第237回:大矢アキオ式、ジュネーブショー自由研究(後篇)−勝手にあげま賞! 意外なグランプリは?
2012.03.23 マッキナ あらモーダ!第237回:大矢アキオ式、ジュネーブショー自由研究(後篇)勝手にあげま賞! 意外なグランプリは?
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まつ毛の生えた「トゥインゴ」
「ランチア・イプシロン」が9999ユーロ(約111万円)、「日産マイクラ(日本名:マーチ)」は月々129ユーロ(約1万4000円)、「トヨタ・ヤリス」を9999ユーロで!
朝、フランスのテレビを見ていると、そんなテレビCMが次々流れる。いずれも、まだ登場してそれほど経過していないモデルだというのに。2011年9月に発表された3代目「フィアット・パンダ」のCMまで、「フィアット・パンダを月々わずか99ユーロで!」とうたっている。欧州市場におけるクルマ販売が苦戦していることをひしひしと感じさせる。
やがて9時を過ぎると、米国製連続テレビドラマ「Des jours et des vies」が始まってしまった。フランスで1991年以来今日まで21年間放映されている化石級番組である。きっとボクの死後も続いているであろう。そう思うと見ていても仕方ないのでテレビを消し、ジュネーブショーの会場に向かった。
閑話休題。今回はショー内外で目撃したさまざまな事象に、勝手に賞をさしあげようと思う。題して「勝手にあげま賞」である。
まずは「パーキング賞」から。
報道関係者公開日はお仕事関係の方々オンリーにもかかわらず、駐車場ではヘンなクルマを数々目撃した。
【写真2】は、ボクのクルマと前後してフランス−スイス国境を越えてきた英国ナンバーの7代目「トヨタ・セリカ」である。ピンク色がまぶしすぎるが、往年の日本製スペシャリティーカーが大切に乗られていることに好感を覚える。
【写真3】はドイツから来た2代目「アウディ100」のワゴン仕様である。毎年周辺で大渋滞が起きるブレスデイに、ともすれば水温等で機嫌を悪くしそうな30年もので来た勇気に敬意を表したい。
【写真4】の2005年「オペル・ティグラ」は地元スイスナンバーで、なんとダッシュボードに「売りたし」のカードが置かれていた。7000スイスフラン(約63万円)という。関係者公開日というのに、恥も外聞もなく(?)売る勇気に拍手した。
しかし、「パーキング賞」は、地元ジュネーブのナンバーだが【写真5】の「ルノー・トゥインゴ」に差し上げたい。“つけまつ毛”は日本でも一部カーアクセサリーファンに知られた既製品であるが、初代トゥインゴほどそれが似合うクルマはない。
花柄テントで戦争放棄
メイン会場に移ろう。
主要メーカーの評価は他のコーナーに任せ、それ以外の出展者から面白いものをピックアップし、「マイ・コンセプトカー賞」を差し上げることにした。
ひとつは、ドイツのエンジニアリング会社「EDAG(エダグ)」の電気自動車「ライトカー・シェアリング」である(写真6)。その名のとおり近未来のカーシェアリング用車両を想定したもので、車両各面の大型LEDパネルの色を通じてチャージ済みか否かを明確に示すというものだ。それ自体も素晴らしい試みだが、参考出品車両の後部が面白かった。ハッチ部が巨大なスクリーンになっていて、車内の想定シーンを映し出していた。もちろん、これはディスプレイ用だが、もし実用化できれば、孤独な男が女子をたくさん乗せている映像を投影しながら走るとか、それなりに面白い遊びができるのではないか。
次は、スイスのコンサルタント会社「リンスビード」が展示した「ドック+ゴー」である(写真7-8)。テーマは、「スマート・フォーツー」をベースにしたEVにさまざまな2輪アタッチメントを付け替えることによって、用途を拡大するというものだ。フロント部にはディスプレイが装着されていて、「HELP」「DANGER」をはじめ多様なサインが表示できるようになっている。
非接触充電システムまでも想定しているドック+ゴーにとって、それは余興にすぎない。だが思えば、かつてジョルジェット・ジウジアーロはフロントにもブレーキランプを装着することを提唱していた。各国の保安基準が壁となって実現することはなかったが、前方への意思表示というポリシーでは、それに通ずるものがある。というわけで、これもコンセプトカーの中の「アイデア賞」としたい。
そして、「ハイセンス賞」を設けるなら、フランスの電気自動車「ミア」であろう。製造している「ミア・エレクトリック」社は、80年の歴史を誇りながらも経営危機に陥った「カロスリ・ユリエーズ」社のスタッフおよび技術をドイツ資本のもとで継承した企業である。
【写真9、10】は、そのミアの参考出品車である。標準はクローズドボディーだが、後ろ半分をテントで覆っている。それも従来のオープンモデルにありそうでなかった“お花柄”である。世の自動車雑誌ではカブリオレに関して、「これからは電動メタルトップだ」「いや、トラディショナルなほろだ」などと論争が続いているが、ボク自身はこのお花柄トップ擁護で戦争放棄したい。
発想の源はネットカフェ?
車両以外に目を移して「アイデア賞」をさがす。
モーターショーといえばコンパニオンだ。シボレーブースには、彼女たちの横にアメリカのポリスマン風モデルが数名立っていた(写真12)。思わずカメラをズームアウトしてしまったが、差異性を出すには十分。まずは彼らにひとつめの「アイデア賞」を。
ふたつ目は、スズキに差し上げたい。スタンド内における各部屋の仕切りは低く、どのスペースに人がいるのか、それとも空室なのか、すぐに見渡せる(写真13)。どうやって解体するのか心配になるほどの豪華セットを構えるブランド多きなか、低コストかつ効率的である。これぞ日本企業だ。これを設計した業者さんの頭の中には東京のネットカフェがあったに違いないと、ボクは踏んだ。
最後は「ベストドレッサー賞」。現行「フィアット500」生みの親ロベルト・ジョリートである(写真14)。フィアット・オートモビルズのデザイン担当ディレクターという要職にあるにもかかわらず、各地のモーターショーに退屈なビジネススーツを着て来ることはない。
ちなみに今回フィアットは、セルビアの工場で生産する新型車「500L」のお披露目をした。ジョリートは「ファミリーカーは、他のどんなタイプの自動車をデザインするよりも難しい」と言葉を残してくれた。
自分の電気は自分で作れ!?
メイン会場を見学し終わったあと、道の反対側を見ると、テントが設営されていた。「緑のパビリオン」と名付けられた環境車両展示コーナーだった。主要メーカー系・新興国系とりまぜてスタンドが並んでいるなか、スイスのデザイン工房「デザインヴェルク」のスタンドで、ボクの足は止まった。
同社製電気自動車の横に一風変わったものがあったからだ。「シュトロームヴェロ」という名のそれは、ジェネレーター付きエアロバイクだった(写真15)。2分のペダリングで3.3kWhの発電ができ、ラジオなら20分、テレビなら1分、電気ポットなら5秒作動させられるという。
同様のアイテムは他にもあり、価格は5850スイスフラン(約52万円)するが、デザインハウスが開発したものだけにスタイリッシュである。
ボクも早速乗せていただくことにした。発電量に応じて、脇の透明ポールの中の球が上昇するゲームだ。汗だくになって漕(こ)いでも、ポールの頂点に付いたランプはなかなか点灯しない。スタッフから「あと200Wh足りませんっ!」などと活を入れられる。
考えたのだが、ペダル漕ぎを各自動車メーカー対抗にして、前年の発電量に応じて翌年自社ブースで使える使用電力量を決めたら面白いのではないか?もしくは各メーカーの年間CO2排出量に比例して、一定量ペダルを漕いでもらうという手もある。
ということでグランプリは、クルマではないが、この夢ある人力発電機に贈呈したい。ただしそんなことをすると、ペダル漕ぎのために二次協力会社の人まで動員されるという、新たなる悲劇が生まれるかもしれない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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