第5回:脱・殿様商売? イタリア自動車業界、噂の「セカンドライフ」に進出(大矢アキオ)
2007.08.25 マッキナ あらモーダ!第5回:脱・殿様商売? イタリア自動車業界噂の「セカンドライフ」に進出(大矢アキオ)
イタリアの自動車ディーラー
イタリアのクルマディーラーでは、カタログを1冊もらうのも大変である。
日本のように「いかがですか?」などとニコニコしたセールスマンが寄ってきてくれないからだ。こちらから呼び止めないといけない。
カタログが欲しいと言っても、一見さんにはたいてい薄い簡易版カタログしかくれない。ちゃんとした美装本カタログは、商談まで進むか、顔見知りのセールスマンがいないともらえる確率は低い。
たとえ成約にいたるくらい真面目な商談をしても、お茶が出ることはないし、帰りに「産地直送 渥美マスクメロン」といったご成約プレゼントを持たせてくれることもない。
そもそも昼休みがあるので、営業時間を確かめて行かないと無駄足になることがある。大きな街の主力ショールームを除き、土曜午後・日曜は原則として休みだ。
一般車のディーラーですらこんな具合である。「フェラーリ」や「ランボルギーニ」を扱う店などは、敷居をまたぐことからして勇気がいる。
だから東京でイタリア製某スーパースポーツカーのショールームをフラッと訪れた時の対応には驚いた。入った途端、お姉さんに「どうぞお掛けになってみてください」とクルマのドアを開けられ、傍らのテーブルでオレンジジュースまでご馳走になった。「すげえ国だナ」と思ったものだ。
とにもかくにもイタリアの自動車ディーラーは、日本から見れば「殿様商売」なのである。
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お茶の間がモーターショーに早変わり
そんな旧態依然たるイタリア自動車業界に、この夏変化の兆しが見えてきた。誰でもいつでも気軽にアクセスできるウェブ動画への積極的なアプローチである。
たとえば、7月中旬にスタートした、『Alfa Romeo Vodcast』だ。
ビジターが観たい映像を選択するオンデマンド方式である。「スパイダー」や「8Cコンペティツィオーネ」の走行シーン映像は、いずれもお茶の間をしばしモーターショー会場に変えてくれる。
『SUPER CG』な人? には、イタリア教育映画連盟制作による、「アルファ・ロメオ」の歴史を綴った古いお宝フィルムを鑑賞できるのが嬉しい。
そのアルファ・ロメオに先駆け、6月末にウェブ動画配信をスタートしたのは、なんと「フェラーリ」である。
『Web Tv Ferrari』と名付けられたこちらは、放映時間があらかじめ決められている。たとえばこの原稿を書いているときは、6月にマラネッロで催されたフェラーリ60周年記念イベントの模様が放映されていた。
画面の傍らには、「面白かったですか? 」を5段階評価するアンケート欄がある。
フェラーリも腰が低くなったものである。
こうしたWebテレビは、「アウディ」や「メルセデス」などドイツ勢が今年春から一足先に始めていたものの、意外にイタリアメーカーも“とっかかり”が早かった。
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「セカンドライフ」を試す
いっぽう話題の仮想社会「セカンドライフ」進出に積極的なのは、フランスメーカーのイタリア法人だ。
ルノー・イタリアは、仮想サーキットを既にオープンしている。5月に本国フランスのINGルノーF1チームがセカンドライフ進出を果たしたのに続くものだ。
ルノー・イタリアのものは、サーキットのかたわらにショールームがあり、新型「トゥインゴ」が展示されている。
対するシトロエン・イタリアは、特別仕様車の企画でコラボレーションをしている人気FM局と共同で、「C1 Deejay」という島を作った。
ものは試しである。実際ボクも、「セカンドライフ」にアクセスし、自分のアバター(仮想人形)を使って、このフランス系両社の土地を訪ねてみることにした。
まずはルノーに飛ぶ。さっそくショールームの入口で無料配布の「マーク入りキャップ」と「ペンダント」をもらった。
その2点を自分のアバターに着用させてから、VIPサロン風の部屋がある上階に上がってみた。しかし、人影がない。
仕方がないので、次なる目標であるシトロエンの島へと向かった。
上空には、欧州専用のエントリーモデル「C1」が浮いていた。
ここでは「シトロエンの島に来るのに、ルノーグッズを身につけて来るな」と怒られた……というのは真赤な嘘である。
それどころか、こちらも他のお客がまったく見当たらない。時間を変えてアクセスしてみたが、やはり人の気配がない。
「三越 セカンドライフ店」の周辺には人がウロウロいたというのに、天下のルノー、シトロエンに人がいないとは。クルマファンにとっては、結構悲しい。
「セカンドライフ」で逢いましょう
心配になってきたので、周囲のイタリア人に「セカンドライフ」に興味があるか聞いてみることにした。セカンドライフのやり過ぎが祟り、本当の街を歩く自分も、気がつけば“アバター歩き”になっていた。
結果としては、ほとんどの人が「セカンドライフ」自体を知らず、逆に「それ何? 」と聞き返された。
ようやく土産物店の若旦那ドゥッチョがセカンドライフの存在自体を知っていたがアクセス経験はなく、
「本物のクルマを運転するほうが楽しいじゃん」と言ってのけた。
さらに、IT分野で働く友人マウリツィオでさえ、「忙しくて、アクセスしたことはない」と答えた。
ちょいと調べてみると、イタリアのインターネット人口は米国の6分の1だ。セカンドライフに必須のブロードバンド環境の普及率も10%に満たない。なるほど、これではいくら自動車ブランドが広告代理店とともにサーキットや島を作ろうが、人が見当たらないわけだ。
マウリツィオは言った。
「俺、セカンドライフ以前に、自分のファーストライフに問題アリだから」。
ファーストライフとは実生活のことであろう。
ちなみに、彼は47歳独身である。
せめて、人影がないのをいいことにルノー・セカンドライフ店で密会し、シトロエン島のビーチでデートできるアバター女友達が彼にできることを祈ろう。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=フィアット、フェラーリ、ルノー、シトロエン)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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