メルセデス・ベンツE320 CDIアバンギャルド(FR/7AT)【試乗記】
ガソリンモデルよりメルセデスらしい 2006.12.26 試乗記 メルセデス・ベンツE320 CDIアバンギャルド(FR/7AT)……859万4565円
ついに日本導入を果たした、メルセデス・ベンツ「Eクラス」ディーゼルエンジンモデル。55.1kgmの大トルクを発生する新世代ディーゼルに試乗。その走りの魅力とは?
新世代ディーゼルの魅力とは?
ディーゼルについて、まず思い浮かぶのが燃費の良さ。よって経済性こそがメルセデス・ベンツ「E320CDIアバンギャルド」の最大のセールスポイントなのだ……というのは、実は多分間違っている。だってこの車両価格である。確かに高速道路主体であれば燃費はリッター当たり10kmを軽く上回るとは言え、大抵の場合は、「E300」でも買っておいたほうが手放すまでのトータルコストは安くなるに違いない。
ではこの新世代ディーゼル車、何が魅力なのかと言えば、僕は走りをこそ一番に挙げたいと思う。決してそれはマニアックなものではない。乗り込んでアクセルを踏み込もうとした時点で、まずは誰もがきっと、その圧倒的なまでに充実したトルクに驚きの声をあげるはずだ。
感覚としては、アイドリング状態から回転上昇を待つまでもなく即座にトルクがもたらされ、車体が前に進み出すかのよう。だから右足を深く踏み込むまでもなく、まさに踏み始めたその時点から違いがハッキリ認識できる。都心部を這い回るだけならペダルストロークの半分まで使うことすら滅多に必要とはならない。
大トルクで長距離移動も疲れしらず
メルセデスの巧さを感じるのは、こうして低速域から強力なトルクを発生するにもかかわらず、パワー感に粗野な部分がまったく無いことだ。ドンッと踏み込んでも突然の大トルクで盛大にホイールスピンが起こるなんてこととは無縁。大きな手で、しかし優しく押されるかのような加速を得ることができる。むしろ、時に7G-TRONICが引き起こす大きめのシフトショックのほうが気になるくらいである。
そうした特性は、高速走行時にも大きな味方となる。トルクがあるのでギアリングはかなりハイギアードな設定とされており、100km/h巡航時のエンジン回転数は1500rpmを下回るほど低い。それでも巡航にはまったく不足はないし、そこから加速しようという時にも、軽く右足に力を入れてやれば、キックダウンさせるまでもなくスルーッと速度が伸びていく。上り勾配に差し掛かった時なども同様。右足はそのままでも図太いトルクで速度を落とさず淡々と上っていってくれるのだ。
実はこの特性、運転の疲労度低減にも大きく貢献している。加減速が必要な時そして勾配に差し掛かった時、等々の身体の動きが最小限で済むので、距離が伸びても肉体的な疲労がとても小さいのである。何と大げさなと言われるかもしれないが、これは一度体験してみればハッキリとわかる。
考えてみれば、それはメルセデス全般に言える特徴でもある。穏やかなステアリング、フラットな乗り心地等々のおかげで、距離を重ねても肉体的な負担が小さくて済むのは、誰もが知るその美点だ。
新世代ディーゼルエンジンは、まさにそれにピタリと合致する特性を示している。つまり相性は抜群なのだ。DOHC4バルブの3.5リッターを積む「E350アバンギャルドS」などに乗ると、それはそれでスポーティで悪くないと思うが、どちらがよりメルセデスっぽいかと言えば、やはりこちらだろう。
スポーティ仕様じゃなければ
欲を言えば、これがアバンギャルド仕様じゃなければ、もっと良かったのにとは思う。
最近の日本のユーザーが求めるメルセデスはこういうものなのだろうし、E320CDIアバンギャルドもさすがその大トルクでスポーティな走りにだって十二分に応えてくれるのは承知しているが、それでも低速ではゴツゴツ感も目立つアバンギャルド仕様ではなく、よりしなやかな足まわりが与えられていたら、もっとそうした個性が際立ったのではないだろうか。
それでも、この最新鋭ディーゼルエンジンがメルセデスの個性に、まさにお誂え向きな組み合わせであることは間違いない。補機類が多いためエンジン周辺の重量が嵩み、アンダーステアが助長されたハンドリングも、そんなエンジンの特性には逆に合っている気すらする。
最初に書いたように価格は高く、『ディーゼル=経済性の高さ』という先入観のもとでは選ぶ理由はあまり無いかもしれない。しかし、そのほかでは決して味わえない力強さとドライバビリティ、好燃費によって実現された満タン無給油で1000km以上という長い航続距離、CO2排出量の少なさという意味でも、それでも敢えて今ディーゼルを選ぶに十分な理由と言える。
そして言うまでもなく、今やNOxやPMといった環境負荷だってかつてとは較べ物にならないくらい軽微なのだ。
何も我慢する必要はなく、堂々胸を張って乗れて、価格は高いのにそれでも敢えて選びたくなる。
鎖国状態が続いている間にここまで進化していたディーゼルの旨味を、持ち前のキャラクターと相まって濃厚に楽しませてくれるのが、このE320CDIアバンギャルドなのである。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸/2006年12月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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