日産キューブキュービック 15M(FF/CVT)【ブリーフテスト】
日産キューブキュービック 15M(FF/CVT) 2005.07.20 試乗記 ……204万8650円 総合評価……★★★★ 大ヒットコンパクト「日産キューブ」シリーズ。3列シート版「キュービック」や1.5リッターモデルとバリエーションも増えた。街でよくみる“売れ筋モデル”キュービックの1.5リッターモデルに乗った。まさに“横綱相撲”
日本の道を走っていて、キューブとキューブ キュービックを見ない日はない。とにかくこのクルマは売れている。デビューから3年たった今でも、1〜1.5リッタークラスのミニバンではもっとも登録台数が多い。トヨタやホンダもライバル車を出したが、かなわない。圧勝である。
クルマというより、ミッドセンチュリーの家電製品を思わせるこのデザインが、はたして受け入れられるのかとデビュー当時は思ったが、ユーザーは喜んでこのフォルムを受け入れた。日本のユーザーは保守的だといわれるが、すくなくともデザインについては、そうではないことが証明された。
おまけに使い勝手も高レベル。つまり工業デザイン的に優れているともいえる。昔からの自動車好きについては、いまひとつなじめない形かもしれないが、ある意味で実用車の理想形といえるかもしれない。
ここまでコンスタントに売れていると、マイナーチェンジの必要などないんじゃないかと思えるが、日産はごくごく控えめなフェイスリフトとともに、メカニズムに手を入れてきた。ティーダやノートでおなじみの新世代1.5リッターエンジン「HR15DE」を積んだのだ。
これはとくに、 キューブキュービックにとってありがたい。2年前に追加された当時は、170?長く100?重いボディを持つにもかかわらず、パワートレインはキューブと共通だった。試乗すると、「もうすこし元気があれば……」という思いを抱くことがあった。でも1.5リッターならそんなことはない。
しかも電動パワーステアリングのヘンな癖が弱められているなど、それ以外のメカニズムも着実に進化していた。人気のデザインには手をつけず、中身をブラッシュアップする。まさに“横綱相撲”。しばらくは、路上でキューブとキューブキュービックを見かける機会が減ることはないだろう。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
マーチをベースにしたコンパクトクラスのハイトワゴンで1998年2月に誕生。現行モデルは2002年10月に一新された2世代目である。2003年9月にバリエーションが追加され、3列シート7人乗りバージョン「cube³」(キューブキュービック)を発売。いわゆる“団塊ジュニア世代”をメインターゲットに、日常のアシとしての取りまわしのしやすさと、いざというときに7人乗せられるという便利さをセリングポイントとする。
ホイールベースが170mm延長され、延びた部分に2人がけ(緊急用!?)シートがくっついた以外は、基本的にキューブと同じ。全長×全幅×全高=3900 ×1670×1645mm、ホイールベース2600mm。特徴的なリアの左右非対称デザインやルーミーな車内もそのまま。パワートレインは1.5リッター直4(98ps、14.0kgm)+4段ATまたは6段マニュアルモード付き「エクストロニックCVT」で、前輪駆動となる。
セカンドシートは、座面を前に跳ね上げてシートバックを倒す6:4分割ダブルフォールディング機構付き。サードシートは、背もたれに連動して座面が沈み込み、畳むとフラットな荷室が出現。セカンドシートを倒し、サードシートに脚を伸ばして座れる「オットマンモード」などは、キュービックならではの機能だ。
現行モデルは、2005年5月にマイナーチェンジを受けたもの。内外装の変更に加え、「ティーダ」や「ラティオ」に搭載される1.5リッター「HR15DEエンジン」を新たに採用。従来からの1.4リッターには4AT を、1.5リッターには4ATかエクストロニックCVTを組み合わせた。さらに「キューブキュービック」に電気式四輪駆動「e・4WD」を設定したことも新しい。
(グレード概要)
キューブキュービックは、1.4リッターモデルが「14S「と「14RS」の2種類で、いずれもFF。1.5リッターは「15M」「15RX」に加え、「15M プレミアムインテリア」なる上級グレードと、e・4WDバージョン「15S FOUR」「15RS FOUR」が用意される。テスト車は「15M」にプレミアムインテリアと同等のオプションを奢ったモデルだ。
キュービックシリーズは装備に大きな差はななく、“プレミアム”はシルキースエードシートやオートライト、本革巻3本スポークステアリングを装着することなど。インテリアがゴージャスに仕立てられる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ローマ字のPをかたどったインパネは旧型と同じ。レバーやスイッチの配置も今までどおりだが、よく整理されていて、分かりやすく扱いやすい。収納スペースでは、とくにインパネの下にある棚が使いやすかった。立ち気味のウインドスクリーンがもたらす開放感と、その向こうに見える四角いボンネットを頼りにした車両感覚のつかみやすさは、数ある市販車の中でも最高レベルにある。
(前席)……★★★★
なによりも乗り降りがしやすい。絞り込みのないボディサイドと、出っ張りを抑えたサイドシルのおかげだ。2人掛けながらベンチタイプとしたシートは、座面も背もたれもふっかりした感触で、1時間程度の試乗では心地よさだけが残った。中央部の溝は、カードやCDケースを挟めて便利だ。
(2列目)……★★★★
スライドとリクライニングが可能。いちばん後ろまでスライドさせれば、身長170cmの人間が前後に座ったとき、ひざの前に約15cmのスペースが残る。座面はやや短いが不満を持つほどではなく、背もたれは立体的で、上体をしっかりサポートしてくれる。ヒップポイントは前席より少し高いので、見晴らしもいい。ただしサイドウィンドウがスモークになるので、けっこう暗い。
(3列目)……★★
メーカーが主張するように、あくまで折り畳みを前提にした補助席。2列目をいちばん後ろに下げるとレッグスペースは皆無になり、前にずらしてようやく足が入る。頭上は余裕があるが、ヘッドレストは身長170cmの自分の頭の高さまで伸びなかった。シートサイズは小さく、座面も背もたれも薄くまっ平ら。30分ぐらいなら我慢できるというところか。ただし全長4m以下のクルマに、合法的な3列目シートを用意しているという点では評価できる。
(荷室)……★★★
3列目を立てた状態では奥行きはほとんどないが、それにケチをつけるのはお門違いというもの。それを示すように、3列目はワンタッチ操作でフラットに折り畳め、奥行き1mほどのスペースが出現する。ヘッドレストをはずさなくても畳めるようになると、さらにいいだろう。セカンドシートもほぼ同じ高さでフラットに格納できる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
新たに搭載された1.5リッターエンジンは、1.4リッターと比べるとパワーで11ps、トルクで1.1?mのアップになる。1.4リッターのキューブ³は、ちょっと急ぎたいときにはアクセルを床まで踏み込み、回転を上げ気味にする必要があった。その点1.5リッターは、ほとんどのシーンで右足に余裕を残し、ほぼ3000rpm以下キープで走れる。加速のスムーズさは1.4リッター時代よりさらに上という印象で、CVTとしてはトップレベルの完成度ではないかと思う。気になるのは音で、同じエンジンを積むティーダは驚くほど静かだったのだが、こちらは3000rpmあたりから上でブォーンという音が室内に響いてくる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
サスペンションは旧型より少し硬められているようで、低速で路面の荒れたところを通過するとゴツゴツ感が伝わってくる。ただし不快に思えるほどではなく、速度を上げればゴツゴツ感は消えてちょうどよい乗り心地になる。ステアリングは電動パワーアシストの癖が弱まり、自然なフィーリングに近づいている。クルマのキャラクターを尊重(?)して街なかでの試乗だったので、ハンドリングをじっくりチェックすることはできなかったが、ステアリングを切ったときのロールが今までよりも抑えられていることは確認できた。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2005年6月22日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:1162km
タイヤ:(前)175/60R15 81H(後)同じ
オプション装備:キセノンヘッドランプ+オートライト+フロントフォグランプ+プラズマクラスターイオンフルオートエアコン=13万6500円/インテリジェントキー+シンプルナビゲーションシステム(CD一体AM/FM電子チューナーラジオ)=15万7500円/15インチアルミホイール=7万3500円/シルキースエードシート=5万2750円/フロアカーペット=2万4000円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6):高速道路(4)
テスト距離:151.8km
使用燃料:16.3リッター
参考燃費:9.3km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。






























