スバル・インプレッサWRX NB(4AT)【試乗記】
オイシサ3種類 2002.02.15 試乗記 スバル・インプレッサWRX NB(4AT) ……271.6万円 インプレッサ“セダン”「WRX」は、280psターボを積んだ「STi」(6MTのみ)、250psターボの「NB」(4AT/5MT)、155psNA(自然吸気)を搭載する「NA」(4AT/5MT)にわかれる。そのなかから、「NB」のオートマモデルに『webCG』記者が乗った。ほどよい過激版
売られるクルマのうち、AT車を選ぶヒトが9割を超えるオートマ天国ニッポンにあって、スバルは最もMT車の販売比率が高い自動車メーカーである。その率3割。「スポーツ」をウリにするインプレッサは34%。「WRX」ことセダンのターボモデル(除くSTi)にいたっては、なんと7割!! その理由は、いうまでもなく、“手こぎ”で運転する甲斐があるからだ。
インプレッサのカタログを繰ると、「ひたすら楽しむためのセダンがあってもいい。」「来た!!パーフェクトな波が。(中略)WRXにも、パワーという名の波が来る。」「気持ちはじける爽快感。BOXER。」とまあ、ドライビングプレジャーを讃えるコピーがあふれ出る。もう、小気味よいほどに。「ジェットコースター級オン・ザ・レール。」とまで来ると、いかがなもんでしょう?と思わんでもありませんが、なにはともあれ、狙いがハッキリしているということは、“小粒だけどピリリと辛い”企業イメージを維持するうえで大切なことである。
「戦うように、スポーツしよう。」とは、もちろん6段MTを備えたトップグレード「STi」のこと。クルマで戦うのはちょっと、という平和主義者の方のためには、20psデチューンされた250psターボ「NB」(4AT/5MT)が用意される。いわばほどよい過激版。MT車の魅力はわかりましたので、今回、あえて街なかでも楽であろうATモデルに乗ってみた。インプレッサターボ、オートマモデルのプレジャー度はいかに?
低くつぶやくボクサーターボ
ギョロ目の、丸く大きなヘッドランプが印象的なインプレッサは、2001年9月10日にマイナーチェンジを受けた。WRXはノーズ開口部が目立つメッシュグリルが採用され、さらにスポーテイな雰囲気に。フロントに輝くのは、プレミアムブランドとしてのアピールを強めようと、レガシィシリーズを皮切りに全スバル車に付くことになった「六連星(むつらぼし)」エンブレムである。
インプレッサに乗ってまず気づくのは、ボディ剛性の高さだ。サラッとした触感のファブリック&ジャージ地のバケットシートに座っただけで、不思議や「ガッシリしてるなァ」と思う。単にシートをとめるボルトがしっかり締められているだけかもしれませんが。ラリーフィールドを見据えて広げられたトレッドゆえ、車幅1730mmとボディは3ナンバーサイズになってしまったが、全長4405mm、全高1435mmのボディは依然として手頃な大きさ。車内の空気の密度感が高い。そして、タイヤひと転がりで、予感は実感に変わる。
吸気バルブの開閉タイミングを連続的に可変コントロールする「AVCS(Active Valve Control System)」を得た2リッターボクサーターボは、250ps/6000rpmの最高出力と34.0kgm/3600kgmの最大トルクを発生する。数字には表われないが、マイナーチェンジにともないピストンリングが変更されシリンダー内部のフリクション低減が図られた。滑らかにかつ力強くトルクが立ち上がる出力特性をもち、3000rpmあたりで走る街なかでは低くつぶやく実用ユニットだ。
ガンガン走れる
「スポーツ一筋!」のMTモデルとの差が大きかったためか、新しい「NB」のATモデルはファイナルギアが4.111から4.444に低められ、加速性能が重視された。たしかに力強い走り出し。しかし意外や“その後”がおとなしいのは、早め早めにシフトアップするオートマッチックトランスミッションのせいである。
制御システムに改良を受けてスムーズさを増したこのAT、普通にドライブしていると、タコメーターの針が3000rpmに届いて、いざターボの本領発揮、という直前に、サッサとギアを上げてしまう。燃費に考慮しているのだろう。またNBオートマ車は、富士重工が参加したGMグループ内のオペル流に、停止して一定時間が経過すると自動的にギアがニュートラルに入ってアイドリング時の燃料消費を抑えるようになった。
ペダル操作に対するエンジンレスポンスもいまひとつなので、もうすこしキビキビした走りを求める向きは、オートマの「パワー」モードを選ぶことになる。すると、アラ不思議、よりフラット4を回したドライブが可能になって、俄然、インプレッサがイキイキと走り出す。
ATのターボを運転していて「惜しいなァ」と感じるのは、低速からの全力加速時だ。いわゆる信号グランプリが典型的な例ですが、もちろん十二分に速いのだけれど、MTモデルのエンジン-タイヤ間の直結感(?)を知っていると、どうもパワーをロスしている気がしてもったいない。せっかくのボクサーターボが薄味になっちゃう感じだ。
では、AT車のスポーツドライビングがつまらないかというと、そんなことは全然ない。いざとなれば、120km/hまでカバーする2速に入れてガンガン走れる。兄貴分のレガシィにならってフロントサスペンションの取り付けを強化した足まわりは正確無比。MOMOの革巻きステアリングホイールの操作に従って、キューッと路面を押さえつけながらカーブを曲がっていく。スポーツシフトを活用して、ときにサードに上げ、コーナー手前でシフトダウンするとボクサーサウンドが高らかに響いて、溜飲が下がる。
インプレッサターボのATモデルは、「燃費」「街なか」そして「峠」と、いわば一粒でオイシサ3種類。STiみたいにほっぺた落ちちゃうことはないけどね。
(文=webCG青木禎之/写真=阿部ちひろ/2001年12月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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