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第236回:大矢アキオ式、ジュネーブショー自由研究(前編)−「ベルトーネ」と「オレンジ」の深いカンケイ

2012.03.16 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第236回:大矢アキオ式、ジュネーブショー自由研究(前編)「ベルトーネ」と「オレンジ」の深いカンケイ

ジウジアーロデザインの真骨頂

第82回ジュネーブモーターショーが2012年3月18日まで開催されている。ジュネーブの特色といえば、毎年アルプスを越えてやってくるトリノのカロッツェリアたちである。3大カロッツェリアは、ここ数年の波乱をそれぞれの形で乗り越え、本格的な意気込みを取り戻しつつある。

まずは出展42年目を迎えたイタルデザイン・ジウジアーロから。
フォルクスワーゲン(以下、VW)グループ入り後、初の出展だった昨2011年は、VW「up!」ベースのハイブリッド車「Tex」とEVの「Go」という、比較的堅めなコンセプトカーにとどまった。
いっぽう今年は、ゴージャスなGT「Brivido(ブリヴィド)」を公開した。全長4980mm、全幅1960mmという堂々たるディメンションにもかかわらず、最大限の室内長を確保すべく努力しているところは、さまざまな小型車で同様の手法をみせてきたジウジアーロらしい。

お披露目には、VWグループのデザイン総責任者ワルター・デ・シルヴァ、ロータスのデザインディレクターであるドナート・ココ、元F1ドライバーで現在は解説者などを務めるジャン・アレジ(両親はイタリア人でジウジアーロと長年の親友である)など、“イタリアン・コネクション”が顔を揃えた。

“Brivido”とはイタリア後で「身震い」を意味する。この名前、開幕直前まで発表されなかったところを見ると、かなり切羽詰まってから決定したようだ。ただしショー出展車のネーミングというのは古くからそういうもので、かの「ランボルギーニ・カウンタック」(または「クンタッチ」。ピエモンテ方言で「ああ驚いた」の意味)も、最終準備段階でスタッフらが作業中に決めたものである。

イタルデザイン・ジウジアーロの「ブリヴィド」。
イタルデザイン・ジウジアーロの「ブリヴィド」。 拡大
「ブリヴィド」に乗り込んだジャン・アレジに説明する、ジョルジェット・ジウジアーロ。
「ブリヴィド」に乗り込んだジャン・アレジに説明する、ジョルジェット・ジウジアーロ。 拡大

本社所在地の名前をさげて

いっぽうピニンファリーナは「Cambiano(カンビアーノ)」を出展した。運転席側は1枚ドア、助手席は2枚ドアのクーペ型EVである。室内各所にはイタリアの有名家具メーカー「Riva1920」のウッドパネルがあしらわれている。内外ともに、久々にこのカロッツェリア本来の上品さが戻ってきた、好感のもてる作品である。

“Cambiano”とはトリノ県の地名である。ピニンファリーナ社はその地に30年前の1982年からデザインセンターを、10年前にはエンジニアリングセンターを置いている。そして2009年、受託生産部門撤退の第一段階としてグルリアスコ旧本社工場を売却したあとは、新本社所在地にもなって現在に至っている。
その地名をコンセプトカーに冠したことについて、あるスタッフは「カンビアーノは私たちの誇り」と筆者に語った。新生ピニンファリーナの士気の高まりを感じた。

なお、ここ数年の例にならい、ピニンファリーナブースの一角には今年もボロレ社のスタンドが設けられた。ボロレはフランスの総合化学メーカーで、ピニンファリーナの経営危機を救った企業のひとつだ。そこに展示されたパリのカーシェアリング用自動車「オートリブ」は、ピニンファリーナが設計し、ボロレが得意とする電池を搭載したEVで、ピニンファリーナ新時代における貴重なビジネスのひとつである。

ピニンファリーナの「カンビアーノ」。
ピニンファリーナの「カンビアーノ」。 拡大

そのカラーに秘められたもの

ベルトーネに移ろう。同社は記念すべき創業100周年の今年、「Nuccio(ヌッチオ)」なるショーカーを展示した。今回はモックアップだが、2012年4月に開催される北京モーターショーには、実走モデルを展示予定という。

ファンには説明する必要もないが、“Nuccio”とはベルトーネの黄金時代を築いた二代目経営者ヌッチオ・ベルトーネ(1914-1997年)に由来する。デザインは、84cmという低い車高とともに世界に衝撃を与えた1970年の作品「ランチア・ストラトス ゼロ」を彷彿(ほうふつ)とさせる。

デザインディレクターのマイケル・ロビンソンは、フィアット勤務時代に「ランチア・テージス」などを手掛けたあと、受託生産部門の整理後に再出発した新生ベルトーネからスカウトされた人物だ。彼は「ヌッチオ・コンセプト」について筆者に熱く語ってくれた。

「ヌッチオ・コンセプトはベルトーネのDNAです。デザインにあたっては、懐古趣味におもねるのは正しくない。それでいて、あまりに未来に走るのもクレイジーであると考えました」

ところでルーフのオレンジ色は、やはりランチア・ストラトス ゼロのイメージを踏襲したのか? そんなボクの質問に対して、ロビンソン氏はそれを認めながらも、もうひとつ意外なことを教えてくれた。

「オレンジは故ヌッチオ氏が最も好んでいたカラーだったのです」
ヌッチオ氏本人は、創造力を最もかきたてる色と信じていたようだ。今日も残るベルトーネのスタイリングセンターがオレンジ基調で統一されているのも、それが理由だったという。

ヌッチオの未亡人で今日社主を務めるリッリ・ベルトーネ会長も、ショー初日のプレゼンテーションにはオレンジ色の服を着て臨んだ。
ちなみにそのリッリ会長は、創業100周年記念に同時展示した「アルファ・ロメオ ジュリエッタ スパイダープロトタイプ」を眺めながら、それが製作された1956年は夫ヌッチオとの出会いの年だったことを、ほろりと明かしてくれた。
高度かつ冷徹な産業となって久しい自動車の世界ゆえ、ショーで聞くこうした話は、妙に心に残る。

(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA、大矢麻里/Mari OYA)

ベルトーネの「ヌッチオ」。
ベルトーネの「ヌッチオ」。 拡大
プレゼンテーションでのリッリ会長。亡き夫が好きだったオレンジ色をまとって臨んだ。
プレゼンテーションでのリッリ会長。亡き夫が好きだったオレンジ色をまとって臨んだ。 拡大
ベルトーネのデザインディレクター、マイケル・ロビンソン。
ベルトーネのデザインディレクター、マイケル・ロビンソン。 拡大
こちらは2日目のリッリ会長。自動車柄ブラウスでゲストを迎えた。
こちらは2日目のリッリ会長。自動車柄ブラウスでゲストを迎えた。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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