ローバー75サルーン(5AT)【試乗記】
一緒に暮らしたい 2003.11.22 試乗記 ローバー75サルーン(5AT) ……398.0万円 ラインナップを増やして、日本への再上陸を果たしたローバー&MG。『Car Graphic』誌の長期リポート車として、2年をともにした『webCG』エグゼクティブディレクター大川 悠が、久々にステアリングホイールを握って……。2年ぶりの75
『Car Graphic』の長期テスト車として2000年2月号から約2年間乗っていたローバー75には、個人的な愛着を持っている。際だってよくできたクルマでもなければ、人が言いたがるほどはスポーティでもないが、上品で控えめな味わいが好ましい。ちょうどいいサイズのサルーンとして愛用した。
周知のように、このクルマが開発されたときに親会社だったBMWは、75デビュー後間もなくローバーそのものを手放し、一時はローバーは事実上どこにも属さずに孤児のような存在になった。結果としてイギリスの投資家グループ、フェニックスが負債ごと10ポンドで買い、バーミンガムの工場で生産することになった。それでも古くからの根強いファンに支えられたし、BMWからの持参金があったことも幸いして、今はMGモデルも加えて、何とか頑張っている。
2003年の夏から、新たに設立されたMGローバー日本によって、わが国への輸入が再開された。
現在、75サルーンをはじめ、ワゴンボディの「75ツアラー」やMG版の「ZT」、同ワゴンの「ZT-T」などのバリエーションも用意されている。リポーターとしては、久々に75のサルーンに乗ってみたかった。そしてやはり75はほとんど変わっていないことを確信した。変わっていないというのは、よい面も悪い面も含めてということである。
前と変わらない世界
以前は廉価版「クラブ」と高級版「コニサー」の2種が用意された75、今回は一応シングルモデルである。価格は従来のクラブに近い398.0万円だが、その仕様は以前のコニサーにかなり準じている。ただし本革インテリアのカラーはモノトーンになるし、バックソナーは付かない。その代わりコニサーで重宝したシートヒーターや分割可倒式リアシートは標準である。
機構的にはほとんど変わらず、ローバー自製のKシリーズ2.5リッターのV6は177psと24.5kgm、これにJATCOの5AT(このAT自身も75で初めて市販化された)が組み合わされる。すぐに分かったのはタイヤサイズの変更で、かつては古くさいがクルマにはとても似合った195-65などというハイトの高いラバーを履いていたのが、これは215/55-16へと現代風になった。
だが乗ってみると、基本的に2年前と変わらなかった。ということは、現代の水準ではやや古くさくさえ感じるが、それなりに個性を大事にしたサルーンというわけだ。
すこしは立て付けがよくなったドアを開けてドライバーズシートに腰を下ろすと、例の古典的ダッシュボードが目前にある。見ているうちに以前、このウッドパネルを作っている英国の専門ショップを見学したことを思い出した。そこでは過剰品質ともいうべき行程で、本当に職人が懸命になってパネルだけを削り、磨いていた。「ローバーの要求水準は、アウディの4倍、キャディラックのパネルも請け負っているが、ローバーに比べれば牧場の柵を作るようなもの」とそこの人は語ったものだ。ただしせっかくそれだけ神経を込めて作りながらも、最後に表面に吹いた「AIRBAG」の文字が曲がっていたのが、何となくおかしかった。
それにあらぬか今回は、このAIRBAGは後付のエンブレムになっている。その他は相変わらず丁寧だ。それにシートがいい。パイピングもきちんと配されたシートは、一見こぶりだが、すごくサポートがいいだけでなく、本当に快適なことを2年使った腰痛持ちとしては心底から理解している。
相変わらず残っている上質な世界、そしてそれを支えている作る側の誠実さ、これがまた発見できただけで、個人的にはうれしかった。ついでに言うなら、ドライバー足下が狭く、靴の先がダッシュパネル下面につっかかることまで同じだった。
じっくり、しっとりと生活したい
機械もまたこれまでと同じだ。KシリーズのV6は基本的にはフラットトルク型で、意外と山も谷もないし、全域ややざらざらしている。JATCOの5ATは、その後の続々と登場した新しい5/6ATに比べるなら、どうしても時代遅れの感じがする。実はこのATは普段乗っているジャガーXにも使われていることから、日常いくつかの不満を感じているが、この75でも同じだ。シフトダウン、特に4-3のショックが大きいし、全般的にレスポンスが鈍い。ATそのものの音も小さくない。
乗り心地は悪くはないが最良ではない。特にドイツ車などに比べると、ボディが絶対的に緩い感じがするから、ピシッとした感覚やフラットネスに欠ける。65プロファイルのタイヤが55になってしまったのは個人的には残念だが、もともと水準は高くはなかった低速時でのハーシュネスは、別に悪化はしていなかった。日本製の乗り心地のいいタイヤに換えると、全般的にかなり改善されるはずだ。
そして「ああやはり残っていた」と感じさせられたのが、ステアリングに伝わってくる駆動系のトルク変動である。際だって強いわけでもないが、やはりちょっと前の前輪駆動車特有のものである。
つまりは75は、相変わらず以前と変わらぬように私のもとに戻ったということだが、それはそれでいいことだと思う。
75はこのクルマではなければ味わえないような、ややオールドワールド的だが、とても気持ちのいい世界をドライバーに与えるクルマである。イギリス的というなら、ひょっとしたらジャガーXよりももっと味わいが深いかも知れない。別にすごく目立つわけでもなければスポーティでもない。でもスタイリングは今でも優美で魅力的に映るし、控えめな個性がとても好ましい。
じっくりと一緒に生活したいクルマ。久しぶりに乗って以前と同じ結論に達した。
(文=webCG大川悠/写真=清水健太、荒川正幸(A)/2003年11月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。