ホンダ・ストリーム1.8X(FF/5AT)/2.0G(FF/CVT)/2.0RSZ(FF/CVT)【試乗速報】
簡単にマネできない 2006.08.05 試乗記 ホンダ・ストリーム1.8X(FF/5AT)/2.0G(FF/CVT)/2.0RSZ(FF/CVT) ……226万8000円/226万8000円/257万2500円 初代は思わぬライバルの出現で苦戦した、5ナンバーミニバンの「ホンダ・ストリーム」がフルモデルチェンジ。特にこだわったのはスタイリングといいつつ、ハンドリングもパッケージングもかなりの進化をしているという。3列目までキッチリと作られた
たたずむその姿に、いわゆるミニバンらしさは薄い。それは最近のホンダ車に多い、いかつい顔つきのせいでもあるし、むしろハッチバックの一種のような前傾姿勢で低く構えたフォルムに拠るものでもあるだろう。しかし、室内を覗けば3列シートがしっかり備わる。そう、これは紛れもないストリームの新型なのだ。
車高が低く見えるのは、実際に低いからでもある。多くの立体駐車場に入る1545mmの全高は、先代に較べて45mmのマイナス。しかし、最近のホンダ得意の低床技術によって、新型ストリームは居住性を逆に向上させている。フロアはサイドシルと接する部分まで凸凹をなくしてフラット化を図り、実質的な面積を拡大。3列目は座面位置を下げることで、ルーフを下げながらもヘッドクリアランスを確保し、さらに2列目シート下の燃料タンクを薄型化して足入れスペースを稼いでいるといった具合。そのパッケージングは隅々までキッチリ煮詰められている。
実際、従来は明らかに緊急用だった3列目も、新型では何も我慢せずに座っていられる。聞くと、シート座面の下側のボディは、クッションのたわみにあわせて凹んでいるのだという。快適性の追求も、それぐらいギリギリまで攻めているのだ。一方、普段は3列目は倒して使うという人にとっても、シートが左右分割可倒式となり、フルフラット化を可能にする座面の70mmのフォールダウンまで含めてワンタッチで可能なのは嬉しいポイントだろう。
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類いまれな剛性感
この土台であるボディの徹底的な作り込みは、ドライバーにも恩恵をもたらしている。まずは視界。ドア開口部の強化によって、ミニバンに多く使われ、視界悪化の原因となっているサブAピラーがなくなっているのだ。おかげで斜め前方の見切りは抜群に良くなり、おまけに見た目もスッキリ感が大いに高まった。
当然、走りにも貢献度は大きい。走り出した瞬間から、ボディの類いまれな剛性感はひしと伝わってくる。しかし、それは重厚感を伴ったものではなく、むしろカチッとしていながら軽快感に満ちている。実際、今時のクルマとしては珍しく、車重は先代より軽くなっているのだ。
そして、そこからステアリングを切り込むと、今度はそのきわめてリニアな反応に溜息が出ることになる。まさに切れば切ったぶん、鋭すぎもせず遅れ感が伴うこともなく、思った通りにレスポンスする様には、大げさでなく感動すら覚えるほど。それには高剛性のボディはもちろん、形式こそ先代と同じながら、全面的に見直しが図られた前後サスペンションも効いているに違いない。
グレードは1.8リッターと2リッターに、それぞれ15インチタイヤを履く標準のX、Gを設定。さらに両方の排気量で、精悍に仕立てた外観と17インチタイヤ、リアスタビライザーを持つRSZを選ぶことができる。フットワークの大まかな味付けは共通だが、15インチのほうはタイヤの鳴き出しが早くややグリップが足りない……というか、シャシーが勝ち過ぎという印象。特にリアの接地感は相当なものだ。17インチタイヤになるとグリップ力も上がり、もう少しフロントの入りが良くなるのだが、路面が荒れているとわずかに跳ねる感じもする。
しかし総じて、妙にシャープさを演出したものではなく、思う通りに動かせるという意味でのスポーティさと高い安心感をもたらす、上々のフットワークということができる。
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CVTの2.0Gがベストバランス
パワートレインは2リッターが7段パドルシフト付きCVTを、1.8リッターが5段ATを組み合わせる。好印象だったのは前者。エンジン自体は1.8リッターも軽快で悪くないのだが、常に有効なトルクバンドをキープしてくれるCVTは、上り坂でもストレスが圧倒的に少ない。Dレンジでもパドルを操作すれば一定時間マニュアル変速を受け付けてくれるのはありがたい。
そんな評価を総合すると、2リッター+CVTでタイヤは15インチの2.0Gがベストバランスと感じたが、20万円以上の価格差を考えれば、買い得感が高いのは1.8Xということになるだろう。いや、現行シビックには食指の動かない走り好きのホンダ党には、RSZも十分お奨めできる。
5ナンバーサイズボディの3列シート7人乗りというパッケージを、若々しい外観でまとめたスポーティなミニバンという大まかなコンセプトは、従来型とまったく変わっていない。しかしそれを具現する方法は、見た目にしろ中味にしろ、そして走りにしろ、すべて進化しているのが新型ストリームである。
その完成度は高く、不満点は外観、特に顔つきがもうちょっと大人っぽかったらな……という半ばいいがかり的なものくらいしか浮かばない。これなら今度こそ、ヨソに簡単に真似されて、ユーザーをかっさらわてしまうなんてことは起こらないはずだ。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎/2006年8月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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