ポルシェ・カイエン(6MT)【海外試乗記】
双方の王者 2003.12.06 試乗記 ポルシェ・カイエン(6MT) 「ポルシェ・カイエン」のベーシックグレード、3.2リッターV6モデルのプレス試乗会が、雪の積もるフィンランドはロヴァニエミで開催された。自動車ジャーナリスト河村康彦によるリポート。庶民感覚のカイエン
カイエン「S」にカイエン「ターボ」――あれ〜、“素のカイエン”が足りなくない!?(語尾アゲ)、と思っていた人。アナタは正しかった。MT仕様で599.0万円と、ついに600.0万円の大台を切ったのがその名も「カイエン」。3.2リッターV6を積む。
ちなみに、V8ツインターボで450psという怒涛のパワーで周囲を屈服させる(?)カイエンターボの価格は1250.0万円だから、今回デビューのV6カイエンの価格はその半値以下。もっとも「ターボ」の場合、トランスミッションは5段ATに限られる。V6のカイエンで5段ATを選ぶと、価格は60.0万円増しの659.0万円まで跳ね上がるが……。
というわけで何といっても気になるのは「果たして3.2リッターで6気筒のカイエンが、ポルシェ車に相応しい動力性能を備えているのか?」だろう。何しろ0→100km/h加速タイムが5.6秒、最高速度が266km/hととてもSUVらしからぬ「ターボ」モデルのデータが神格化(?)されてしまったのがカイエンというクルマだ。ちなみに“素のカイエン”(MT仕様)の同データは9.1秒と214km/h。こんな数字から、V6モデルは、随分と庶民感覚に近づいたカイエンという気がしてくるわけだが……。
それなりの差
実際、V6エンジンを積んだ「カイエン」の加速力に、もはや驚きはなかった。MT仕様をひとりで乗る限りその動きに鈍さを感じるほどではない。が、今回の国際試乗会には用意されなかったAT仕様に大人4人が乗り込み、暑い日差しの下をエアコンフル稼働で走ったらどうかな? と、ちょっとばかり心配をしたくなる水準ではあった。
ちなみに、このクルマが搭載するV6エンジンは、狭角15度というバンク角を備えるフォルクスワーゲン製のブロックに「ポルシェが白紙から設計をしたインテークシステムを組み合わせた」もの。そんな関係から、トゥアレグ用の3.2リッターという排気量を引き上げることは難しかったのだろう。トゥアレグの3.2リッターV6は、最高出力220ps、最大トルク31.1kgm。30ps増しの250psの最高出力を確保したところに、ポルシェなりのこだわりと意地を感じることができるが……。
前述のようにポルシェ・オリジナルの手が加えられているせいか、低回転域から扱いやすいがちょっとばかり退屈でもあるトゥアレグ用V6のエンジンフィールに比べると、カイエン用は多少なりともシャープさを増していることを実感する。3500rpm付近からの回転数上昇に伴うパワーとサウンドの盛り上がり感が、こちらカイエン用の方がより明快で活発な感触なのだ。
もちろん、そうしたダイナミック感をより明確に味わいたい人には、迷うことなく4.5リッターのV8エンジンを搭載した「カイエンS」の方をオススメしたくはなる。200.0万円強の価格の差は、やはり“それなり”にはあるのだ。
確実に前進
ところで、そんなV6エンジンを搭載したカイエンの国際試乗会は、極寒のフィンランドで開催された。北緯66度33分=北極圏の入り口に位置するロヴァニエミは、本物のサンタクロース(?)が居る村として有名。ひと昔前のポルシェでは考えられなかったこんなところでの試乗会を企てたのは、これまでオンロード上での走りばかりがクローズアップされてきたカイエンが、実は飛び抜けたオフロード性能であることを今いちど世間に知らしめるための作戦かもしれない。
というより、このイベントに集った世界からの参加者は、このポルシェの策略にまんまと乗せられてしまったに違いない。とにかく、“OFF”のシーンでのカイエンは、あのオンロードでのフットワークが嘘であるかのような悪路走破性を見せ付けてくれたからだ。
たとえば深い溝を斜めに横切り、たとえ対角線上の2輪が接地力を失うような場面でもカイエンは逞しく前進を続ける。かつてのオフローダーはセンターと前後の各デフを機械的にロックすることで何とかトラクションを失わずに進んだが、カイエンはそのあたりを最新の電子デバイスで制御。各輪の空転を巧みに、そしてより緻密に抑えながら確実に前進を続けて行く。
こうした低ミュー路面上で鮮やかなハンドリング感覚を失わないのも、やはりポルシェ流だ。そこにはイニシャル状態でフロントに38%、リアに62%というエンジントルクを分配しながら、必要とあらばその配分を自在に変化させるPTM(ポルシェ・トラクション・マネージメント)の威力が大きそうだ。
率直なところオンロードの走りでは、BMWの「X5」がカイエンに迫る。が、X5のそんな走りが「“OFF”を捨ててこそ得られた結果」であるのに対し、カイエンはON-OFFの双方で王者を狙っているところが大いに違うのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン/2003年12月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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