第23回:8月22日「再び西へ向かって」
2007.06.13 「ユーラシア電送日記」再録第23回:8月22日「再び西へ向かって」
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
日本を出発した時から通訳をつとめてくれたイーゴリさんに代わり、ネチャーエフ・アレクセイさんが、クラスノヤルスクでバトンタッチ。890km先のノヴォシビールスクへ。再び西へ走り出す。
通訳のアレクセイさんと再会
朝8時、「クラスノヤルスク・ホテル」のビジネスセンターに、バルティックラインズからのフェリー予約票が、ファクシミリで無事送られてきているのを受け取る。チェックアウトし、クラスノヤルスク空港に午前10時55分到着予定の「DD389便」でやってくる、ネチャーエフ・アレクセイさんを迎えに行った。
アレクセイさんとは、在日ロシア人のためのインターネットサイトの掲示板で知り合った。そこに英語で、「ボランティア通訳求む。あなたは自分の国を東の端から西の端まで体験したことがありますか? 日本語をブラッシュアップしながら、ともに西へ。経費とリターンチケットは全額当方負担。ただし、ギャランティなし」と書き込んだら、彼から返事が来たのだ。
クラスノヤルスクまでは、すでにイーゴリさんに担当してもらうことが決まっていた。メールをやり取りし、アレクセイさんには、ベラルーシとポーランドの国境まで担当してもらうことになった。
念のために国際電話をかけ、8月3日にウラジオストクで会った。彼はウラジオストクで、日本語の通訳・翻訳業を営む29歳だ。
クラスノヤルスク空港のターミナルビルではなく、ビルの横の通用口からゾロゾロ出てくるロシア人のなかにアレクセイを発見。3週間ぶりに握手をかわす。
すぐにカルディナで走り出す。今日の目的地は、890km先のノヴォシビールスク。幹線道路の「M53」は鏡のように凹凸やギャップが一切なく、快適この上ない。ロシアにこんなにいい路面があるなんて信じられない!
ロシアのカフェ事情
ロードサイドのカフェでランチ。時間がないのでピロシキか何かを買って、運転しながら食べようとしていたら、カフェのオバちゃんに「3分でできるから、食べて行きなよ」と勧められ、席についた。
ウズベキスタンのスパイシーラム入りスープヌードル(美味!)に、トマトとキュウリのサラダ。野菜に苦味と甘味がしっかりあって、うまかった。地元のハーブを漬け込んだ自家製ビネガーを足すと、美味しさ3割増し。3人で130ルーブル(約540円)。
ロシアのカフェは、日本でいう喫茶店や、最近のスカした店とは意味合いが違う。「食料品および雑貨店付きの大衆食堂」だ。メニューはハンバーグやチキンのもも肉焼き、鮭のムニエルやピカタなど、“大失敗しないモノ”で共通している。もちろん、ピロシキやボルシチ、ペリメニといったロシア名物も用意される。さらに、田舎ならば安く食べられるのだ。
カルディナは快調に走っていたが、120km前後からハンドルに強い振動が伝わってくるようになった。ホイールバランスの狂いが大きくなったのだ。
異常がでてすぐ先のアーチンスクという街の修理工場に駆け込み、フロントタイヤのバランスを取る。2本で30ルーブル(約120円)。
あとは、ただひたすら白樺林と牧草地と小さな村や町を通り抜けていく。小さな村の人々は、みな質素で小さな木造平屋建ての家に住んでいて、井戸で水を汲み、薪を焚いているところが多かった。道端で、子供たちがベリー類やキノコなどをバケツに盛り売っている。
極東地方と違うのは、湿地が少なくなったことだ。白樺の中に、松や杉も混じるようになった。
こんどは文字化け
暗くなった夜10時すぎに、ノヴォシビールスクの「ツェントル・ホテル」にチェックイン。ファサードとロビーは立派できれいだが、部屋は古くて貧弱だった。ベッドマットが擦りきれ、スプリングの頭が飛び出しそうになっている。シングルルーム1500ルーブル(6000円)は、不当に高い。
部屋の電話はダイヤル式で、コードが壁と電話機双方から“生えている”タイプ。見た瞬間から自分のコンピュータを接続する気も起こらず、電報電話局がある場所をフロントで聞いて向かった。インターネットコーナーがあり、iBookのLANコードをつなげてみたが、ダメ。電話線をつなげてダイヤルアップしてみてもダメだった。
ここのコンピュータで、Hotmailに転送されているメールを見ようとしたら、受信メールの送信人だけがアルファベットになっている。件名や本文は、四角いマス目“ロ”に全部化けていた。こういうこともあるんだ……。
ホテルに並びのファストフード式カフェで、遅い夕食を。ホテルに戻るが、お湯が出ないのでシャワーを浴びられない。クルマを運転しているだけなのに、体はとても疲れていた。倒れるようにベッドへ。
翌朝、フロントにお湯が出なかったことについて確認した。
「昨日の分のお湯が終わったからだ」
平然と、吐き捨てるように返された。こういうホテルは、早くチェックアウトするに限る。
(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

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