ダイハツ・アトレー・ワゴン カスタムターボRS(2WD/4AT)【ブリーフテスト】
ダイハツ・アトレー・ワゴン カスタムターボRS(2WD/4AT) 2005.08.29 試乗記 ……151万2000円 総合評価……★★★★ ダイハツの軽乗用車「アトレーワゴン」がフルモデルチェンジされた。商用車譲りの積載量をウリとする、セミキャブオーバー型ワゴンの使い勝手はどうなのか?
|
居住性だけでは物足りない
ムーブというれっきとした乗用車があるにもかかわらず、アトレーワゴンのような軽商用車ベースのモデルが用意されるのは、この圧倒的なスペースユーティリティに魅力や意義を見出す人が、相当数いるということなのだろう。
そのパッケージングは、まさに軽規格の限界に挑戦しているようだ。前席は何と従来モデルよりも前に出され、2015mmという驚異的な室内長を確保。一方、居住性を確保するために着座位置を低めてAピラーを起こし、ボディ構造を見直して衝突安全性も確保したというのだから、その徹底ぶりには脱帽である。
実際、居住性と使い勝手には文句の付けようがない。ディスチャージヘッドランプもキーレスエントリーも標準とされるなど、装備も充実している。
しかし、どこか物足りなさを感じるのは、クルマにとって大切な“走り”に、歓びが欠けているからだ。そういうクルマじゃないだろうって? いや、そんなことはないだろう。本当に優れた道具なら、目的などなくても使っていて嬉しくさせるものでなくては。
ご存じの通り、輸入車には商用車をベースとしながら、そうした味を持つモデルが存在する。日本の軽にだってできない相談ではないはずだ。
|
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
軽商用車「アトレー」をベースに、乗用車版としたセミキャブオーバー型のワゴン。商用譲りの積載性をレジャーなどに振った、4人乗りの軽自動車だ。2005年5月にフルモデルチェンジされた現行型は、エンジンをターボユニットのみとし、4段ATが組みあわせられる。グレード構成は、2WD、4WDそれぞれに「カスタムターボR」と「カスタムターボRS」の2グレード。
(グレード概要)
テスト車の「カスタムターボRS」は、多くのメッキパーツを内装に用い、ルーフスポイラーやディスチャージヘッドランプ、13インチアルミホイールなどを装着した上位グレード。半ドア状態から自動的にドアが閉まる「左側イージークローザースライドドア」は、このグレードにのみオプション装着できる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ホワイトダイヤルの単眼メーターを正面に据えたインストルメントパネルは、細部に至るまでなかなか凝ったデザインで目を楽しませる。オーディオやダイヤル式の空調など操作系は手の届きやすい高い位置にあるし、カップホルダーや収納も充実。ちょうどドアミラーの裏側に当たる部分に備えられたカードとペンのホルダーも気が効いている。総じて使い勝手には高い点数をつけられる。
テスト車に装着されていたMOMO製革巻きステアリングはオプション。径は小さくエアバッグ部分もコンパクトにまとめられているから、標準のウレタン製と直接比較はしていないが、おそらくは手応えの向上に貢献しているはずだ。チルトやテレスコピックなどの調整機構はもたないが、ポジションに不満を覚えることはなかった。インパネセンターシフトとされたATの操作性も文句無い。ただしペダル、特にブレーキはサイズが小さ過ぎる。雨の日など滑って踏み外しそうだ。
(前席)……★★★
抑えられたフロア高と、真下にエンジンを積んでいることを考えると、これも低めの着座位置のおかげで、乗り降りは容易だし無用な腰高感は覚えないですむ。グラスエリアが広いこともあって開放感は高く、居心地は良い。特に足元スペースの余裕が、そんな印象を強めている。特に、足踏み式パーキングブレーキの採用が左右方向の余裕に繋がっているようだ。ただし、着座位置がかなり前寄りということもあってさすがに奥行きは乏しく、運転中にも爪先や脛がパーキングブレーキペダルに触れることがあるのは気になった。
シートはベンチ式とされており、おかげで横方向にもサイズは十分。一方、最初は心地よい柔らかなクッションが身体をしっかりホールドしてくれないため、すぐに疲れが出てしまった。一般的な軽自動車なら街乗り中心ということで許されるのかもしれないが、アトレーワゴンはきっと家族や仲間でレジャーや小旅行にも出掛けるクルマのはず。もう少し、そうした使い方に合った設定を考えるべきだだろう。
(後席)……★★★★★
アトレーワゴン最大の特徴は、この後席。とにかく広くて、軽自動車であることを忘れてしまう。大人2名が単に座れるだけでなくゆったり寛げる。180mmのスライド機構を駆使すれば、足を組むことだってできるほどだ。
シートのサイズも健闘している。折り畳んだときに床下に完全に収めるために背もたれの高さは若干短かめだが、2名乗車と割り切れば左右方向にはたっぷりとした余裕があり、不満を感じさせない。
この広さを実現できた秘密は、2015mmという軽自動車最大級の室内長。軽規格ギリギリの全長は3395mmである。パッケージングの追求には執念のようなものすら感じられる。
なお左右の大開口のスライドドアには、左側のみ半分まで閉めればあとは自動で最後まで閉めてくれるイージークローザーもオプションで装備できる。贅沢? いや、これだけの空間が用意されているのだ。そのぐらい付いていても不相応ではないだろう。
(荷室)……★★★★★
乗員空間の広さからも想像できるが、ラゲッジスペースもやはり相当に大きい。何と左右分割式の“イージー格納リアシート”を畳まなくとも(!)、後席を一番前までスライドさせるだけで容量は1116リッターにも達するというから言葉を失ってしまう。言うまでもなく、これは軽自動車では最大である。
容量があるというだけでなく、使い勝手も良さそうだ。スクエアなボディ形状そのままにトリム類の張り出しは最小。天地方向にも相当な余裕があるし、フロアも隅までフラットだ。リアシートは、座面を沈み込ませてから背もたれを前倒しする方式のため、格納時にもほぼフルフラットと呼べる状態となる。リアゲートの開口部も大きく、またバンパーレベルも非常に低いから重い荷物の出し入れも難儀することはなさそう。空間を余すことなく使い切ることができるはずだ。
さらに、フロアとリヤシートの背面には防水/防汚処理も施されている。アウトドアなどで重宝するだろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
最高出力64ps、最大トルク10.5mkgと、スペックは軽自動車としてはほぼマキシマム。とはいっても車重が1010kgにも達するだけに、動力性能は期待できないかと思いきや、高速道路を含めた試乗でも、走りは想像以上に活発なものだった。
アクセルを踏み込むと、2500rpm前後からターボらしいトルクの上乗せ感があり、気持ち良く速度を高めていく。トップエンドは7000rpm近くまで回るが、そこまで引っ張る意味はない。つまり全開にしなくても、動力性能は十分ということだ。よって4段ATも普段はDレンジに入れっぱなしでよく、事実試乗中は、街なかですらオーバードライブも切らずにすんだ。人も荷物もたくさん乗せるクルマとして、こうした特性は嬉しい。
難癖をつけるとすれば、ロードノイズがよく遮断されているせいで、3気筒のエンジンサウンドが耳につきやすいというあたりか。しかし、それは些細なことである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
乗り心地はどこにもトガッたところはないが、懐の深さのようなものも求め得ない。ストローク感がないのはまあ仕方ないとしても、減衰の滑らかさだとか骨格の骨太感だとかいったものは、もう少し感じさせてくれてもいい気がする。現状は、当たりは柔らかいけれど、全体にパサパサに乾いたような手応え。商用車ならともかくワゴンなのだから、走りの質感にもコダワリを見せてほしい。それは足まわりだけの問題ではなく、ステアリングをはじめとする操作系の剛性感などにも起因するのだろう。
そうしたフィーリングの面はともかく、ハンドリングそのものは落ち着いている。高速道路の導入路などでも、背の高さから来る不安感はないし、また高速巡航中の直進性もキッチリ確保されていた。もちろん、街なかや路地での取り回し性は抜群。総じて機動力は結構なレベルにあると言える。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2005年8月10日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:3074km
タイヤ:(前)165/65R13(後)同じ(いずれもヨコハマASPEC A349)
オプション装備:リミテッドパック(左スライドドアイージークローザー+荷室蛍光灯+荷室アクセサリーソケット+CD/MDラジオ付きステレオ)=4万2000円/MOMO革巻ステアリングホイールト=4万2000円
走行状態:市街地(6):高速道路(4)
テスト距離:197.8km
使用燃料:26.2リッター
参考燃費:7.5km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
-
NEW
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか? -
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。


































