第101回:コンパクトSUV百花繚乱(後編) ―理由は“見た目”だけにあらず! 天下を制した人気者の秘密と課題―
2026.02.04 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
今や世界的にマーケットの主役となっているコンパクトSUV。なかでも日本は、軽にもモデルが存在するほどの“コンパクトSUV天国”だ。ちょっと前までニッチだった存在が、これほどの地位を得た理由とは? カーデザインの識者と考えた。
(前編に戻る)
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一番はやっぱり「ホンダ・ヴェゼル」
清水草一(以下、清水):渕野さん、国産コンパクトSUVのなかで、デザイン的に一番評価できるのはどれですか?
渕野健太郎(以下、渕野):自分は「ホンダ・ヴェゼル」だと思います。
清水:あ、それちょいデカいですけど、仲間に入れちゃうんですね。
webCGほった(以下、ほった):BセグSUVとCセグSUVの中間くらいのサイズなんですよね。でもOKでしょ。
清水:まぁ、あのデザインは確かに無敵だし、取り上げないのはもったいないもんね。
渕野:清水さんもおっしゃるとおり、ヴェゼルのデザインは、ホンダが今販売しているクルマのなかでも飛び抜けていい。すごくシンプルで、やりたいことが明快なんです。 SUVらしく、高い位置に軸がスパーンと通っていて、それに沿ってシルエットができている。ドア断面ひとつとっても、ピークが上のほうにあってボリューム感があります。見せ方もうまくて、タイヤはしっかり踏ん張っているし、特にリアの絞り込みなど、すごく正攻法なデザインをしています。それでいて、不思議なことにリアシートが割と広い。パッケージングも優秀だし、サイズより車格が高く見えます。
清水:昔のホンダ、たとえば初代「アコード」みたいな、知的なイメージが感じられますよね。決してオラつかず、スマートに流してる。
渕野:サイズ的にも、あのくらいが最適ですよね。私は今、スバルの「クロストレック」に乗っていますが、「アウトバック」のような大きなクルマからダウンサイズすると、東京都内ではこれぐらいがちょうどいいって思います。ヴェゼルが売れるのも分かります。
ほった:2025年の国内販売データを見ると、ヴェゼルは軽を除いた登録車で13位ですね。トヨタ系を除けば、コンパクトSUVではトップです。
清水:上にはトヨタの「ライズ」「ヤリス クロス」「カローラ クロス」がいるだけかな。
「ジムニー」兄弟がこんなに売れるなんて!
ほった:それにしても、こうして販売データを見ると、人気のコンパクトSUVでも、皆が皆、売れてるわけじゃないんですね。登録車のランキングでは、「ホンダWR-V」が27位、「レクサスLBX」が31位、「スズキ・フロンクス」が35位、「マツダCX-30」が40位、「日産キックス」が45位、「マツダCX-3」が50位。高級ブランドの品なのに、LBXは健闘していますね。
清水:ここでもトヨタの独走。
ほった:「ホンダZR-V」(32位)や「三菱エクリプス クロス」(49位)もいるけど……これはさすがに“コンパクト”とは呼べないかな。それと、実はコンパクトSUVのダークホースは「スズキ・ジムニー」の登録車なんですよ。
ほった:2025年12月の販売台数で、なんと14位! 4245台で前年比194.1%です!!
清水:えっ、そんなに!?
渕野:スゴいな。
ほった:ようやくノマドの納車が回ってきたんでしょう。
清水:受注も停止状態だったもんね。で、2026年1月30日に受注が再開されたみたい(その1、その2)。
渕野:やっぱり突き抜けてるクルマのほうが魅力があるんでしょうか。一般の方が家族でラダーフレーム車に乗るのか? っていう疑問が湧くんですけど(笑)、せっかくお金を出すんだから、なにか飛び抜けたものが欲しいってことかな。
ほった:今やそこら中を走り回っているので、もう「突き抜けた存在」といえるのかどうか分かりませんが(笑)。正直、先代のJB23/33/43の頃から追っかけている人間からすると、日本はどうなっちゃったんだと思いますよ。そこいらのマダムが普通にジムニーを運転していますからね。あの方たち、副変速機なんて死ぬまで触らないだろうに(笑)。
清水:オレだって触らないよ!
渕野:というか、まだ副変速機ついているんですか?
ほった:なにをおっしゃいます! ついてますよ! でもまぁ、排気量1.5リッターでレギュラーガソリン仕様、サイズも手ごろで気楽に乗れるっていうのが大事なのでしょう。皆、悪路性能なんて知ったこっちゃない(笑)。
清水:4段ATは燃費よくないけど、そんなこと問題じゃないよね。ただひたすらデザインの魅力で売れまくってる。
ほった:「人は機能でクルマを買っているんじゃない。デザインで買っているんだ!」。カーデザインの帝王、ハリー・アールの格言です。
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SUVが人気を博す必然の理由
渕野:個人的には、「トヨタ・シエンタ」をSUV化したのを見てみたいです。今のシエンタ、ものすごくいいデザインですが、よりラギッド(武骨)な方向のグレードがあればさらにユーザーの幅が広がりそうですけどね。トヨタはミニバンのSUV化にはなぜか手を出しませんけど。
ほった:そんなことしなくても売れているから、手を出さないのか。
清水:ホンダの「フリード クロスター」はイマイチだけどね。
ほった:ホンダは、後付けでSUV要素を盛ったような、“なんちゃって系”の車種が苦手ですよね。真面目すぎるのか、頼まれてもいないのに機能や用途まで考えちゃう。「ラゲッジで寝転がってください」みたいな提案もしてくるけど、みんなあまり乗ってこない。
清水:ホンダはそこ、微妙にヘタクソなんだよね。
渕野:軽自動車でも、スズキの「スペーシア ギア」や「ハスラー」、三菱の「デリカミニ」はSUV方向で成功しているけど、「N-BOXジョイ」の存在感はいまひとつですね。もっと普通に「ラギッドですよ!」というやり方のほうが、納得感があるんじゃないかな。
清水:ですねぇ。……それにしても、軽にまでSUVがあるんだから、これだけ小さいSUVが売れている国は日本以外にない。アメリカはもちろん全然だし、ヨーロッパでも、ここまで小さいのは少ない。
ほった:「フォルクスワーゲンTクロス」あたりまではいろいろありますが、それより下は、ほぼないですね。
清水:オレ、次はSUVに買い替えようかなって思ってるんだ。やっぱり年なんだよね……(笑)。背の低いクルマは乗り降りがキツイ。乗降性や実用性を考えると、背がちょっと高くて小さいのがベストなんだ。つまりコンパクトSUV。
渕野:分かります。私も今のクルマがクロストレックだから、たまに普通の車高のクルマに乗ると「こんなに低かったっけ?」って思います。ドアを開けて乗り込むときの姿勢とかで。そう考えると、シニアになるほどSUVがよくなる。高齢化社会のなかで、SUVはますます人気になるんじゃないでしょうか。
ほった:トヨタも「クラウン クロスオーバー」で、「SUVというわけじゃなくて、合理的にパッケージングしたらこうなりました」って言ってましたもんね。人間工学やらパッケージやらを考えると、むしろSUVやクロスオーバーのほうが、背の低いクルマより合理的だったりする。視点が高くて見晴らしもいいし。
渕野:合理的だから、結局便利なんですよね。
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もっと冒険したクルマが見たい!
清水:やっぱり「クロスビー」だな!
渕野:クロスビーがそこまで合理的かは分かりませんが。
清水:いやー合理的ですよ! んでデザインは個性的!
ほった:ワタシはレクサスLBXみたくぶっ飛んだ車種が、もう一台ぐらいいてほしいんですけどね。日本のコンパクトSUVって、みんなデザインのレベルは高いけど、微妙にコンサバなイメージがある。輸入車のほうが、数は少ないけど変なのが多いんじゃないかな。
清水:もうちょっとカワイイ系が出てきてもいい気がする。
ほった:ですね。単に丸目ってだけじゃなく、フォルクスワーゲンの「ID. LIFEコンセプト」みたいな、全体のカタマリ感を含めたカワイさがあるといい!
渕野:SUVに強さを求めている人と、そういうファニーな魅力を求めている人が両方いるから難しいんですよね。
ほった:ひとつのジャンルに2つも3つも車種を用意できるメーカーは、そうはありませんからねぇ。
渕野:それで、どうしても「SUV=強い」という記号があるから、威圧感のあるデザインにいきがちなんです。
ほった:うーん。最後に夢のない話になってしまった。やっぱりプロポーションから勝負しなきゃダメですよ! 日本のデザイナーさんはもっとぶっ飛んでほしい。北海道でホタテを食った長州力のように。
渕野:いやー、みんな割と堅実ですから(笑)。
ほった:マツダの新型「CX-3」、あるいは「CX-30」の後継車種に期待ですね。
清水:でも、あまりプロポーションで攻めるとパッケージがダメになっちゃうからなぁ。個人的には、コンパクトSUVは全幅1800mm超えちゃダメ! そこは守ってほしい。
ほった:ご自分はデカいのにさんざん乗ってるクセに(笑)。
清水:いやー、できれば昔ながらの5ナンバー順守でいってほしいよ。クロスビーを見習え!(笑)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、ステランティス、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、本田技研工業、三菱自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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