第278回:「富士山頂のクラウン」に続くのはどのメーカーだ?
2013.01.11 マッキナ あらモーダ!第278回:「富士山頂のクラウン」に続くのはどのメーカーだ?
神聖と欲望が入り交じる「高所」
今年も日本では「◯◯山」と名付けられたお寺や神社に新春参拝に行った人は多かったことと思う。昔から高い場所=山は、人が到達しにくいことから、俗世から切り離れて修行に専念できる格好の場であり、そこに身を置くことは孤高の精神を示してきた。
それと同時に高い場所は、世俗的な欲望も含んでいた。石垣の上にそびえ立つ日本の城は成功と権力の象徴でもあった。加えて、往年のジュリアナ東京のお立ち台に象徴されるように「目立ちたい」者が登るのも高いところだった。
イタリアでもそれは同じだ。中世の修道士は山中の修道院で、自給自足の生活をしていた。
いっぽう都市国家の貴族たちは繁栄を誇るため、自らの城塞(じょうさい)に競って塔を建てた。ちなみに侵略者は真っ先にそうした塔を倒すことによって、征服した事実を内外に示した。
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初代モデルを高い場所に置くワケ
面白いことにクルマも、「高いところ」に置くことよって、さまざまな効果を狙ってきた。ボクの記憶にある最も初期のものは、幼少時に長野県の国道18号線バイパス(アップルライン)で見たものだ。廃車(2代目「日産グロリア」S40型だったと思う)を載せた看板が立っていた。「国道沿い」ということでお察しの読者もいるだろうが、当時のいわゆる「モーテル」のアイキャッチだった。畑の中にいきなり立っていたので、かなり目立ったものだ。
次に身近だった「高いところに置かれたクルマ」は、銀座の自動車ショールームだった。1980年代、数寄屋橋(すきやばし)交差点のソニービルにはトヨタのショールームがあって、2階にもかかわらず1台クルマが収まっていた。また、銀座4丁目の日産ギャラリーでは、当時は2階にもクルマが展示されていた。
いずれも車両用のエレベーターなどなく、狭いスペースにもかかわらずほぼ毎月展示車種が変わっていた。中学生だったボクの「どうやって入れ替えするの?」という素朴な疑問に、ショールームにいたトヨタプリティやミスフェアレディのお姉さまたちが、表のガラスがスライド式になっていて、そこにリフトを持ってきて搬入することを教えてくれたものだ。
もちろんヨーロッパでも「高いところにクルマ」の例は多々ある。よく見かけるのは、田舎の修理工場がコンテナ上にクルマを1台載せてアイキャッチとしているものだ。
モーターショーにおいては、偉大な初代モデルを高い場所に“祭りあげる”ことがよくある。特に新世代登場の際、そのクルマが初代の正当な継承車であることを印象づけるためだ。おっと、特定の国の政権について言っているのではない。念のため。
シボレー入魂のCM
CMの世界でも「高いところ」は、たびたび使われてきた。例えば、シトロエンが1988年に展開したキャンペーンだ。あの中国の史跡「万里の長城」にコンパクトカー「AX」を載せてしまった。AXを生産するためではなかったが、シトロエンが1985年に、当時欧州メーカーではかなり早く中国メーカー(広州汽車集団)との合弁企業を設立していたことも、この中国ロケCMに対する人々の印象をさらに強くしたといってよい。
しかしながら、自動車史上最も気合が入った高所型自動車CMといえば、1964年シボレーのものだろう。ユタ州の岩山の頂上、断崖絶壁に赤の「インパラ コンバーティブル」とモデルの女性を載せ、上空からカラーフィルム撮影したものだ。
「孤高の存在」というフレーズが幾度となくナレーションで繰り返され、「他車が追随できないクルマ、シボレー」をイメージさせようとする。
インパラと女性はヘリコプターで下ろし、また撮影後撤収させたことは間違いない。だが、今日の日本におけるCMで一般的な15秒ものではなく、2分間もある。準備および撮影に要した時間は、かなりのものであったに違いない。モデルの女性は半袖ワンピース姿で一生懸命笑顔を作り、投げキッスまで披露しているが、見るからに強風が吹いている。かなり怖かったに違いない。
面白いのはわが国の「トヨタ・クラウン」も、高所に載せたCMがあった。厳密にいうと、2代目「トヨペット・クラウン」に1966年10月に追加された「スーパーデラックス」用の白黒CMで、こちらはなんと富士山に載せてしまっている。
前述のシボレーCMは1964年で、米国自動車業界の慣例からすると1963年に発表されていたから、CMも同年かそれ以前に撮影されていたことになる。つまりクラウンのほうが後だ。
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カメラワークも限りなくシボレーのCMに似ている。さらに当時クラウンのCMといえば俳優の故・山村聰が登場するのが常だったが、この富士山編では若い女性が上空のカメラに向かって手を振る演出が付いている。
こうしたことから、クラウン富士山編は、シボレーの渓谷編なしには存在し得なかったことは明らかである。
今日これを「パクリ」と一笑に付すのは簡単だろう。しかしボク自身は、アメリカの企画力・実現力に圧倒されて、「負けるものか」と鼻息を荒くした当時の日本のCM制作スタッフに敬意を表したい。今日の日本では想像できない心意気である。
同時にボクは今、近い未来にどの新興国のブランドが、どんな山の上に自社のクルマを載っけるのか、楽しみに待っているところである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、シトロエン、GM、トヨタ自動車)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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