シトロエンC4ピカソ 2.0エクスクルーシブ(FF/2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
シトロエンC4ピカソ 2.0エクスクルーシブ(FF/2ペダル6MT) 2007.10.15 試乗記 ……360.0万円総合評価……★★★★★
2007年6月に日本への導入が開始された、フレンチ・ミニバン「シトロエンC4ピカソ」。日本において全盛のミニバンだが、C4ピカソにはそれとは違ったよさがあるという。
トレビアン!
シトロエンのミニバン「C4ピカソ」と3日間500kmを過ごした。ほとんどひとり乗りで。運んだのはもっぱら空気という、ふさわしくない使い方をしてしまった。ミニバンのドライバーといえば、運転手。ひとりで運転手を演じることほど、むなしいものはない。
ところがピカソでの3日間500kmは、楽しくてしかたなかった。
路面から太陽まで一気に見えるパノラマ視界。見て触れて楽しいインターフェイス。長く高い車体を忘れさせるハイレベルなハンドリング。そしてシトロエン伝統の優しいシートとサスペンション。これらがミニバンらしからぬ喜びをドライバーにもたらしてくれたのだ。
しかも室内の仕上げは同じ2リッターの国産ミニバンよりはるかに上質で、クルージングでは驚くほど静か。フランス車は安っぽいという定義さえ、ピカソは過去のものにしてしまった。
広さや収納やシートアレンジなら、日本のミニバンもすばらしい。最近は走りもよくなった。でも、そこで終わっている。便利な道具でしかない感じがする。ピカソはその先まで見つめている。所有する満足感や、移動の快感もある。だから国産車より100万円高い価格が納得できる。
7つのシートを必要としない自分のような人間でさえ、欲しいと思ってしまう。こんなミニバン、なかなかない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「C4ピカソ」は、2006年9月のパリモーターショーでデビューした、新型のミニバン。ボディサイズは全長×全幅×全高=4590×1830×1685mm。ホイールベースは2730mmで、5人乗りの「C4」よりひとまわり大きい。
日本に導入されるのは「2.0エクスクルーシブ」のみ。搭載される2リッター直4のガソリンエンジンは、143ps/6000rpm、20.8kgm/4000rpmを発生する。トランスミッションは、2ペダル6MT「エレクトロニックギアボックスシステム」と、シーケンシャルモード付きトルコン式4ATの2種類が選べる。
(グレード概要)
上級グレード「エクスクルーシブ」の名称がつく日本仕様車は、多くの機能が標準で備わる。駐停車をサポートするオートマチックパーキングブレーキに、坂道発進をサポートするヒルスタートアシスタンス、パーキング・スペース・センサー、パーキングアシスタンスを装備。さらにバイキセノンヘッドライトや、クルーズコントロールなども標準装備される。
エアサスペンション(リア)は、停車時にラゲッジルームの地上高を50〜64cmの範囲で変化させ、大きな荷物の積み下ろしをサポートする。安全面は、ユーロNCAPの5つ星(満点)を獲得。7エアバッグを標準装備する。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
路面から空まで一気に見える巨大なフロントウィンドウはとにかく爽快。この広がり感はサンルーフはもちろん、オープンカーを超えているかもしれない。とくに森の中を走っていると、全身で緑を浴びている感じ。最高に気持ちいい。サンバイザーは頭の真上に追いやられたが、前に引き出して使う方式なので機能的には問題なし。オプションのガラスルーフを選べば、2列目3列目シートに座る人もそれに近い開放感が得られる。
インパネの奥行きは長いが、その先のノーズは短いから、細いピラーのおかげもあって、取り回しはそんなに気をつかわない。仕上げにかつてのフランス車の安っぽさはなく、シンプルな造形、落ち着いたカラーリングは知的。ブルーのデジタル式センターメーターは識別しやすく、オーディオやギアチェンジなど主要な操作はステアリングから手を離さずに行える。おまけに収納スペースは豊富。オートエアコンはこのクラスでは異例の4ゾーンタイプをおごっている。実用性、快適性、安全性などあらゆる面で、ライバルより一歩踏み込んでいる。すばらしいインターフェイスだ。
(前席)……★★★★★
シートサイズはそんなにたっぷりしていないが、やんわりした座り心地はシトロエンならでは。それでいて腰などの要所はしっかり支えてくれるので、1〜2時間乗りっぱなしでもまったく疲れないどころか、もっと座っていたいとさえ思える。同じフランス車でも、ルノーやプジョーのシートは最近硬めになりつつあるが、それとは一線を画している。前席の間にあるトレイは、ちょっとした小物を置くのにとても便利だ。
(2列目シート)……★★★★★
3分割のセパレートタイプで、背もたれを前に倒して畳めるほか、前後スライドも可能。座り心地のよさは、前席にまったく負けていない。全幅が広いおかげで、3人がけも窮屈ではなく、いちばん後ろまでスライドさせれば、身長170cmの人間が前後に座ったとき、ヒザの前に15cmぐらいの空間が残る。オートエアコンはリアも左右独立制御で、前席背もたれ裏には折り畳みテーブルだけでなく読書灯までついているなど、日本車顔負けの芸の細かさも見せる。
(3列目シート)……★★★★
2列目をいちばん後ろにセットするとヒザも頭も触れてしまうが、中間ぐらいのポジションに出せば、身長170cmの人間なら余裕で座れる。折り畳み前提なのでサイズは小さく、座面、背もたれともに薄いが、座り心地は驚くほどいい。ウォークインのしやすさもポイントで、2列目の背もたれの肩という手を掛けやすい場所にあるレバーを引くことで、座面のチップアップと前方へのスライドが一気に完了する。
(荷室)……★★★★
定員乗車時のスペースは限られるが、3列目を畳めば576リッター、2列目も畳めば1951リッターの容量が手に入る。しかしピカソのトピックはそれ以外の部分にある。2列目、3列目はともに、背もたれを倒すと全体が沈んで低く畳める方式で、どちらも目につきやすい赤いヒモを引くだけのワンタッチ操作。ハイドラクティブサスペンションの経験を生かしたエアサスペンションをリアに装備したおかげで、フロアはスイッチ操作で14cm下げて、重い荷物の積み下ろしが楽にできる。ゲートにはミニバンではめずらしいガラスハッチつきで、側面の照明は外して懐中電灯にも使える。ただ機能を誇るだけでなく、どうすれば快適に使えるかを本気で考えた空間だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
日本仕様のトランスミッションはトルコン式4段AT(4EAT)と、今回乗った2ペダル6段MT(6EGS)が選べる。どちらもステアリングの奥から斜めに生えた細いレバーで「D」や「R」などのポジションを選び、前進用ギアはパドルでチェンジする方式。レバーは軽く、ステアリングに手をかけたまま指先だけでスッスッと動かせる。縦列駐車でDとRを交互に使うようなとき楽だし、なによりあの「シトロエンDS」を思わせるタッチがうれしい。
パドルは「C2」や「C3」のセンソドライブと同じように、操舵にかかわらず固定なので操作しやすい。パーキングブレーキはメーター手前に操作ボタンがあるが、DあるいはRに入れてアクセルを踏むと解除し、エンジンを止めると作動するので、通常は触れる必要がない。肉体的な負担を最小限に抑えようというシトロエンの思想はしっかり生きている。
Dレンジのままでも加速に不満はなく、下り坂や減速時は自動的にシフトダウンしてくれるが、変速はゆったりしていて、2速にアップするときの減速感が気になることもある。マニュアルシフトすればそれは気にならなくなり、加速そのものも活発になる。静粛性は驚くべきレベルで、60km/h以下で流しているときはほぼ無音。約2500rpmの100km/hクルージングも平和そのものだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
2730mmのロングホイールベースとリアエアサスペンションを組み合わせたシャシーは、いかにもシトロエンらしい、ふんわりゆったりした乗り心地を届けてくれる。低速で段差を通過するとボコボコ振動として伝えてくるものの、それ以外はとにかく心地いい。なのに高速では姿勢をフラットに抑え、ゆったりした揺れはそのままに、一発で上下動を抑え込んでくれる。快適ではなく、快感という言葉を使いたくなるほどだ。
電動パワーステアリングの切れ味はかなりシュア。でもその後の動きはロングホイールベースとソフトなサスペンションのおかげで、ゆったりしている。しかしノーズの重さはほとんど感じられず、グリップは前も後ろもかなり粘るので、慣れればかなりのペースで走れる。繊細な操舵で車体をゆっくり寝かせるようにロールさせ、接地感に長けた足に身をまかせてコーナーを抜けていく。ドイツ車とは対極にある、シトロエン流ドライビングプレジャーにあふれたハンドリングなのである。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年5月31日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:4152km
タイヤ:(前)215/55R16(後)同じ(いずれも、ミシュラン PRIMACY HP)
オプション装備:グラスルーフパッケージ=15.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離:482.4km
使用燃料:54.46リッター
参考燃費:8.8km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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