ホンダ・ストリームG (FF/CVT)【試乗記】
ミニバンの非常識 2006.09.20 試乗記 ホンダ・ストリームG (FF/CVT) ……257万2500円 フルモデルチェンジによりスタイリング、ハンドリング共に進化した「ホンダ・ストリーム」。背の高さを感じさせないスポーティな走りを手に入れた新型だが、乗り心地についてはまだ気になるところがある。上手いところを突いてきた
悩めるミニバンオーナーやオーナー予備軍にとって、新型ストリームの登場はまさに“上手いところを突いてきた”タイムリーヒットである。ホンダお得意の低床プラットフォームによりミニバンを背の高さから解放することで、スタイリッシュなフォルムを手に入れ、駐車場の制約を逃れ、さらにはスポーティな走りを手に入れた……というのだから。
実際、新型ストリームは、ちょっと背が高いステーションワゴンという感じの2ボックスデザインで、旧型にも増してミニバン色が薄まったのは確か。そして、全高を抑えたことにより、ほとんどの立体駐車場にアクセス可能になった。走りについては後ほど検証するが、コンパクトなミニバンを検討している人にとっては、食指を動かされるクルマであることは間違いない。
これがミニバン!?
そういう私自身もターゲットユーザーのひとりで、新型ストリームに対する期待は高く、試乗の日が待ち遠しかった。
今回試したのは2リッターエンジンを搭載する「G」のFFモデル。“プレミアムホワイト・パール”のボディカラーをまとうと実際の数字よりも大きく見えるが、もちろん全高はミニバンの常識を破る1545mmで、全幅も5ナンバー枠いっぱいの1695mmである。
さっそく運転席に収まるが、アイポイントの低さといい、そこからの眺めといい、まるでミニバンであることが感じられない。Aピラーを支えるサブピラーがないので視界もすっきり。唯一、ミニバンっぽさを感じさせるのがインパネシフトだ。
そのレバーをDに引き寄せて発進。ストリームは搭載されるエンジンによらず、FFモデルにはCVT、4WDには5ATが装着されるから、この試乗車はCVTということになる。ブレーキから足を離すとゆっくりと前進を始めるが、これまでのマルチマチックとは異なり、トルクコンバーターを備えるのが新しい点。発進時のスムーズさに加えて、低速でアクセルを踏み増したときにすうっと回転を上げるのは、CVTとトルクコンバーターのコンビネーションならではの感覚だろう。
この自在にギア比を変えるトランスミッションに、可変バルブタイミング・リフト機構と可変吸気量制御を備えた2リッターi-VTECエンジンを組み合わせたストリームGのパワープラントは、パートスロットル時には低回転を保ち、いざ加速が必要になればどの回転からでも素早く、しかも必要なトルクが得られるのが頼もしいところ。1380kgのボディに対し、最高出力150ps、最大トルク19.4kgmのSOHCユニットは十分余裕が感じられた。
走りっぷりも期待どおりで、やや硬めの乗り心地を示すストリームの足まわりは、背の高さを感じさせないロールを抑えた動きがとてもスポーティで印象的だ。ステアリング操作に対するレスポンスにも優れ、狙ったラインを軽快にトレースする様子もミニバンの枠を超えている。「ミニバンの走りはつまらない」という常識は打ち破られたといっていいだろう。
2列目、3列目は不満も残るが……
しかし、スポーティと形容されるセダンやステーションワゴンが抱える乗り心地の問題は、このストリームでも解決に至ってはいない。標準で205/65R15というそれほどの扁平率ではないタイヤを装着するわりに、路面が少し荒れてくると途端に乗り心地が悪化し、路面からのショックも伝え気味。首都高速の目地段差を通過するときなども、ハーシュネスを遮断しきれないことが多かった。これはセカンドシート、サードシートと後ろに移るにつれてさらに顕著になり、路面によってはリアからの突き上げも目立ってくる。
パッケージングについて、まずセカンドシートは、足元、頭上ともに十分な余裕があり、シートそのものの座り心地もいい。しかし、中央席はシートバックが硬く幅も狭いため、できることなら座るのを避けたいと思った。またサードシートは、セカンドシート下に足入れスペースが確保され、膝まわりにも余裕があるが、フロアから座面までの高さが限られるので、窮屈なのは否定できない。大人が乗れないことはないが、セカンドシートの中央部とともに、あくまでエクストラシートと考えたほうがよさそうだ。
それでも、普段はせいぜい3、4人乗車で、いざというときに7人が乗れるコンパクトミニバンがほしい人にとって、この新型ストリームが魅力的な選択肢であることに変わりはない。
あとは、もう少し乗り心地をコンフォート寄りに振ってくれたらいうことはないのだが……。スポーティさを前面に出したほうが“わかりやすい”というのも理解できるが、世の中には、快適であっても、退屈しないハンドリングを実現するクルマが存在することを忘れないでほしい。
(文=生方聡/写真=荒川正幸/2006年8月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。