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自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方

2025.10.24 デイリーコラム 石井 昌道
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「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」

「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」という欧州連合(EU)の方針が、大きく揺らぎ始めている。欧州を代表する自動車大国のドイツが、明確に反旗を翻し、取り決めの見直しを検討することとなったのだ。

そもそもエンジン車の販売禁止を含む法案は、2021年に提案されたものだ。記録的な猛暑とともに、欧州でも急速に環境意識が高まっていた時期で、2015年にはパリ協定で「世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて+2℃より低く保ち、+1.5℃に抑える努力をする」という目標がたてられる。日本も2050年までのカーボンニュートラルを目指し、自動車については「2035年までにすべてを電動化」とした。しかしEUの目標はさらに野心的で、「2035年にCO2排出量ゼロ」という目標を提唱。これは電気自動車(BEV)か燃料電池車(FCEV)でなければ達成できないので、純エンジン車やハイブリッド車(HEV)といったエンジン搭載車の、実質的な禁止にあたるものだった。BEVシフトに積極的に動いたメーカーのなかには、これをゲームチェンジの機会と捉えたむきもあったが、取り組みが進んでいくほどに、その目標が野心的すぎることが見えてきた。

とくに自動車産業が盛んなドイツの訴えは強く、2023年にはEUも「eフューエルなどのカーボンニュートラル燃料を使用するものならば、エンジン車の販売継続を認める」と方針を転換。この2025年10月9日には、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した。BEVシフトの推進は望ましいが、自動車産業にはもう少し時間が必要だというのが本音のようだ。

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相。
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相。拡大

排ガス問題と燃費問題を同時に解決できるBEV

そもそも、今日にいたる世界的な環境規制のはじまりは、1990年代初頭にさかのぼる。国連が地球の気候変動を受けて枠組みをつくり、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出を抑えるよう、取り組みを始めたことに端を発しているのだ。

これ以前を振り返ると、1980年代までは自動車の環境性能といえば、それはほぼ排ガス性能とイコールだった。窒素酸化物による光化学スモッグの発生や、粒子状物質が引き起こす人の呼吸器障害などが社会問題となっていたからだ。これが1990年代後半になると、CO2排出量≒燃費も重要な問題となってくる。1997年にCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)が開かれて京都議定書が発効され、地球温暖化、CO2排出削減などへの関心が高まり始めたのだ。日本では同年に世界初の量産HEV「トヨタ・プリウス」が登場。2000年代に入ると、カタログに記載される燃費性能は販売を左右するほどの関心事となり、今では国内の乗用車販売の半数以上がHEVという状況になっている。

当時の様子を俯瞰(ふかん)すると、欧州ではクリーンディーゼル車の普及が目覚ましかった。排ガスに関してはやや不利なディーゼルではあるが、燃費はよかったからだ。対して北米は、燃費にはあまり頓着しないが、そのかわりに排ガス規制は厳しい。そして日本は、燃費と排ガスの両方を追うという構図だった。背景には、欧州では地球温暖化への問題意識が強いいっぽうで、日本と北米では光化学スモッグなどの公害が問題となっていたこと、加えて日本はエネルギー自給率が低く、省エネも重要な課題だったことなどがあった。

このように、各国(各地域)は「排ガスを浄化し、エネルギー効率(燃費)を高めていくのが理想である」という共通認識を持ちながらも、おのおのが抱えるエネルギーや経済、安全保障といった事情により、同じ山頂を違う登山道から登っている状況だった。そうしたなかにあって、各問題を一挙に解決できる手段として、BEVが注目されるようになったのは自然なことだろう。

自働車のCO2削減、燃費改善に関しては、長らく低燃費なディーゼルエンジンに頼ってきた欧州の自動車メーカーだが、2015年の「ディーゼルゲート事件」を受けて路線を変更。多くのメーカーが、一気にBEV化を推し進める姿勢を見せていた。
自働車のCO2削減、燃費改善に関しては、長らく低燃費なディーゼルエンジンに頼ってきた欧州の自動車メーカーだが、2015年の「ディーゼルゲート事件」を受けて路線を変更。多くのメーカーが、一気にBEV化を推し進める姿勢を見せていた。拡大

時には大風呂敷を広げることも必要だろうが……

現状は普及が踊り場に来ている感のあるBEVだが、環境負荷低減の一手として、大きな可能性を秘めているのは間違いない。走行中に排出ガスを発生せず、エネルギー効率でもICE(内燃機関)がせいぜい40%程度のところ、90%を超える効率を実現するという点は理想的だ。もちろん、バッテリーの性能やコスト、製造時の環境負荷には課題があり、また肝心の電気をつくり出すための一次エネルギーをどうするか? というのも大きな問題ではある。しかし、これらは技術が進歩し、社会制度やインフラが整えば解決できる課題だろう。長期的にみれば、BEVが乗用車の中心的な存在になっていくというのが、大方の見立てだ。

ただ重要なのは、そこに「長期的にみれば」というただし書きが付くことである。難しい目標に立ち向かうには大風呂敷を広げることも時には必要となるが、あまりに理想と現実とのギャップが大きすぎると、激しい摩擦が生まれる。BEV推進とエンジン車の実質禁止にまつわる欧州の現状は、それが端的に表れたものであり、軌道修正は避けられないだろう。現状では、2035年というエンジン車禁止の時期の後ろ倒しや、その撤廃も視野に入ってきているというが、代替として複雑なルールができて、また混乱を招くのではないかというのも心配なところだ。

(文=石井昌道/写真=IAA MOBILITY、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

EUの施策に呼応してBEVの拡販に取り組んできた欧州メーカーだが、その販売は予想通りには伸びておらず、むしろ安価な中国製BEVの進出を招くこととなった。
EUの施策に呼応してBEVの拡販に取り組んできた欧州メーカーだが、その販売は予想通りには伸びておらず、むしろ安価な中国製BEVの進出を招くこととなった。拡大
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