日産エクストレイル 20X(4WD/CVT)【ブリーフテスト】
日産エクストレイル 20X(4WD/CVT) 2007.11.13 試乗記 ……311万9000円総合評価……★★★★
日産の売れっ子SUV「エクストレイル」がフルモデルチェンジし2代目に生まれ変わった。大人なった新型の使い勝手と乗り心地を2リッターの上級モデルで試す。
気軽に付き合える
「日産エクストレイル」の一番の魅力は、気楽に付き合えるところにあると思う。
はじめて試乗した日は、あいにくの空模様で、乗り降りのために少しドアを開けるだけで内張りがびしょびしょになるほどの土砂降りだった。雨で湿った服や、水が滴り落ちる傘でシートが濡れる。もし、ドアトリムやシートが贅沢なレザーだったら……想像するだけでゾッとするが、“フル防水インテリア”をうたうエクストレイルなら心配は要らない。あとで拭き取ればいいだけの話だ。
もちろん世の中には気を遣わずにすむクルマなどたくさんあるが、エクストレイルの場合は、そのデザインやつくりに安っぽさがないのがいい。走らせれば多少条件が悪くても気にせず進める安心感や、タフな見た目とは裏腹に快適な乗り心地など、“使い倒す道具”にとどまらない実力の高さがうれしい。価格やサイズも手頃で、老若男女を問わず、安心してお勧めできるSUVなのである。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
デビューは、2000年10月。発売から7年、世界167か国で約80万台が販売された、売れっ子SUV。2007年8月22日、フルモデルチェンジされ2代目となった。
ボディサイズは、全長×全幅×全高=4590×1785×1685mmで、ホイールベースは2630mm。先代からの伸長分は、幅20mm、高さ10mm、ホイールベースで5mmとわずかだが、全長のみ135mmも伸びている。
増分は、主に荷室にあてられ、5名乗車時の容量は410リッターから479リッターへ。さらに、床面に設けられた引き出し式のアンダートレイを取り除けば、603リッターまで拡大できる。
エンジンは、2リッター直4「MR20DE」(137ps/5200rpm、20.4kgm/4400rpm)と、2.5リッター直4「QR25DE」(170ps/6000rpm、23.5kgm/4400rpm)の二本立て。今回のフルモデルチェンジでターボモデルはラインナップから落ちた。組み合わされるトランスミッションは、2リッターが4ATからCVTに変更され、2.5リッターモデルは、6段シーケンシャルモードつきの「エクストロニックCVT」となる。6段MTは、2リッターの4WDモデル「20X」にのみ設定される。 電子制御四駆システム「オールモード4×4i」を備え、オフロード走破性もさらに追求された。
(グレード概要)
ベーシックな「S」と本革ステアリングホイールなどを備える上級グレード「X」がラインナップ。
テスト車は、2リッターXの4WDモデル。チルト機構付きポップアップスタリングや、フルオートエアコン、大型リアシートアームレストなどが装備されるほか、安全面では、ABSや前席SRSエアバッグシステム、LED式ハイマウントストップランプなどを標準装備。さらに、急勾配の下りで車速を7km/hに抑える「ヒルディセントコントロール」や上り坂の発進でズリ下がりを防止する「ヒルスタートアシスト」などハイテク装備も充実する。
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【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ブラックにグレーの落ち着いた感じの室内。ダッシュボードやドアトリムの質感はとりたてて高いわけではないが、防水加工が施されるのはとても助かる。メーターは速度計、回転計そのものが大きいうえに中の文字も大きくて見やすい。大きいといえば、ダッシュボード中央の収納も大容量を誇る。保温・保冷機能付きのドリンクホルダーなど、小物収納も充実している。
試乗車と同じ“バーニングレッド”のクルマには“スクラッチシールド”が施される(特別塗装3万1500円)。林道を走るときなど、道路脇の木の枝でひっかきキズができることがよくあるが、小さなキズなら自然に復元するというのはうれしい機能だ。
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(前席)……★★★
初代エクストレイルがマイナーチェンジの際に採用したのが、ステアリングを跳ね上げて、運転席での着替えや作業のスペースを確保する“ポップアップステアリング”。新型でも一部の車種で標準となり、重宝する場面もあるだろう。しかし、肝心のステアリング調整はチルトのみで、凝った機構のまえにまずはテレスコピック調整がほしい。
シートは、レザー風の防水素材「セルクロス」が標準で、適度に張りはあるが、腰付近のサポートはやや不足気味で、ランバーサポートがないのが惜しまれる。運転席からはボンネットが大きく感じるが、ヘッドランプに一体化される“ヘッドランプマーカー”のおかげで、車両感覚はつかみやすい。
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(後席)……★★★
フロアから座面までが適度に高めで、リクライニング可能な後席は、自然な姿勢をとれるのが特徴。足元のスペースにも余裕があり、なんとか足を組むことも可能だ。切り立ったボディのおかげでサイドからの圧迫感はないが、スライディングルーフ付きのクルマでは開口部の縁が間近に迫るのが気になる。
走行中は、リアから侵入するロードノイズやタイヤが拾うショックが前席以上に目立っていた。
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(荷室)……★★★★
キャビン同様、ラゲッジルームも水や汚れを気にせずに済む構造で、フロアやその下のトレイはウォッシャブル。トレイ部分は取り外すことも可能で、もともと80cm強ある室内高をさらに13cm弱拡大することができる。奥行き、幅ともに十分に確保されていてそのままでも広いが、トランクスルーやリアシートのダブルフォールド機能などによって、長尺物などの収納にも困らない。トノカバーは標準ではなく、ディーラーオプションとして購入する必要がある。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
各種オプション付きの試乗車は車両重量が1500kgを超えていたが、最高出力137ps、最大トルク20.4kgmの2リッターエンジンとCVTを組み合わせは、スペック以上に出足に力強さがあって、アクセル操作に対するレスポンスも良好。2000rpmから3000rpmにかけてやや加速が鈍る感じはあるが、あくまでそれは相対的な印象で、力不足を指摘するほどではない。
アクセルペダルを深めに踏むと、エンジンはすっと回転を上げるものの、CVT臭さはあまりなく、パワートレーンからのノイズがよく抑えられていることも自然な印象につながっている。3000rpmを超えると盛り上がり見せるエンジンは、フル加速時には4500rpmから6000rpmあたりに回転計の針を留めて、効率的に速度を上げていくから、高速での追い越しも苦にならない。
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(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
ややソフトな味付けのサスペンションは、一般道ではゆるやかなピッチングが見て取れることがあるが、十分快適な乗り心地。215/60R17サイズのM+Sタイヤはロードノイズが目立ち、目地段差を通過するときにはドタバタすることもあるが許容範囲内だ。高速ではピッチングが気にならなくなるものの、路面の小さな荒れなどはボディに伝えがちだ。
ハンドリングは実に素直なもので、滑りやすい路面ではアンダーステアやオーバーステアを和らげるように前後のトルク配分を調節する“オールモード4×4-i”が、安定した走行に貢献している。常識的にステアリングを操作するかぎり、ロールの大きさや速さに不安を覚えることはないだろう。
(写真=高橋信宏(T)/峰昌宏(M))
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2007年9月13日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:--km
タイヤ:(前)215/60R17(後)同じ
オプション装備:バイキセノンヘッドランプ(6万3000円)/インテリジェントキー+エンジンイモビライザー(5万7750円)/大型電動ガラスサンルーフ+オーバーヘッドコンソール(11万250円)/ハイパールーフレール(10万5000円)/カーウイングスナビゲーションシステム(HDD方式)+バックビューモニター+サイドブラインドモニター+ステアリングスイッチ(34万6500円)/スクラッチシールドのバーニングレッド(3万1500円)/フォグランプ(3万2000円ディーラーオプション)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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