メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)
雲の上の自由な世界 2025.10.27 試乗記 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。超高級車ならではのオーダー
ドイツ国際モーターショー(IAA)の取材でミュンヘンの市街地を散策していたら、高級ブティックが立ち並ぶ一角に、「Mercedes-Benz Manufaktur」と書かれた店舗というよりもラウンジのような雰囲気の場所があった。ここでは、メルセデスが展開するいわゆる個別オーダープログラムの「MANUFAKTUR」を体験できるそうで、実車や各種トリムの見本が置かれているだけでなく、バーチャルで自分の好みの仕様を仕立てて確認することができる。BMWのお膝元で堂々とこんなスペースを広げるとは、メルセデスもなかなか挑戦的である。
メルセデスはこのMANUFAKTURの本格的な運用を開始した。これまでは、一部のモデルに“designo(デジーノ)”と呼ばれる個別オーダープログラムが存在していたし、もちろんマイバッハなどでは顧客のさまざまな要望に個別対応してきた。また、ご存じのように「Gクラス」にはさまざまなMANUFAKTUR仕様のモデルがすでに販売されてきたという経緯がある。これらを整理してあらためて、メルセデスの個別オーダーシステムであるMANUFAKTURがスタートした。
経済的余裕が一般人の何百倍もある方のなかには「一番高いやつ持ってこい」のような豪快な買い物をする人もいるようだけれど、徹底的にこだわったひと品を求める人も少なくないようだ。ロールス・ロイスの本社にも個別オーダーに対応するスペースがあって、そこである日、身なりのいいご婦人がハンドバッグから一本のルージュを取り出して「これと同じ色に塗っていただけますか」と申し出たという。ロールス・ロイスはもちろんその要望に応えたそうだが、高額商品販売とはこうしたサービスがむしろ当たり前の世界でもある。最近、さらなる高級化路線への転向がうかがえるメルセデスだが、どうやら本腰を入れて取り組むことにしたのかもしれない。
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内外装色の選択肢が倍以上に拡大
MANUFAKTURはその気になればかなりの細部にわたって一つひとつを自由に選べるプログラムで、当然のことながら仕様によって価格も大きく変わってくる。そこで、ある程度の範囲と価格を設定した「MANUFAKTURエクスクルーシブ」というオプションが、メルセデスおよびメルセデスAMGのSクラス、そしてメルセデス・マイバッハのSクラスに新規設定された。
これは54色の専用外装色が145万円、25色の専用内装色が165万円(「S500 4MATICロング」は220万円、メルセデスAMG S63 Eパフォーマンスは「リアコンフォートパッケージ」との同時装着が必須)で選べるというもの。参考までに、今回の試乗車でもあるメルセデスAMG S63 Eパフォーマンスの標準モデルでは、無償の外装色が8色、有償が12色、内装色は5色しか用意されていないから、MANUFAKTURエクスクルーシブを選ぶと内外装色の選択肢がともに倍以上になる。
専用外装色の54色の内訳は、ソリッドが12色、マットが8色、メタリックが34色。もちろん、すべての色に名前がついている。外装色には、その色を調合するよりも大変ではなかろうかと思うほど斬新なネーミングがあったりして、個人的にはいつもついつい見てしまう。ちなみに、試乗車は「アイルランドミッドグリーンマグノ」で「マグノ」はマットカラーの意味。アイルランドにはきっとこんな色味の緑の風景があるのだろう。地名が入った名称はほかにも「コートダジュールライトブルー」や「ロッキーマウンテンダークブラウン」などがある。試乗車の内装色は「タバコブラウン」で、ナッパレザーステアリングにもこの色が使われている。
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高価格にも納得の極上の仕立て
アイルランドミッドグリーンマグノは太陽光の下で見るとマットの割に発色がよく、神々しい存在感を放っていた。つまりかなり目立つ。そもそもメルセデスAMG S63 Eパフォーマンスは縦のルーバーとスターマークを組み合わせたAMG専用のフロントグリルをはじめ、開口部の大きなエアインテークを配したフロントバンパー、21インチホイール、ディフューザーと4本出し角形エキゾーストパイプからなるリアエンドなど、ただならぬ雰囲気をまとっているので、それがこの外装色でさらにすごみを増している。
ドアを開けると「MANUFAKTUR」の文字が光るステップカバーに迎えられる。フロアマットもMANUFAKTUR用の毛足のちょっと長いカーペットのような質感だ。ハザードスイッチの下にも「MANUFAKTUR」のロゴが入っている。タバコブラウンは少し濃いめの茶色だが、ほかに7色も“ブラウン”と名のつく内装色があって、これは実物を見ないと安易に選べないだろうと思った。いっぽうでナッパレザーの質感は極上で、柔らかく触感も滑らかだ。自動車のシートに使うにはもったいないくらいの上等な仕立てである。
こういうクルマは内外装の色をああでもないこうでもないと悩んでいるときが一番楽しかったりすると、こういうクルマに縁のない自分なんかは思ってしまうのだけれど、実際のオーナーはきっと唯一無二の自分仕様と過ごす毎日を満喫されるのだろう。
MANUFAKTURエクスクルーシブというオプションが新たに設定されたこと以外、メルセデスAMG S63 Eパフォーマンスに特に大きな変更点はないけれど、せっかくなのであらためて試乗してみた。
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スポーツカーにも高級サルーンにも
このクルマのハイライトは車名の“Eパフォーマンス”が示すプラグインハイブリッド機構で、燃費より動力性能の向上を狙って開発された。最高出力190PS/最大トルク320N・mを発生するモーター、140km/hで切り替わる2段トランスミッション、後輪左右の駆動力配分を最適化する電子制御式LSDなどをひとつのハウジング内に収め、その上に容量13.1kWhのバッテリーを載せて、リアアクスルに設置されている。システム全体の最高出力は802PS、最大トルクは1430N・mという途方もないパワーを発生する。
サスペンションは「AMGライドコントロール+」と呼ばれるエアサスで、ドライブモードによってマウント内部の硬度を変化させるアクティブエンジンマウントや電動スタビライザーなど、電子制御デバイスが盛りだくさんのモデルである。右足に力を込めれば空恐ろしいまでの加速感が味わえるものの、それもわずか数秒のみ。すぐに法定速度に達してしまうからだ。おとなしく走っていれば、高級サルーンとしての快適性もきちんと担保されている。まさしく最強の二刀流である。
人間というのは時にワガママな生き物でもある。例えば外装色に落ち着いた色しかないと「黄色はないのか」「赤があればよかったのに」とないものねだりを言ういっぽうで、あまりにも選択肢が多すぎると途端に選べなくなってしまったりする。その昔、某メーカーのスポーツカーが東京モーターショーでお披露目となり、受注を開始した。内外装に選べる色をふんだんに用意したうえで、「ここにない色でもどうにかします」としたものの、ふたを開けてみたら約7割の顧客がモーターショーにディスプレイされていた個体とまったく同じ仕様を選んでいたそうだ。理由は「どう選べばいいか分からなくなってしまい、ショーと同じなら安パイだと思ったから」だそうだ。
日本人は自分が本当に好きな色ではなく、下取りに有利な色を選ぶ傾向も強いらしい。とても現実的でそれを否定するつもりはないけれど、クルマに使われる塗料や塗装技術も飛躍的進歩を遂げていて、新しい色が続々と登場している。もっと自由にクルマの外装色や内装色を選べばクルマへの愛着も増すだろうし、街の風景ももっと華やいだもの変わっていくに違いない。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1920×1515mm
ホイールベース:3215mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT<エンジン>+2段AT<モーター>
エンジン最高出力:612PS(450kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:190PS(140kW)/4450-8500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/150-4000rpm
システム最高出力:802PS(590kW)
システム最大トルク:1430N・m(145.8kgf・m)
タイヤ:(前)HL255/40ZR21 105Y XL/(後)HL 285/35ZR21 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:8.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:37km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:34km(WLTCモード)
交流電力量消費率:315Wh/km(WLTCモード)
価格:3799万円/テスト車=4732万2000円
オプション装備:MANUFAKTURエクスクルーシブ外装<アイルランドミッドグリーンマグノ>(145万円)/MANUFAKTURエクスクルーシブ内装<MANUFAKTURナッパレザー[タバコブラウン×ブラック]>(165万円)/リアコンフォートパッケージ(159万9000円)/AMGダイナミックパッケージ(162万1000円)/AMGカーボンパッケージ(143万9000円)/AMGナイトパッケージ(61万6000円)/Burmesterハイエンド4Dサラウンドサウンドシステム(95万7000円)/
テスト車の年式:2025年型
テスト車の走行距離:1829km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:113.7km
使用燃料:16.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
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