フォード・フィエスタST(FF/5MT)【試乗記】
意外におやじキャラ 2005.05.26 試乗記 フォード・フィエスタST(FF/5MT) ……252万円 「ST」はSports Technologyを表す名前。「フォーカスST170」「モンデオST220」に続き、「フィエスタ」にもSTの名を冠するモデルが登場した。エンジニア集団「フォード・チームRS」が初めて送り出すホットモデルに、NAVI編集委員鈴木真人が乗った。GHIAの唯一の不満点
「フィエスタGHIA」でロングドライブを楽しんだことがある。東北自動車道をひたすら北へ向かうと、山の緑が濃くなってくるあたりから気持ちのいい中高速コーナーが連続する。こういう道を走っていると、フィエスタのよさが存分に発揮されるのだ。ステアリングをきっただけ正確に曲がっていくというだけのことなのに、それが快感につながるという経験にはめったに出会うことはない。街中で普通に交差点に入っていくときでも、シャシーの剛性感を全身で受け止めながら曲がっていくのだ。日常的な動作が気持ちいいというのは、ごく普通に使うクルマにとっては美点であろう。
しかし、フィエスタGHIAには大きな不満もあった。トランスミッションが、4段ATしか用意されていないことである。マニュアルモードもついていない。ちょっとスポーティな走りをしたいとき、これでは少々興ざめなのだ。ワインディングロードの下りなど、Dレンジでは4速のままなのでブレーキを酷使してしまう。せっかくシャシー性能の見せ所なのに、もったいないったらない。
5割増しの150馬力
だから、このフィエスタのSTモデルには大きな期待をしていた。なによりも、トランスミッションが5段MTだというのがうれしい。そして、ベースモデルが100psの1.6リッターエンジンを搭載しているのに対し、ぴったり5割増しの150psを2リッターエンジンから引き出しているのだ。サブフレームとサスペンションを強化し、ホイールを14インチから16インチに大径化するなどして、さらにハンドリング性能の向上を図っているという。これだけのスペックを並べられれば、自ずと期待は高まらざるを得ない。
インテリアも特別なものだ。シートはブラックのレザーとブルーのファブリックの組み合わせがスポーティな雰囲気を醸し出し、シートバックとステアリングホイールにはSTのロゴが赤く輝いて、このモデルが特別であることを主張している。
イグニッションキーをひねると、太く勇ましいエンジン音が車内に充ちわたる。少々ラフながら、なんだか気分の高揚する音だ。アルミ調のシフトノブを1速に入れて発進すると、おお、さすがにパワフルな出足である。瞬く間に回転計の針はレブリミットを越えようとするから、急いで2速にシフト。首都高速ではほとんど3速まででことは足りて、十分に速い。
左足の場所がない
アクアラインを通って、千葉まで走っていった。5速に入ってしまえば、後はラクチンなドライブだ。実は、5速固定で走るようになって、ちょっとホッとした。クラッチを踏んだ後、左足を置く場所がないのだ。フットレストがないばかりか、クラッチの左側に足を入れようとしても、そのスペースがない。膝を曲げて手前に足を置くほかはないのだが、足に力を入れることで体をシートにフィットさせることが難しいのだ。小さなことのようだが、ギアシフトの楽しみはかなりスポイルされてしまう。
高速ばかりではつまらないから、鋸山の日本寺参道を登ってみることにする。タイトコーナーの続くかなりキツい登りが連続する道だが、150psはさすがに余裕を見せる。2速3速を使って力強く急坂を進んでいく。雨上がりだったこともあって、コーナーの脱出時にはたびたびESPが働いた。そう。GHIAやGLXには装備されない、マンチスピンデバイスが STには備われるのだ。
これは、大人のクルマなのだった。クルマには個別の精神年齢があって、乗ると若返るクルマと分別臭くおさまり返るクルマがある。勝手に前者を想像していたのだが、逆なのだった。少々横着してもパワーを利して平和に走れる。むしろ、スポーティに走ろうとすると、フットレストのこともあって扱いづらい。鼻先が重いせいか、シャシーのがっしり感も伝わりにくい。これが1.6リッターであったらずいぶん印象が違ったと思うが、2リッターエンジンというのはせかせかシフトを繰り返さずとも、余裕の走りができてしまうのだ。あまり無理はしたくないが、「ちょいワル」を気取りたいなら、これはいい選択肢になるはずである。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏/2005年5月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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