ボルボV70R(4WD/6AT)【試乗記】
四駆だからこその「熱い走り」 2006.03.14 試乗記 ボルボV70R(4WD/6AT) ……772万7000円 驚異のスペックを誇る「V70R」は、700万円超という立派な価格を持つモデルでもある。ボルボの四駆システムが支える走りは、確かに熱く、鋭いものだった。「このボルボ、速いの?」
300ps/400Nm(40.8kgm)を発揮する直列5気筒2.5リッターインタークーラーターボ。1720kgという車重ではあるが、パワーウェイトレシオは5.7kg/psという驚異のスペック。数字だけを追いかければ700万円超級の価格にふさわしい内容と思われるが、実際はどうか。少し身構えながら「V70R」に乗り込んだ。
鮮やかなタンカラーのオプション内装に気圧されながら、チルトステアリングを合わせる。立体感に溢れるシートのシェイプ。ドアパネルのポケットにまで張り込まれるレザー。齢34歳、こういう演出に簡単にメロメロにされながら繰り出した第一印象は、肩すかしを食らうほどマイルドな普通のボルボであった。
「ところでこのボルボ、速いの?」というカメラマン氏の素朴な質問に、「きっと速いですよ」と答えながらアクセルを踏み込んでみる。瞬時に過給が立ち上がるハイプレッシャーターボは、平日のまったりとした高速道路の流れの中から、いとも簡単に我々を最前列へ押し出した。ただそれは“トルクの化け物”という感じではない。V6でも直6でも直4でもないフィールはまさに5気筒ターボとしか言いようがないもので、結構鋭い加速感を投げつけてくる。
自動車ライター生命が危うくなる
ここで6段ATのマニュアルモードをフルに使って駆け抜ければ、このボディサイズからは考えられないマジな走りができる。実際3段階に分けられるダンパーの「ADVANCED」モードを選べば、「ちょっとシュア過ぎない?」と思うほど鋭いターンインを見せる。代わりにその乗り心地もカートに乗っているかのようで、路面のアンジュレーションも大胆に拾うのだが。ちなみに制御が一番緩い「COMFORT」は、大人3人と荷物が少々載った程度ではダイアゴナルな挙動が顕著で、あまりコンフォートとは言えない。多分これは、この広いラゲッジを荷物で満載にしたときにこそ、ベストな乗り心地を発揮するのだろう。とにかくベストは真ん中の「SPORT」だ。
そんな熱い走りが可能になるのも、前述の1秒間に500回の頻度でセッティングを最適化するという可変制御ダンパー(オーリンズ/モンローが共同開発)と、4輪のトルク配分をフレキシブルに制御するAWDシステムのおかげ。現代の主流駆動方式となりつつあるAWDは、前後重量配分の偏りさえも超越するほどのスタビリティを実現させてしまう。もはやコーナーでのアンダー/オーバーを論じる必要性はほとんどない。今後僕たちは、その先に見えるライフスタイルの引き出しを持たない限り、自動車ライター生命が危うくなるだろう。
![]() |
![]() |
ハイトの高いタイヤが選べれば……
ただしこのV70R、ピュアな走りというには少しフィールが雑な部分も多い。これだけ緻密に制御されているダンパーも、その路面からステアリングに伝わる感触はザラつき感が残るし、エンジンにおいてもトルクは充分なはずなのに厚み感が足りない。ゆえに実際はその体躯のとおりに、パワーを活かして盤石な姿勢でクルージングするのがふさわしいはずなのだが、そうしても上質感がうまく感じられないのだ。
その理由のひとつはシャシーの旧さにあると思う。シャシー自体のレベルが極端に低いとは感じないのだが、235/40R18というタイヤが、微妙にその限界を伝えている気がする。もう少しハイトの高いタイヤが選べれば、自然と走りに余裕が生まれると思うのだが、適切なサイズのタイヤを、市場は許してくれないのだろうか?
そしてこのV70R、僕の場合、どう考えを巡らしても最後に行き着くのは729万円というプライスへの抵抗感だ。確かに価格に対する価値判断はそれぞれの生活に照らし合わせられるべきで、表参道ヒルズの住民にボクがいくらサミットでキャベツが安いことを教えても彼らは青山の紀ノ国屋へ行くだろう。つまりこの価格でV70Rをよしとする人がいるから、V70Rはカタログモデルにまでなったのだ。その希少性と人気が、この価格で均衡できるのである。確かに、それだけV70Rの見た目は抜群なのだが……。
(文=山田弘樹/写真=高橋信宏/2006年3月)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。