シトロエンC6 エクスクルーシブ (FF/6AT)【試乗記】
大型シトロエンの復活 2006.12.28 試乗記 シトロエンC6 エクスクルーシブ (FF/6AT)……682.0万円
2006年10月25日、大型サルーン「C6」がデビューし、新世代の“Cラインナップ”ができあがったシトロエン。ひと目でわかる奇抜なデザインが印象的だが、乗ってもほかと違うシトロエンらしさがあるのか。
存在の限りなき重さ
この「C6」ほど、いま周囲のフランス車ファンから熱烈な歓迎を受けているクルマもない。ルノーは「アヴァンタイム」で失敗し、大型の「プジョー607」は消えて「407」がトップモデルとなっている日本では、大型高級フランス車は壊滅状態だったからだ。
特に単にサイズがでかいだけではなく、優雅で贅沢な味わいを備え、デカダンな雰囲気さえ感じさせるのが戦前から続く高級フランス車の魅力なのだが、最近はそんなクルマは皆無になっていた。
そこに出たのがこのC6である。2900mmとフランス車の伝統どおり、長いホイールベースの上に乗ったボディのサイズは充分に大きいだけでなく、明らかに自分は自分なのだと大きな声で主張しているそのスタイリングがいい。
ダブルシェブロンを突き出させたノーズ、その横の鋭いヘッドランプから、商店街の街灯のようなテールランプに挟まれた逆反りのリアウィンドウに至るまで、全身でシトロエンのオーラを放っている。
「DS」「CX」「XM」と続いた大型シトロエンの復活に相応しい出で立ち、それだけでこのクルマの意味はある。存在価値は重い。
地の果てまで優雅に移動する
走ると典型的な大型シトロエンの伝統どおりだった。エンジンはあくまで裏方でちっとも面白くない。俊敏でもなければ、豪快でも全然ない。でも一旦走り始め、一定のペースにまで上がると、遙か彼方の地の果てまでをも目指すように、結構な速度で優美に移動する。あたかも二度と止まることなく、永遠を目指して走り続けるような、そんな移動物体になったとき、このクルマは最良の面を発揮する。
PSA系3リッターのV6はトルクはまあ必要なだけ程度、そして上まで回しても全然元気にならない。6ATのプログラミングも何となくしっくりこない。
だが、C6ドライバーは動力性能にはそれほど期待しないだろう。彼(女)が何よりも求めるのは快適性であり、それにはこのクルマは充分に応えてくれる。
まず全体的に静かだ。ボディの遮音性能が高いし、風切り音も巧みに抑えられている。そして最大の価値が乗り心地だ。足回りのシステムは、「ハイドラクティブ」から「ハイドロニューマティック・アクティブサスペンション」と呼び名こそ変わったし、前後のリンケージも「C5」とは多少異なり、さらにスプリングとダンパーを担当するガスとオイルが充満されたスフィアの数も増やされた。
これに助けられたC6は、クルマと道路の間に空気の膜か何かを入れて半分浮いたような感覚で、路面の凹凸も大きなうねりも無視するように走る。唯一このシステムが辛いのは、首都高速のつなぎ目に代表される鋭い突起を通過するときで、シトロエン特有のハーシュネスを感じさせる。シトロエンのエンジニアは、今でもサスペンションのコンプライアンスを入れたがらないのだろうか。
ステアリングは独特の反発を感じさせるが、これはすぐに慣れるし、クルマ自体のスタビリティはとてもいい。ストロークが少ないブレーキも、シトロエン特有のタッチで、これも慣れると使いやすい。
だから一旦C6に乗ると、いつまでも走り続けたくなるのである。
違っていることに価値がある
乗り心地とともに快適性に大きく貢献しているのが室内の設計である。単に広いというだけではない。もちろん各シートはサイズがたっぷりしているし、特にリアはフラットな床と座面位置が高く奥行きもあるクッションに助けられて、ここにいるととても気分がいい。
これに加えて室内デザインが人の気持ちをリラックスさせる。前のスカットルは現代のクルマとしてはかなり低く、サイドウィンドウ下端のラインとほとんど面一だし、そのベルトライン自体、今のクルマとしてはそれほど高くはないから、心理的にも広々と感じる。
試乗車は室内は主として黒でまとめられていたが、そこかしこに効果的にクロームが入っているのを見ているうちに、ル・コルビジエやマルセル・ブロイヤーらが造形した、バウハウス時代の家具を思い出した。
これらに加えて現代のさまざまなハイテク装備に満ちたC6は、ドイツや日本の高級車とはまったく違った世界を与えてくれる。この違っているということこそ、間違いなくこのクルマの最大の価値だろう。
(文=大川悠/写真=高橋信宏/2006年12月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.25 「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.2.24 ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。
-
NEW
3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。 -
NEW
F1で絶体絶命!? アストンマーティン・ホンダになにが起きているのか?
2026.3.3デイリーコラム2026年のF1開催を前に、早くも苦戦が伝えられるアストンマーティン・ホンダ。プレシーズンテストでの大不振はなぜ起きたのか? ここから復活する可能性はあるのか? 栄光と挫折を繰り返してきたホンダが、ふたたびF1で輝くために必要なものを探った。 -
NEW
電動式と機械式のパーキングブレーキ、それぞれメリットは?
2026.3.3あの多田哲哉のクルマQ&A一般化された感のある電動パーキングブレーキだが、一方で、従来型の機械式パーキングブレーキを好む声もある。では、電動式にはどんなメリットがあって普及したのか? 車両開発者の多田哲哉さんに話を聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.3.3試乗記「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。 -
第330回:「マカン」のことは忘れましょう
2026.3.2カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。JAIA(日本自動車輸入組合)主催の報道関係者向け試乗会に参加し、「T-ハイブリッド」システムを搭載する「911タルガ4 GTS」とBEV「マカン ターボ」のステアリングを握った。電動化が進む最新ポルシェの走りやいかに。 -
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】
2026.3.2試乗記ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。





















