フィアット復活物語 第14章「フィアットのカーザ(家)にようこそ! 巨大直営ショールーム訪問記」(大矢アキオ)
2006.11.18 FIAT復活物語第14章:「フィアットのカーザ(家)にようこそ! 巨大直営ショールーム訪問記」
■甘美な響き、そして現実
「ミラフィオーリ」。「アルカンターラ」と並んで、日本人エンスーにとっては、口にするだけで何やらイタリア語がウマくなってしまったような錯覚を覚える、心地よい響きである(ただし、アルカンターラは造語)。
1970年代後半に存在したフィアット131には、その名も「スーパーミラフィオーリ」というバージョンまであった。
トリノ西郊のミラフィオーリは、フィアット・オートの本社所在地である。併設する工場は、同社最大のファクトリーであるばかりか、イタリア中でも事実上最大級の工場施設である。
敷地内には立派な発電所も備えている。それは、余剰電力があると周辺地域に供給するくらいの能力をもつ。
しかし、実際の景観はというと、冒頭のような幻想とは程遠い。高いグレーの塀がえんえんと続いている。なかでランチア・テージス、アルファ166といったプレスティッジ・カーが生産されていることなど、微塵も感じさせない。
単調な塀の連続をときおり途切れさせるものがあるので何か?と思えば、人員削減に反対する労働組合の赤い垂れ幕だ。
そんな光景を見ながら信号待ちしていると、頼みもしないのに窓拭きがやってくる。そう、イタリア最大の工場とその周辺は、実は殺伐とした空気が漂っていたのだ。
■サッカー場14個分の自動車村
ところが、そのミラフィオーリに、ちょっとした“事件”が起きた。工場の一角の壁を取り壊し、直営のショールームが造られたのである。
題して「ミラフィオーリ・モーターヴィレッジ」だ。フィアットが変わりつつあることを、人々に知らしめるための発信基地だ。
セルジョ・マルキオンネ社長が企画の決断を下したのは、昨年10月。それから僅か6ヶ月でオープンに漕ぎ着けたのである。
わが街の駅は、2000年−聖年を記念して工事が始まったのに、まだ終わっていない。いや、一部は放置された気配さえある。それに比べて、モーターヴィレッジは、イタリアの奇跡ともいえる迅速さだ。それだけでフィアットが変わりつつあることを感じさせる。
総面積は7万平方メートルである。フィアットは、「サッカー場14個分」と紹介している。日本もそろそろ「東京ドーム○個分」をやめて、国技である「相撲の土俵○個分」というのは、いかがだろうか?
雑談はさておき、敷地内の見せどころは、やはりフィアット、アルファ・ロメオ、ランチア、そして商用車の全モデルを常時展示するショールームである。
実はそこだけでは、トヨタお台場メガウェブに明らかに負けてしまう感じなのだが、整備工場も備え、さらにディーラー向けのコンベンションホールや教育施設も併設されている。
納車ブースもあり、車種によっては、すぐ隣の工場で造られたクルマを受け取れる仕組みだ。
■イケアとのコラボレーション
「モーターヴィレッジ」では、イタリアのショールームとしては画期的なことをいくつも採り入れている。
まず年中無休であること。イタリアの一般的ディーラーは展示会のある日を除き、土曜午後と日曜はお休みなのである。
次に、「受付」を撤廃したことだ。イタリアで一般的な販売店には大抵、入口にデカい机が置いてあって、受付のお姉さんというのが座っている。
客はそこで、新車が見たいのか中古車が見たいのか、どんなクルマに興味があるのか告げる。すると、お姉さんが担当者を呼び出してくれる仕組みだ。
最近の日本の販売店の“トイレだけでもお気軽に”という貼り紙もどうかと思うが、マイバッハ買うんじゃあるまいし、なんとも面倒である。
それに対して、「モーターヴィレッジ」は、受付の机を取り除き、必要に応じてコンパニオンが案内したり、アンケートをとったりする形式に改めた。
「クルマをお買いにならなくてもいいから、どうぞカーザ(家)のようにくつろいでください、というコンセプトです」と、案内してくれたコッラード・ダンジェロさんは説明する。
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■お姉さんとお茶できる(かも)
ただし日本と比べて、依然足りないものがある。商談のとき出てくるお茶だ。そのかわりあるのは、併設の「カフェ・ミラフィオーリ」である。
外から覗いてみると、休憩中のコンパニオンのお姉さんたちも、お客と一緒にエスプレッソをイタリア式にグイッとひっかけている。
日本のショールームでは、到底お目にかかれない光景である。制服姿のミス・フェアレディやアムラックスミレルとお茶が飲めるなんて、あり得ない。
あるとき彼女たちに聞いたところ、「ショールームでは、たとえ知り合いでも個人的な話をするのはご法度」なんだそうな。
ミラフィオーリに、そんな固いムードはない。
こりゃ、取材を早く切り上げてお茶にしない手はない。
ところが、コッラードさんの熱心な施設概要説明が続いているうちに、お姉さんたちは仕事場に戻って行ってしまった。
ようやくボクがカフェに訪れた頃にいたのは、むくつけきオヤジスタッフたちだった。
彼らは「よッ、オレも日本デビューしたいよ。撮ってくれよォ」
とカメラの前にしゃしゃり出る。
どこまでもボクはついていない。
なお、「ミラフィオーリ・モーターヴィレッジ」のアクセスについては、現在発売中の『NAVI』12月号をご覧いただきたい。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2006年11月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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