マツダMX-30ロータリーEV 開発者インタビュー
マツダブランドの象徴 2023.09.14 試乗記 マツダ商品開発本部 主査
上藤和佳子(うえふじ わかこ)さん
新型ロータリーエンジンを搭載する「マツダMX-30」の詳細が発表された。日本での正式名称は「MX-30 Rotary-EV(ロータリーEV)」。新しいパワーユニットの特徴と、ロータリー復活への意気込みを、開発に携わったキーマンに聞いた。
分類はあくまでPHEV
マツダの伝統工芸(?)ともいえるロータリーエンジン(以下、ロータリー)を発電専用として使うプラグインハイブリッド車(PHEV)として生まれたMX-30ロータリーEVの企画開発を担当したのが、主査の上藤和佳子さんだ。MX-30といえば企画開発から発売までをマツダ初の女性主査だった竹内都美子さん(現在は執行役員)がつとめたが、今は上藤さんがその後を継ぎMX-30プログラムを率いている。
「MX-30はマツダの電動化戦略をリードするモデルとして、マイルドハイブリッド車(MHEV)、バッテリー電気自動車(BEV)、そしてPHEVの3本柱を用意することは、早い段階から決まっていました。ですので、MX-30のプラットフォームの基本設計は他の商品群と共通ですが、床下にバッテリーを積むために専用に強化しています」
マツダがロータリーを発電に使う電動化モデル構想を明かした2018年当時、レンジエクステンダーEV(RxEV)、PHEV、そして通常のハイブリッド車(HEV)の3種類を開発するとしていた。そのなかで最初にカタチになったのが、ご覧のようにPHEVである。
2025年にはHEVも発売予定というが、いっぽうでRxEVについては2021年に「開発中止」とされたことが明らかになっている。RxEVとは、一般的にはエンジンがあくまで補助電源装置に徹するクルマのことを指す。さらに、バッテリーが底をつくまでエンジンは作動せず、燃料満タンでのHEV航続距離も、一充電あたりのBEVとしてのそれを超えてはならない……というのがRxEVの定義だ。
RxEVはもともと、米カリフォルニア州のゼロエミッションビークル法で、よりBEVに近い形態としてPHEVやHEVより優遇される形式として定義された。つまり、RxEVは技術的な必然性というより、政治的につくられた形態ともいえるわけだ。そんなRxEVは今や世界的にもうま味のある形態ではなくなっており、多くのメーカーが開発や販売から手を引いている。
繰り返しになるが、今回のロータリーEVも、エンジンが発電に徹するシリーズハイブリッドという形式はRxEVにも似るが、分類はあくまでPHEVである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
11年ぶりの復活となるロータリー
容量17.8kWhのリチウムイオン電池による一充電あたり航続距離は107km(WLTCモード、以下同じ)。対して、燃料タンク容量は50リッターあり、HEV走行時のカタログ燃費は15.4km/リッターだから、HEV航続距離は単純計算で700kmを大きく超える。つまり、PHEVであるMX-30ロータリーEVは、RxEVを生んだ国でもある北米には投入されない。
「このクルマは、現時点で導入を発表している日本市場と欧州市場のみで販売します。ほかの地域や市場での発売予定はありません」
MX-30の透視図を見ると、容量35.5kWhの電池を積んでいたEVモデルと共通の床下空間に、ロータリーEVはちょうど半分の電力量となる同17.8kWh電池と50リッターの燃料タンクがきれいにおさめられている。このあたりはいかにも初期設計段階からBEVとPHEVが想定されていたパッケージレイアウトだ。
「ただ、17.8kWhというバッテリーは単純にスペース的な問題でEVの半分にしたというわけではありません。開発にあたってはPHEVやBEVに乗られているお客さまの一日の走行距離を、マツダでも独自に調査しました。すると、9割以上のお客さまが100km以下であることが分かりました。ですので、これは9割以上のお客さまが普段はガソリンをまったく使わないピュアなBEVとして使えるためのバッテリー電力量ということです。
そのうえで、休日などには航続距離を気にせずに遠出していただけるように、あえて50リッターという大きめの燃料タンクを用意することにしました」
これ以前の最後のロータリー搭載車だった「RX-8」の生産が終了したのが2012年2月だから、じつに11年ぶりの復活となるロータリーは燃費や排ガスなどの環境性能で不利である反面、エンジン本体が小型で高出力なのが売りである。よって、このロータリーEVのように、効率のいい回転域に絞ることができて、同時に可能なかぎりコンパクトにおさめたいシリーズハイブリッドの発電用エンジンとしては、ある意味で好適ともいえる。
さらに「マツダの門をたたく大半の技術者の入社理由が、今もなお“ロータリーをやりたい”なのです」と上藤さんが明かすように、マツダにとってのロータリーはブランドを象徴する最大の技術遺産でもある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ゼロベースで新設計された「8C」型
MX-30に搭載される新開発ロータリーの型式名は「8C」という。元祖であるA型とも、また2~3代目「RX-7」やRX-8に積まれた「13B」とも別系統の新エンジンである。
そんな新型ロータリーについて語ってくれたのはパワートレイン開発本部ロータリーエンジン(8C)主査の富澤和廣さんだ。
「11年ぶりの量産ということで、史上最高のロータリーにしようと考えました。そこで、市販開始以降では初めてゼロベースで設計をし直しています。
ローターハウジングの形状をつくる創成半径も偏心量も、理想的な燃焼効率を求めてディメンションを新しくしました。この2つを変更したのは初代『コスモスポーツ』の『10A』型以来、量産エンジンとしては基本的に初めて。ひとつだけ1969年7月~1970年6月まで生産した『ルーチェロータリークーペ』用の『13A』型だけは例外なのですが、この生産台数は1000台に満たないので、量産とまではいえません。
新しいロータリーは最初のA系とも、その次の13Bともちがうディメンションなので、新たにCという型式名を与えました」
今回の変更では、ハウジング内をローターが回転移動する距離=創成半径は13B型の105mmから8C型で120mmへと長くなったのに対して、ローター幅(=ローター厚)は逆に80mmから75mmに縮小。これは一般的なレシプロエンジンでいえば、よりロングストローク型になったことと同義で、燃焼効率を引き上げることが最大の目的だ。
とはいえ、最新のレシプロエンジンと比較すると燃費が良いとはいえないのも正直なところ。それでも、HEV燃費は前記のとおり15.4km/リッターと許容範囲には達しており、レギュラーガソリン仕様なのも評価できる。
ロータリーは小型かつ高出力であると同時に、振動の小ささも利点だ。しかし、8C型はシングルローターで、従来の2ローターに対して振動成分が半分となり、不快な低周波ノイズになってしまうのが課題だったという。
そこで今回は新工法でローター加工精度を向上させるとともに、ローター1個ずつのバランスとり精度も従来型から75%も向上させた。また、パワートレイン開発本部の電気駆動副主査である星野 司さんは「8Cを搭載するロータリーEVでは最高でも4500rpm付近までしか使わないので、振動騒音には有利」と語る。ちなみにRX-8のレブリミットは9000rpmだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
こだわりのキーフォブ
デザインについてはほかのMX-30と大きな差はなく、エクステリアではフェンダーやリアに専用バッジがつく以外は、ホイールが専用デザインになるくらい。チーフデザイナーをつとめたのは松田陽一さんだ。
「ホイールはリム部分に段差をつけて、ディッシュタイプより軽量でありながら、空気抵抗を低減しているのが特徴です。この設計思想を取り入れたのは『CX-60』に続いて2例目となります」
さらに今回は特別仕様車として「エディションR」を用意。専用のルーフサイド色や随所のロータリー形状モチーフが特徴だが、もうひとつのこだわりがキーフォブという。
「エディションRはロータリーEVをつくったエンジニアたちのものすごい苦労を知って、なにか記念すべき表現をしたいという思いで企画したものです。じつはキーフォブの表面もエディションR専用で、新しい8Cのローター曲面と角となるアペックスシール部分の形状を再現しているんですよ」
なんというマニアなデザイン。ロータリーファンなら、このキーフォブのためだけでもエディションRが欲しくなりそうである。毎日ポケットに入れてなでているだけで、ロータリーの息吹をずっと感じ続けられるわけだ。
(文=佐野弘宗/写真=マツダ、webCG/編集=櫻井健一)
◆関連記事:マツダがロータリーエンジン搭載のPHEV「MX-30ロータリーEV」を発表
◆ギャラリー:マツダMX-30ロータリーEV/MX-30ロータリーEVエディションR
拡大 |
拡大 |
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
ポルシェ911ターボS(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.29 「ポルシェ911」シリーズのなかでも最上位に位置するモデル「ターボS」。ポルシェ独自のハイブリッドと2基の電動ターボチャージャーを得た最新モデルは、どのような走りを備えているのか? 最高出力711PSのハイパフォーマンスモデルの実力に触れた。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラP5ロングレンジ エレクトリック(RWD)【試乗記】 2026.9.28 ボルボの電動コンパクトSUV「EX30クロスカントリー」に、後輪駆動の特別仕様車「ウルトラP5ロングレンジ エレクトリック」が設定された。530kmの一充電走行距離と、600万円を切る599万円の車両本体価格を実現した新エントリーモデルの走りを報告する。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
NEW
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。 -
NEW
写真で解説する「スズキeスカイ」
2026.10.6画像・写真軽規格の新型電気自動車「スズキeスカイ」がデビュー。2026年10月6日に東京都内で発表会が開催された。スズキが総力をあげて開発したというニューモデルの見どころや、会場における社長の談話を紹介する。 -
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】
2026.10.6試乗記「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。 -
エンジンオイルは高価なものを使うべきか?
2026.10.6あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたう高価なエンジンオイルを使うと、どれほどの性能アップが期待できるのか? トヨタでさまざまな新車の開発に携わってきたエンジニア、多田哲哉さんに聞いてみた。 -
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.10.5試乗記今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。















































