第39回:9月11日「ユーロトンネル」(前編)
2007.07.22 「ユーラシア電送日記」再録第39回:9月11日「ユーロトンネル」(前編)
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
ウラジオストクからロカ岬まで。「トヨタ・カルディナ」で、ついにユーラシア横断を果たした金子浩久。カメラマンと別れ、友人の待つロンドンまでパリ経由で向かう。「ユーラシア電送日記」のエピローグをおくります。
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都市の魅力
一足先に飛行機で帰国する田丸カメラマンをシャルルドゴール空港で見送ってから、カレーに向かう。ユーロトンネルを通ってイギリスに上陸し、ロンドンへ行くのだ。
パリからカレーまでは「オートルートA16号」を北上する。空港から「A1」でいったんパリ市内へ戻り、ペリフェリック(環状線)を西向きにすこし進んだところにA16につながるN1があるはずだ。そのあたりの様子は、一応すべてアタマに入れてある。外国を運転する際は、いつも出発前に道路図メモをつくるようにしているからだ。
しかし、それらしい標識が見つからない。然るべきところにA16ないしN1という標識が存在しないのだ。
ふたつの気持ちが交錯する。
「これはおかしい。どんどん遠ざかっていくから、いったんペリフェリックを降りて、反対車線に入り直そうか」そう思う一方で、対照的な考えもある。
「まあ、いいじゃないか。どうせ、ペリフェリックはグルグル廻って同じところに戻ってくるわけだから、このまま走り続けてみよう。こんなことでもないと、ペリフェリックを1周することなんて、ないんだから」
結局、後者の気分が勝り、走り続けることにした。渋滞気味のペースが、街並みや路上を観察するチャンスを与えてくれる。フランス的パリ的とはいいがたい、猥雑な一角などを偶然眼にすることができたりすると、とても得をした気になる。パリに限ったことではないが、中心部の観光スポットや有名なところばかりに足を運んでいたのでは、都市の懐の深さには触れることはできない。洗練と猥雑の絶対値が大きいほど、都市は魅力的になるのだ。
パスポートコントロールにて
A16は空いていた。ロシアの道路も空いていたが、この道もあまりクルマに出会わない。ゆるやかな起伏が続く土地がどこまでも続いていく。追い越し際に眼に入る、イギリスナンバーのジャガーやローバーが段々と増えていく。
カレーまでまだ20数kmもあるのに、A16が丘の頂きに達するところから、一瞬ドーバー海峡越しに対岸のイギリスが見えた。何の前触れもなかったので戸惑ったが、もう一度観てみたかった。サービスエリアを兼ねた展望スペースでもあるだろうと期待していたが、甘かった。現れたのは、「ユーロトンネル」と「フェリーおよびカレー市内」という標識だ。
トンネル方面に進んでいくと、通行料金支払いゲートだ。片道230ユーロ(約3万円)、往復 300ユーロ(約3万9000円)。ビックリするほど高い。昨晩、インターネットで読んだ数年前の値段は120ユーロ(1万6000円)と書いてあった。大幅値上げなのか、間違った記述なのか。ここで慌てても仕方がない。「ネットの情報は最後までよく吟味せよ」という教訓だ、こりゃ。もちろん、クレジットカードで支払う。ついでに、便を指定させられる。一番早い約20分後のを頼む。次にもうひとつゲートがあり、そこがフランスのパスポートコントロールとカスタムだった。複数列にクルマが並び、見ているとほとんどのクルマはパスポートを提示しただけで済んでいる。さすがに、練馬ナンバーと、汚れた見慣れないカルディナ(そう、ここまで来るとウラジオストクでは99%を占めていた日本車も超少数派だ)のせいだろう。めずらしく脇に呼び止められ、一通りのことを訊ねられた。
「どこから来たんだ?」
−−東京からです。
「で、このクルマはヨーロッパのどこで受け取ったんだ?」
−−東京から走ってきたんです。
「えっ! おまえが走ってきたのか」
−−もちろん。一緒だった友達はパリから飛行機で帰ったけど。
「気を付けて」
次に、イギリス入国のためのパスポートコントロールが控えている。
(文=金子浩久/2003年10月初出)

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最終回:「エピローグ」(後編) 2007.7.29 トヨタ「カルディナ」でユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。東京で旅行を振り返る。 海外での日本人職員の対応や、ロシアの現状について考える。
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