クライスラー・ボイジャーLXプレミアム(4AT)【ブリーフテスト】
クライスラー・ボイジャーLXプレミアム(4AT) 2004.10.09 試乗記 ……390.6万円 総合評価……★★★ FFプラットフォーム、乗用車と同じサスペンションなどを採用した“元祖ミニバン”「クライスラー・ボイジャー」。本革シートなどを奢った上級「LXプレミアム」に、自動車ジャーナリストの生方聡が乗った。
![]() |
うかうかしてはいられない
フロントマスクが一新された2005年モデルの「ボイジャー」。大きさから想像するのとは裏腹に運転する楽しさがあり、相変わらず重厚で落ち着いた乗り心地が味わえるのがうれしい点である。
その一方、4820mmの全長にもかかわらず、ゆったり乗れるのはセカンドシートまでというのは、やや非効率といわざるをえない。かといって全長5110mmの「グランドボイジャー」を選ぶには、それなりの駐車場も勇気も必要だから、標準のボイジャーでも、大人6〜7人が窮屈に感じることなく座れるパッケージングが求められていると思う。その辺は日本のミニバンの得意とする部分だから、“元祖ミニバン”もうかうかしてはいられないはずだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1983年に北米でデビューした元祖ミニバン。2001年にフルモデルチェンジを受けて4代目に進化し、フロントフェイスが、十字グリルの“ダッヂ顔”から、格子模様の“クライスラー顔”に変更された。
2005年モデルは、内外装を若干変更。フロントグリルの上端にエンブレムを配した顔つきは、「PTクルーザー」や「クロスファイア」などに倣った、クライスラーのブランドアイデンティティを示すもの。4灯ヘッドランプは“涙目”タイプとなり、フォグランプは楕円から丸型化。フロントバンパーの形状も変わった。これにより、全長が10mm短縮され、ディメンションは全長×全幅×全高=4820(5110)×1995×1755mm(カッコ内は「グランドボイジャー」)となった。シート3列をカバーするサイドカーテンエアバッグが標準で備わるようになったのも新しい。
前輪駆動、7人乗り、右ハンドル、3.3リッターOHVユニット、4段AT、そしてホイールベース(2880/3030mm)といったクルマの成り立ちなど、ディメンションは大筋のところデビュー当時のまま。2002年モデルから、グランドボイジャーに4輪駆動モデル「リミテッドAWD」が加わった。
ラインナップは、ベーシックな「LX」と本革巻きステアリングホイールなどを奢った上級「LXプレミアム」、そしてホイールベースを150mmストレッチした「グランドボイジャーリミテッド」と、そのヨンク版「リミテッドAWD」の4車種。リミテッドには、3ゾーン温度感応式オートマチックエアコンディショナーや、リアゲートが電動で開閉するパワーリフトゲートが備わる。
(グレード概要)
ノーマルホイールベースの豪華版がLXプレミアム。LX比で、本革シートや前席シートヒーター、6連奏CDチェンジャー、インフィニティ製スピーカー×10など、装備が充実する。電動スライドドアや取り外し式センターコンソールなど、使い勝手も高められる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ベージュの文字盤に上品なフォントで描かれた数字、そして、クロームのリングが美しいメーターが印象的なボイジャーのメーターパネル。ウッド調のインストゥルメントパネル(オプション)も上質な雰囲気を盛り上げ、乗るものに安堵感を与えてくれる。
ボイジャーの装備のうち、特に便利なのが電動スライドドアと電動テールゲート。リモコンのスイッチで開閉できるので、荷物が多いときや雨の日などには便利であるが、日本車でもこれらの機構を採用するモデルが増えているため、もはや大きなウリにはならない。
(前席)……★★★★
LXプレミアムには、電動のレザーシートが標準で装着される。バックレストはレザーとアルカンターラのコンビネーションで、見た目にも快適そうで、実際に座ってみても快適。サイズに余裕がある。また、クッションが厚めなので座り心地がよく、それでいてサポートも十分である。
運転席に陣取って気になったのは、フットレストが用意されないうえ、センターパネルの張り出しが大きいため、左足の置き場に困ることだ。右ハンドル仕様ならではの悩みだろうが、この位置で長時間過ごすドライバーにとっては無視できないことである。
(2列目)……★★★
セカンドシートは左右独立のキャプテンシートで、その間に脱着式のセンターコンソールボックスが備わる。シートそのものは両側にアームレストがあり、リクライニング可能。座り心地は快適だし、レッグルーム、ヘッドルームともに大人でも十分なスペースが確保されている。
このレイアウトのままだとサードシートへのアクセスが面倒だが、センターコンソールを取り外せばウォークスルーは可能になる。セカンドシートも取り外すことができるので、いろいろなシートアレンジを選ぶことができる。ただし、外したシートはかなり重く、置き場に困るのも事実だ。
(3列目)……★★★
3人分のスペースが確保されている3列目はベンチシート。前後スライドやリクライニングは一体式で、大人が座るには一番後ろのポジションを選ぶ必要がある。つまり、荷室が浸食される。それでも足もとの余裕は乏しく、頻繁にサードシートを使うなら、ロングホイールベース版のグランドボイジャーを選んだほうがいいだろう。
3人がけの中央は3点式シートベルトとヘッドレストが備わるが、シートバックは平坦で、座り心地はあまり褒められたものではない。2人分と考えたほうがいい。
(荷室)……★★★
サードシートも取り外し可能で、外してしまえば広大なラゲッジスペースが生まれる。しかし、サードシートを使っている状態では、荷室の奥行きは50cm弱。たとえば6人で泊まりがけの旅行に出かける場面では、荷物の置き場に困ってしまうだろう。
大型のテールゲートは雨の日の荷物の積み降ろしなどには実に重宝だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
ボイジャーに搭載されるエンジンは、排気量3.3リッターV6 OHV12バルブ。なにやら古めかしい感じがするが、174ps/5100rpm、28.3kgm/4000rpmのスペックを持つこのパワーユニット、タウンスピードでは2000rpmの低回転でも十分なトルクがあり、アクセルペダルをじわーっと踏んでも、その期待に応えるように加速してくれる実用性の高さを誇る。
一方、高速道路の追い越しなどでも、100km/h以下であれば4速から2速までキックダウンさせることにより、必要なだけの加速を得ることができる。ただし、100km/hをすこし上回ると3速までしかギアが落ちないので、勢い不足を感じる場面もあるだろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
テスト車が装着していた215/65R16サイズの「グッドイヤー・イーグルNCT5」はやや硬い印象。荒れた路面などではショックを伝えることもある。一方、重厚な乗り心地や高速走行時のフラット感は、さすがボイジャーというべきである。
直進安定性に優れるおかげで、ドライバーにとって長時間の高速巡航は苦にならない。にもかかわらず、ステアリング操作に対し、クルマは素直に向きを変えるから、普通に走るぶんには大きなクルマを運転していることを意識せずに済むのがうれしい。
(写真=峰昌宏/2004年10月)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2004年9月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年型
テスト車の走行距離:4580km
タイヤ:(前)215/65R16 98H(後)同じ(グッドイヤー・イーグルNCT5)
オプション装備:--
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(4):山岳路(3)
テスト距離:284.8km
使用燃料:39.4リッター
参考燃費:7.2km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
スズキeビターラ
2025.9.17画像・写真スズキの電動化戦略の嚆矢(こうし)となる、新型電気自動車(BEV)「eビターラ」。小柄でありながら力強いデザインが特徴で、またBセグメントのBEVとしては貴重な4WDの設定もポイントだ。日本発表会の会場から、その詳細な姿を写真で紹介する。 -
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。