ホンダ・インスパイア30TL(5AT)【試乗記】
よくできたホンダ製トヨタ車 2003.08.14 試乗記 ホンダ・インスパイア30TL(5AT) ……324.0万円 プリセーフティーをはじめ、ハイテク満載で登場したホンダのフラッグシップ「インスパイア」。片バンク休止機能を搭載する、新しいV6に感心した『webCG』エグゼクティブディレクターだが……。仕掛けがたっぷりのV6
ホンダの新型「インスパイア」の試乗がてら、友人宅にお邪魔したところ、たまたま義理の息子さんがきていた。彼は自動車関係ではないが、最先端の技術に関わるエンジニアである。その彼が、新しいインスパイアにはすごく関心があるのだという。何に興味を持ったかといえば、MD(可変排気量)エンジンの制御システムだ。
周知のように、ホンダは「New Intelligent Tourer」を謳うこのインスパイアで、主として二つの新技術を打ち出した。
一つは、すでに「アコード」が採用した「HiDS」(高速道路運転支援システム)。インスパイアはこれに加えて、衝突を予知した際にドライバーに回避操作を促すだけでなく、実際にブレーキを制御する追突軽減ブレーキ「CMS」などが新たに搭載された。
もう一つが、3リッターV6「i-VTEC」に導入された、可変シリンダーシステムである。燃費向上のため軽負荷時に何気筒かを休ませる、いわゆるMDエンジンは昔から珍しくない。新型インスパイアのV6は、高速走行時などでリアバンクの3気筒を停止させる。
くだんの若いエンジニアが興味をいだいたのは、このときの振動制御である。3気筒で動いているときは、エンジンをスムーズにまわす「アクティブコントロールエンジンマウント」を採用した。振動を感知するとエンジン・マウントのアクチュエーターが作動。振動に対して同位相、同周期でマウントを動かすことにより、振動をうち消している。そのアクチュエーターが、いかなる方式で制御されているのかを知りたかったという。
「エンジニアというのは、細かいことまで気にするものだ」と感心しながら調べたら、電気信号と電磁気によるらしい。
さらに振動だけでなく、「アクティブノイズコントロール」によりノイズも和らげている。これは気筒休止時に発生する騒音と、逆位相の音をオーディオのスピーカーから発生させてうち消すという。すでにクルマだけでなく、航空機用ヘッドフォンなどで一般化したシステムが使われる。
なんでこんな話からインプレッションを開始したのかというなら、インスパイアに乗って、「やっぱりホンダの魅力はエンジンに尽きる」ことを再確認したからだ。
今回の試乗モデルは、やや廉価な「30TL」。従ってHiDSもCMSも装着されていなかったが、可変気筒はもちろん活きていたし、とてもいいエンジンだと感心した。
アコード=上品で落ち着いた
インスパイアは、今回から姉妹車「セイバー」の名前が消えた。一つの名前に統一されたサルーンは相当大きい。ホイールベースは2740mmとアコードより70mm長く、4805×1820×1455mmの堂々たる外寸をもつ。実はこのボディは、基本的にアメリカン・アコードのそれである。北米市場では日本より大きなトヨタ「カムリ」やニッサン「アルティマ」、そしてフォード「トーラス」あたりと勝負しなければならないため、必要な大きさなのである。
スタイルもまた、生まれ育ちからきている。私たちの目にはあまりにも“落ち着いている”というか、保守的で、個性を可能な限り抑えているように映る。はっきりいえば、やや退屈なサルーンである。でもアメリカにおけるアコードは、「比較的裕福で年齢層も高い家庭におけるセカンドカー」といった需要が強い。ホンダ=スポーティではなく、アコード=上品で落ち着いたクルマ、というイメージで売っている。
日本でもトヨタ「ウィンダム」あたりがライバルだから、ボディは充分な押しが効くほどには大きくて豪華。それでいて全般的に、よくいえば上品、悪くいえば無性格に内外ともまとまっている。
ダッシュボードは、典型的な“ニッポン・スタンダード”ともいうべきデザイン。適度にウッドを散りばめ、メーター周囲をブルーで強調し、ステアリングホイールにオーディオやクルーズコントロールのスイッチを集める。
エアコンはもちろん、カーナビを初めとする情報機器も満載されているが、このクルマに乗っているときに一番気になるのが中央のインフォメーション・ディスプレイに出てくる平均燃費と、時々その下に光るグリーンの「ECO」表示。つまりそれが出ているときは、エンジンが3気筒でまわっているのだ。となるとドライバーは、やはりそのグリーン表示を可能な限り長く点灯させたくなもので、その点では燃費改善を自らドライバーにうながす。
よくできたMDユニット
「エンジンがこのクルマの価値だ」と書いたように、3リッターV6のできはいい。ビンビンまわるタイプというよりは、スムーズにトルクをフィードし続ける大人のエンジンで、常に静かである。感心するのはECOマークが点灯している時、つまり、3気筒で走っているときのマナーだ。
3気筒モードには高速の巡航時に入りやすいが、うまく転がすと、街なかでもこのマークを長く点灯させることができる。感心するのは、その時に音も振動も、とても3発でまわっていると感じないこと。というより、6-3気筒の切り替えが、ほとんど感知できないことだ。
つまり、アクチュエーターによるマウントの作動や、逆位相の波長をもつオーディオからのノイズ(実際の人間には感知できない)による制御が効いているということだ。これまで随分色々なMDエンジンに乗ってきたが、インスパイア・ユニットはそのなかで、もっとも洗練されている。
5ATのレスポンスもいい。ショックは少ないが、唯一不満なのは、多くの国産車同様、発進時、後退時にスロットルを僅かに踏んだだけで、予想以上にエンジンが応答してしまうこと。このあたりは、もうすこし上品な制御が好ましいと思う。
基本的にはクルーザー
エンジンの洗練性には感心したが、足まわりはもう一歩であった。ただし、ロードノイズの遮断は高いレベルにある。タイヤは205/60R16サイズのミシュラン「Pilot Primacy」だったが、ヘタに55偏平などを履いていないことも好ましい。いずれにしても、ノイズやザラツキ感がよくカットされていた。
一方、気になったのは低速でのサスペンション動作だ。端的にいうとやや堅い。より詳しく表現すると、全体にサスペンションストロークが足らない感じがするのに加え、ダンパーの初期応答が渋い。ただし、高速になるにつれて全体的にフラットになってくる。性格的に静かなハイウェイクルーザーを狙っているのだろう。
電動パワーステアリングも、依然として完璧ではない。前輪駆動の感覚を、意図的にプログラミングしたような反応を手のひらに感じる。それと大きな回転半径は、アメリカではともかく日本ではハンディとなる。しかも、ハイデッキゆえに後ろが比較的見にくいのだ。
やはり生まれ(実際の製造は日本だが)も育ちもアメリカン。だから快適なツアラーとしてみればいい。ともかく全体的に洗練されているし、うまく走れば燃費もかなりよくなるはずだ。いってみれば、よくできたホンダ製のトヨタ車のようなものである。
(文=大川悠/写真=峰昌宏/2003年8月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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