ルノー・メガーヌ ルノースポール(注文生産オプション 19インチホイール)(FF/6MT)【試乗記】
まれな市販車 2013.03.01 試乗記 ルノー・メガーヌ ルノースポール(注文生産オプション 19インチホイール)(FF/6MT)……422万円
“ニュル最速のFF車”をうたう「ルノー・メガーヌR.S.」は、日本の鈴鹿サーキットでどのような走りを見せるのか? タイムアタックの様子をリポートする。
『CG』2013年4月号には、今回のタイムアタックの様子を荒 聖治氏が自ら記したインプレッションが掲載されています。併せてご覧ください。
FF車泣かせの名コースに挑む
ルマン・ウィナー荒 聖治氏によるサーキットタイムアタック第2弾、舞台は鈴鹿サーキット――
「ルノー・メガーヌR.S.」は、前回(2013年2月1日公開)の筑波サーキット編ではタイトなヘアピンコーナーでもシャープに向きを変える、FF車らしからぬコーナリング性能を見せつけた。果たしてここ鈴鹿サーキットでは、どんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?
コース占有が始まる1時間前、タイムアタックや撮影の段取りを確認する最終ミーティングが行われる。スタッフはぴりぴりしており、間もなく真剣勝負が始まるという緊張感が増してくる。
ミーティングが終了したところで、荒氏に今回のタイムアタックのポイントをうかがう。この鈴鹿サーキットでは、マシンにどんな性能が求められるのだろうか?
「まず、鈴鹿は筑波より速度域が高いという事実があります。例えばS字(コーナー)では、スピードに乗せながら左右に切り返す必要がある。また、デグナー(カーブ)のように加速しながら抜けていくコーナーもある。そういうのって、一般的なFF車は苦手なんですね。筑波にはなかった、こういったシチュエーションをどうやって攻略するのか、楽しみです」
1時間の準備時間はあっと言う間に過ぎ、コースイン10分前になる。荒氏はメガーヌR.S.に乗り込み、各部を最終チェックする。
前回同様、「ESPオフ」のスイッチを長押ししてESPを解除。「R.S.モニター」の画面で、5段階で変更できるアクセルペダルの操作量に対するアクセル開度を、最もレスポンスの鋭い設定にする。
なお、筑波サーキットでのタイムアタック時と同じく、今回も注文生産オプションの19インチホイールを履いている。ルノースポールとブリヂストンがこのモデル専用に共同でチューニングした、235/35R19サイズの「ポテンザS001」を装着しているのも前回と同じだ。
勝算は、ある
乾いた排気音を残してピットロードを加速するメガーヌR.S.は、あっという間に1コーナーに吸い込まれて姿を消した。ピットレーンでマシンを見送ってから小走りでパドックに戻り、各コーナーに設置された映像を映すモニター画面を凝視する。1周5.8kmと広い鈴鹿サーキットでは、一度ピットを離れた車両を確認する手段はモニター画面しかない。
モニター画面上のメガーヌR.S.は、いかにもスムーズに各コーナーをクリアしているように見える。
フライングラップ1周目は2分35秒876、2周目が2分34秒717。速い!
テスト前の予想では、2分34秒台がひとつのめどだった。それをたった2周目であっさり達成してしまうとは。パドックには安堵(あんど)の空気が漂う。2度のフライングラップを終えた荒氏とメガーヌR.S.が戻ってくる。
「筑波で空気圧のセッティングだとか、タイヤの使い方がわかったから、最初から攻め込めた」と、荒氏も余裕の表情。ちなみにタイヤの空気圧は前後輪とも1.9kg/cm2でスタート、パドックに戻るとフロントが2.6kg/cm2、リアが2.4kg/cm2に上がっている。
「オーケー、前も後ろも1.9のままで大丈夫です」
そう伝えた荒氏は、新しいタイヤに履き替えて再びピットを後にした。
けれどもこの2セット目のタイヤの最速ラップは2分34秒679。タイムは意外に伸びない。安堵の空気が一転、パドックはどよんとした雰囲気に包まれる。
けれども2セット目のタイヤでのタイムアタックを終えてパドックに戻った荒氏の表情は明るい。
「うーん、1.9はちょっと低すぎたみたい。前後とも2.2に上げてください。大丈夫、もうちょっと(タイムは)詰まると思いますよ」と、勝算ありの口ぶりだ。
用意したタイヤは3セット。つまりこれが最後のニュータイヤということになる。3セット目のタイヤに履き替えて、最後のタイムアタックに挑む。果たして、荒氏は何をつかんだのか?
秘策は“レーシングマシンの走り方”
モニター画面に映るメガーヌR.S.の挙動が、今までよりアグレッシブに見える。縁石に大胆に乗り上げ、コーナーの最短ルートを攻めている。
果たしてモニター画面には2分34秒282のタイムが映し出され、パドック内では拍手が起こった!
パドックに戻った荒氏は、開口一番「速かったでしょっ」と満足そうに笑った。そして、3度目のタイムアタックに向かう時に余裕の表情だったタネ明かしをしてくれた。
「1コーナー、2コーナーをクリアすると3速が吹け切っちゃうので、最初は4速にシフトアップしてS字に入っていました。このクルマのエンジンは下からトルクが厚いから、4速の低い回転域で、トルクを使って走ろうと思ったんです。でも、そうやって走ると、アンダーステアが少しだけ顔を出す」
荒氏によれば、ここでは3つの選択肢があったという。
「4速にシフトアップしたままS字に入ることもできるし、一度4速にシフトアップしてから3速に落としてS字に入るやり方もあります。でも、一番速かったのは3速のリミッターにバババババと当てながらS字に入る方法。そう、SUPER GTやフォーミュラ・ニッポンみたいな走り方でした」
なんと、レーシングマシンのような走り方が、一番速かったというのだ。
「走り方をスパルタンに変えたら、クルッと向きを変えて気持ちよく走ることができたんです。こんな走り方にも見事に応じてくれるあたりが、メガーヌR.S.の最大の魅力でしょうね」
では、さらに詳しくタイムアタックを振り返っていただこう。
道を選ばぬ素性のよさ
「1コーナーの進入は200km/h近いんですが、そこからのブレーキはまったく問題ありませんね。何回繰り返してもへこたれないし、しかもただ制動力があるだけでなく、スピードのコントロールがやりやすい。そして1コーナーでいい感じにフロントに荷重がかかると、きゅっと向きを変えてくれる。自由に扱える感覚がうれしかったですね」
2コーナーはしっかり速度を落としてクリア、そこから向かうS字コーナーは先に記した通りだ。逆バンクからダンロップは、S字とは逆に早めに4速にシフトアップしてから全開にするとスピードが伸びる感じがあったという。
「その後のデグナー(カーブ)が、また気持ちよかった。外側の縁石まで使って、まさにSUPER GTと同じような走り方で攻め込みました」
ふたつの60Rのコーナーを組み合わせたスプーンカーブは、「ひとつめは突っ込んでも、ふたつめはやさしく。ふたつめを乱暴に入ってもクルマがいいからクリアしてしまうけれど、タイムアップのためにはそこで自分の気持ちを抑える必要がありました」
そして鈴鹿名物の高速コーナー、130Rへ。
「メーター読み210km/hから5速でちょいブレーキ、全開ではないですがそのまま曲がれます。ここで操舵(そうだ)が一発で決まる市販車なんてほとんどないんですが、メガーヌR.S.はピタッと決まった。130Rでのスピード感は、2リッターターボとは思えないほど刺激的でした」
130Rの次には、シケインが待ち受ける。
「2速でばんばんシケインに乗り上げて、ショートカットしても問題ないです。サスペンションがしなやかに動いてくれるんですね」
なるほど、最後のタイムアタックはモニター画面で見たように、やはり果敢に攻め込んでいたのだ。
「そうです。レーシングマシンのように、メリハリを利かせて走るとタイムが出る。本当に懐が深いクルマですね」
最後に、荒氏はこう付け加えた。
「今朝は横浜から新東名で来たんですが、高速も静かで快適、エンジンにもトルクがあって乗りやすい。例えば、横浜から鈴鹿まで快適にドライブして、サーキットではエキサイティングな走りを満喫、そこからまた横浜まで楽しく帰ることができる。このクルマなら、そんな休日が当たり前に手に入る。本当にすごいことですよ」
これだけ堪能できて385万円から買えるというのはバーゲンプライスですね……。そうつぶやくと荒氏は「いや、本当にそうです。絶対に安いと思いますよ」と断言した。
(語り=荒 聖治/まとめ=サトータケシ/写真=荒川正幸、小河原認)
→「ルノー・メガーヌR.S.」鈴鹿タイムアタックを動画で見る

荒 聖治
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