ジープ・パトリオット リミテッド(4WD/CVT)【試乗記】
本格派もいいけれど 2007.10.10 試乗記 ジープ・パトリオット リミテッド(4WD/CVT)……329万7000円
2005年のフランクフルトショーでのお披露目から2年、ジープブランド初のコンパクトSUV「パトリオット」が日本上陸。エントリーモデルの走りを試す。
小さくてもしっかりジープ
「パトリオット」はジープの新しいエントリーモデル。いつもの見慣れたフロントグリルや直線基調のフォルムのおかげで、遠目には兄貴たちに負けない存在感を放っているが、実際は全長4420×全幅1810×全高1665mmとやや控えめなサイズの、自称“コンパクトSUV”なのだ。
サイズだけでいえば、ジープにはさらに小さなラングラーがあるけれど、オフロード四駆の代表選手みたいなクルマじゃあ、なんとも敷居が高い。その点、このパトリオットは、ひとあし先に日本に導入された「ダッジ・キャリバー」と共通のプラットフォームのうえに成り立つだけあって、見た目とは裏腹なライトな性格の持ち主。新規のジープユーザーにはとっつきやすいクルマに仕上がっている。
もちろん、ジープを名乗るからには4WDは不可欠。横置きFFをベースに、リアデフに電子制御カップリング(ECC)を組み込んだ「フリーダムドライブ」を搭載する。
通常は前輪駆動のようにふるまうが、必要に応じてリアにも駆動力を配分する。いわゆるオンデマンド4WDで、スイッチ操作でECCをロックすれば、直結4WD並みの効果を手に入れることもできる。
205mmと高い地上高や前後オーバーハングを切り詰めたデザインなど、SUVとしての基本もクリア。エントリーモデルといえども、しっかりジープしているのだ。
「スポーツ」と「リミテッド」を用意
日本でのラインアップは「スポーツ」と「リミテッド」の2モデル。2.4リッター直列4気筒とCVTが搭載されるのはどちらも同じで、いずれも右ハンドル仕様になる。
違いはリミテッドのほうが多少装備が充実していることで、レザーシートやリフトゲートスピーカーを含むプレミアムサウンドシステム、レザーステアリング、フォグランプなどが標準装着になる。価格はスポーツが294万円、リミテッドが329万7000円と、リーズナブルな価格設定がうれしい。
このうち、今回は豪華版のパトリオット・リミテッドを試すことができた。たまたま試乗車のボディカラーが“ストーンホワイト”で、数字以上に大きく見えるが、実際は全長やホイールベースは兄弟車のダッジ・キャリバーと同じサイズであり、乗り込んでしまえばむしろ小さく感じるほどだ。
インテリアは、センタークラスターやシフトレバー付近にキャリバーの名残があったりもするが、メーターなどはパトリオット専用。シンプルでクリーンなデザインには好感が持てる。シートは、助手席や後席が可倒式で、ワゴンなみの使い勝手を誇る。荷室のフロアがさほど高くないのも乗用車ベースのメリット。後席は大人が座るのに十分なスペースが確保され、荷室も広く実用的だ。
オフが楽しい
試乗は、一般道と林道を組み合わせた1時間ほどのコース。試乗会場からしばらくは一般道を進むことになるが、乗用車ベースといっても、足まわりをあまり硬くせず、ストロークを大きめにとっているのがジープらしい。おかげでおとなしく一般道を走るような場面でも、ゆるやかなピッチングを感じるが、不快に思えるほどではない。足まわりがソフトなわりに、標準で装着されるサマータイヤだけ硬いのがすこし気になった。
170ps、22.4kgmのスペックを持つ2.4リッター直列4気筒DOHCエンジンは、JATCO製のCVTと組み合わされて、低回転から十分に力強く、パワートレーンはレスポンスのよさやスムーズさを身につけている。アクセルペダルを多めに踏み込んだときに、回転だけ先に上がるCVT臭さがこのパトリオットでは和らいでいて、自然な感触が得られるのもうれしい点。クライスラーもCVTの使い方が上手くなってきた。
さらに素早い加速を必要とする場面では、エンジンを高回転域に留めることで効率よく速度を上げるのは、CVTならではの感覚である。
やがて林道の入口に辿りつくと、すれ違いが難しいほどの狭さに多少戸惑ったが、実際に走り出してみると、さほど広くない全幅と直線的なボディのおかげで、思いのほかラクに扱えるのがうれしい。路面には凹凸があり、ところどころ岩が顔を出しているが、ストローク豊かなサスペンションが無難にかわしてくれるから、安心して先に進むことができた。
はじめは不安だらけだった林道ツーリングは、すぐに肩の力も抜けて楽しいひとときに。普通のセダンやワゴンでは踏み入れられない道に安心して分け入れるのが、まさにこのクルマの醍醐味である。
ジープのエントリーモデルとはいえ、オーナーの冒険心をくすぐり、行動範囲を広げてくれるパトリオット。本格的なオフロードモデルもいいけど、自分には案外このくらいのほうが合っていると思った。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。