ランチア・フルヴィアクーペ」が激走するクライマックスへ! -
第284回:殺人事件? トレーラーが荒野を走って犯人を追う
『ロードゲーム』 2025.10.30 あの名作のパクリ? いやいや、これはオーストラリアのヒッチコック好き監督が『裏窓』の設定をロードムービーに置き換えたオマージュ作品。トレーラーの運転手が卑劣な殺人者を追って突っ走る! -
第283回:ドニー・イェン兄貴がE90で悪党を蹴散らす!
『プロセキューター』 2025.9.26 ドニー・イェン兄貴は検事になっても無双! 法廷ではシルバーのウィッグをつけて言葉の戦いを挑むが、裁判所の外では拳で犯罪に立ち向かう。香港の街なかを「3シリーズ」で激走し、悪党どもを追い詰める! -
第282回:F-150に乗ったマッチョ男はシリアルキラー……?
『ストレンジ・ダーリン』 2025.7.10 赤い服を着た女は何から逃げているのか、「フォードF-150」に乗る男はシリアルキラーなのか。そして、全6章の物語はなぜ第3章から始まるのか……。観客の思考を揺さぶる時系列シャッフルスリラー! -
第281回:迫真の走りとリアルな撮影――レース中継より面白い!?
映画『F1®/エフワン』 2025.6.26 『トップガン マーヴェリック』の監督がブラッド・ピット主演で描くエンターテインメント大作。最弱チームに呼ばれた元F1ドライバーがチームメイトたちとともにスピードの頂点に挑む。その常識破りの戦略とは?
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。






























