スバル・インプレッサST-G(4WD/CVT)
デキはよくても悩ましい 2023.06.21 試乗記 「スバル・インプレッサ」が生まれ変わった。どちらかといえば地味な見た目は従来どおり(?)だが、シャシーを鍛え直すなどした中身は立派なフルモデルチェンジだ。中間グレード「ST-G」の4WDモデルの仕上がりをリポートする。セダンが消えた
セダンとハッチバックの間にクロスオーバーが割り込んだことで、ここ何代かのインプレッサシリーズの車名を巡るあれこれはちょっとややこしいことになっていた。前型ではクロスオーバーは「XV」として独立扱い、セダンは「G4」を、ハッチバックは「スポーツ」を名乗っていたが、多くの人には「はぁそうですか……」的な話だったのではないだろうか。
新しいGU世代では、まずクロスオーバーモデルのXVを米国と同じ「クロストレック」に改名。そしてセダンのG4をディスコンとすることで、従来はスポーツを名乗っていたハッチバックがすっきりとインプレッサを名乗るようになった。国内でスバルのセダンが欲しいというのなら「WRX S4」を選ぶことになるが、車格も価格帯も大きく異なるため、他銘柄へ流出する恐れもある。さりとて、同級の選択肢といえば「カローラ」か「マツダ3」くらいしかないのが実情だ。日米の市況をみるに、セダンはいよいよ存続の是非が問われる事態となっている。とあらば、G4の終売も致し方なしということなのだろう。
インプレッサのパワートレインは2リッターに一本化され、素のガソリンエンジンと「e-BOXER」と称されるマイルドハイブリッドの2バリエーションが用意される。グレードは3本立てで、ベースに位置づけられる「ST」はガソリンを、「ST-G」と「ST-H」はマイルドハイブリッドを搭載。すべてのグレードでFFと四駆の選択が可能というあたりがなんともスバルらしい。
新型は安全推し
テレビコマーシャルやウェブサイトをみるにつけ、新型インプレッサのプロモーションは走行性能や静的質感うんぬんは二の次で、ともあれ安全・安心を全面的に押し出している。乗ってナンボをとやかく言う向きはこんな地味なスペックのクルマに興味はないだろう、そういう割り切りもあるのかもしれない。
が、結果的にこれは正解だと思う。パワー&ドライブトレインの変革にも動じない将来的なブランドイメージへの投資という点で、スバルが最も注力すべきは安全だ。先進安全の陰に隠れてあまり話題に上がらない受動安全についても高い評価を得ているだけに、その素地(そじ)をしっかり認知してもらう。スバルのプロダクトでは最もベーシックなインプレッサこそ、その媒介の役割にふさわしい。
試乗したグレードは真ん中のST-Gで駆動方式は四駆と、少なからぬ方にとって具体的な選択肢となるだろう。タイヤは純ガソリンユニットを搭載するSTよりも10mm幅広の215/50R17を履くが、これはST-Hも同じだ。つまり、動的な資質において両グレードの差はない。ST-HではLEDヘッドライトの配光がマトリクス型になり、全方位のカメラが備わるなど装備差としては視界モノが多いが、「アイサイト」については後側方検知を強化したセイフティプラスも含めたフルスペックがST-Gでも標準装備となる。
度量が高い新型シャシー
そもそも先代GT系インプレッサは、現在のスバル車の核となる「スバルグローバルプラットフォーム=SGP」を採用した第1弾でもあったわけだが、その走りは「シビック」やマツダ3に先がけて欧州のCセグメントに伍(ご)せるほどの質感を備えていたように思う。特に平時の乗り心地の丸さや、粘っこく路面を捉えつつゆったりと曲がっていく感触に、フランス車的な包容力を感じていたのは僕だけではないと思う。
今回の試乗前に前型と新型とをクローズドコースで乗り比べる機会もあったが、ガツンと負荷が高いコーナリングで限界性能を比べれば、いまだ前型もかなりのアベレージにあることが伝わってきた。一方で新型は、小さな入力からの足の動きの緻密さやバネ下の芯を食った摺動感など、普通の入力でのいいモノ感が確実に向上している。ハコそのものの剛性も向上しているが、PCDが(ついに)114.3となったことによるハブベアリングまわりのアップデートも奏功しているのかもしれない。ともあれ言えるのは新型インプレッサ、クローズドコースの負荷域でも徹底的にシャシーファスターで、e-BOXERや米国仕様の2.5リッターユニットはもとより、WRX S4のFA24型でも受け止めそうな余力が感じられる。
今回、初めて公道で乗ってみてもその印象は大きくは変わらない。夕立のような大雨に打たれながらも乱れる気配も示さずにピシッと突き進むサマからは、四駆の優位性もさておきシャシーの度量の高さがうかがえた。一方でタウンスピードでは、公道の現実的な路面環境に対して、時折タイヤが小さくバタつくような場面が現れるのが惜しい。サスのセッティングというよりも、タイヤそのものの縦バネの硬さでポンポンと跳ねている、そんな印象だ。
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日本車では屈指のADAS制御
e-BOXERはモーターのカバレッジが増えたことでエンジンを稼働させない域が増えたほか、駆動力そのものもちょっと強めに押し出されるようになっている。前型のそれに比べると電動感が確実に増して、ガソリンモデルとは別物のドライバビリティーを生み出していることは確かだ。ただし実際の数値をみても、燃費に対する貢献度は相変わらず特筆するほどのものではない。スバルにとってはいよいよ目の上のたんこぶとなりつつあるCO2だが、電気自動車を除いた自社のベストソリューションがこのユニットというのでは、商圏も縮小せざるを得なくなるだろう。もう何代にもわたって申し送り事項となっている燃費を抜本的に改善できるか否かは、大崎社長体制での最大のミッションとなるに違いない。
一方でアイサイトは、効能ばかりでなく操舵や加減速等の繊細さ・緻密さは相変わらず日本車のなかでも屈指の水準にある。ささいな速度調整はテールランプをともさない程度の減速度で後続を気遣うなど、制御の質感にまで思慮が及んでいる点も特筆すべきところだ。レベル3の壁で多くが踏みとどまるADASの商品性において、アイサイトで得たノウハウの蓄積は世界に伍するスバルの最強資産かもしれない。
ともあれインプレッサは燃費を除けばデイリーカーとしてあらゆる人々に安心して薦められる筆頭の銘柄に仕上がっていると思う。でも言い換えればそれは、唯一無二とされてきたボクサー&シンメトリカルAWDがあしかせになっているということでもある。スバルの苦悩をお察しするところだ。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スバル・インプレッサST-G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1780×1515mm
ホイールベース:2670mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16.0km/リッター(WLTCモード)
価格:300万3000円/テスト車=343万7500円
オプション装備:運転席10ウェイ&助手席8ウェイパワーシート+運転席シートポジションメモリー機能+リバース連動ドアミラー+ドアミラーメモリー&オート格納機能+フルLEDハイ&ロービームランプ+ステアリング連動ヘッドランプ+アダプティブドライビングビーム+コーナリングランプ(12万1000円)/アイサイトセイフティプラス<デジタルマルチビューモニター[フロント、サイド、リア、トップ、3D]>+前側方警戒アシスト(6万6000円)/ステアリングヒーター(1万6500円)/フロントシートヒーター(3万3000円)/ナビゲーション機能(8万8000円)/本革シート<ブラック×グレー>(11万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:828km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:276.8km
使用燃料:21.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.8km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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