スバルBRZ tS GT PACKAGE(FR/6MT)/BRZ tS(FR/6AT)
後輪駆動でも“狙い”は同じ 2013.10.28 試乗記 スバルのモータースポーツ部門、STIが手掛けたコンプリートカー「スバルBRZ tS」に試乗。STIが料理したFRスポーツの味とは?チューニングのメインはシャシー
これを待っていたマニアは少なくないはずだ。スバル直系の特別料理人集団「STI」が、あの「スバルBRZ」に初めて手をつけた。
BRZの双子車である「トヨタ86(ハチロク)」のほうは「アフターメーカーを意図的に刺激・支援して、市場を盛り上げる」というトヨタの戦略もあって、早くからモディファイ業界が活発に動いた。しかし、STIはBRZと同等以上に熱く認知された「インプレッサWRX STI」を抱えていたし、また富士重工本体にも、トヨタとすみ分けを考えてか、BRZの戦略に逡巡(しゅんじゅん)があったと聞く。この「スバル初の本格スポーツカー」に対するSTIの動きが、なんとなく鈍かった気がするのには、そんな理由もあるようだ。
今回のコンプリートカーに付与される“tS”という名称は、STIの商品ラインナップでは「エンジンには手を入れず、イジるのはシャシーと内外装のみ。その味つけはあくまで、ストリートで本領を発揮するのがねらい」といったところである。エンジンにまで手を入れる“S○○○”や“R○○○”よりも、ライトな内容なのがtSの特徴である。
限定数は最近のSTIモノとしては多めの合計500台。そして、そのうちの250台を上限として、ハードウエアの基本内容はそのままに、レカロ製バケットタイプシート、ドライカーボンリアスポイラー、ブラック塗装アルミホイールなどを標準装備(WRXでいう“NBR”モデル相当の内容)した“GT PACKAGE”も用意される。
STIのコンプリートカーといえば、特に歴代のWRXベースモデルは「発表から考える間もなく完売」となって、ここで紹介する頃にはもう買えない……というケースが多かった。しかし、今回の「BRZ tS」は現時点でも受注残に余裕があるとか。すでに絶対の信用とコアなファン層を獲得しているWRXとは異なり、BRZは初モノゆえにじっくり吟味される傾向にあるのだろう。まあ、いざ「まだ買えますよ」といわれると拍子ぬけした気分になるのも否定しないが、購入を本気で検討している人には、こうしてわずかでも考える時間が残されているのは素直に朗報である。
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相変わらずの職人かたぎ
STI……というかスバルとしても(ほぼ)史上初の後輪駆動商品となるBRZだが、仕立て内容とその基本手法は、これまでのtSと同じといっていい。おなじみの関節入りのバーや、細いロッドでサブフレームごと一方向に引っ張って微小なガタを解消する“フレキシブル~”と呼ばれる一連の剛性アップアイテム、リア周辺のブッシュのピロボール化、ステアリングギアボックス固定法の強化、そして専用のバネやショックなど……である。さらに、ブレーキキャリパーも前後ともブレンボの対向ピストンに換えられている。
ただ、今回はさらに“大径ドライブシャフト”なるなんとも職人かたぎ……というか、いぶし銀の風情を漂わせるパーツが追加されている。前記のようにエンジンには手が入っていないので「もしかして今後のターボ化の伏線っすか?」とカマをかけてみたが、開発陣の表情はビミョー。今後のターボ化(あるいは「レガシィ2.0GT DIT」からのエンジン換装)の可能性はあるともないともいえなそうだが、少なくとも今回のねらいはそこではない。
今回のタイヤは「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」の18インチ。前後同サイズ。STIが採用するタイヤは結果的にミシュランかブリヂストンが多いようだが、かといって、特定ブランドとのしがらみがあるわけではない。これもけっこうな数の銘柄を試して、純粋に性能や特性で選んだそうだ。まあ、今回はレース仕様のGT300も使っているミシュランになったが、それもまったくの偶然。パイロットスーパースポーツのどこにも偏りやトガリのないオールラウンドな特性が、BRZにマッチしたからだという。
インテリアも“STIチューン”
内外装もいつもの手法で仕上げられているが、それによる実効果はいつも以上だ。
ノーマルBRZ(と86)のインテリアも、ソフトなダッシュボードや扱いやすい位置にある操作系など、各部ディテールは、それなりに悪くないクオリティーやマニアックなこだわりが込められている。しかし、最も目立つ加飾パネルを乗員の目の前にドーンと、しかも巨大な面積で鎮座させるデザインは、質感面ではなかなかむずかしい。こうした大面積パネルはテキトーな仕上げだと極端に安っぽく見えてしまうし、だれにも高級と感じさせる仕上げにするのはコストがかさむからだ。よってノーマルのBRZもインテリアの質感は少なくとも、積極的にホメたくなるようなものではない。
今回のtSではその加飾パネルをカーボン調パネルに置き換えて、各部のメッキパーツもことごとくダーク化、メーターナセルにスエードレザー追加、そして絶妙な位置へのニーパッド追加やステアリングやノブなどの操作系部品の専用化……などの手が入る。
特にカーボン調パネルとスエードメーターナセルの効果は大きく、ひと目見て落ち着きと高級感が増している。また、各操作系も手触りとテカリが柔らかな専用品になっているのだが、すべてが接近したタイトなコックピット空間だけに、こういう微妙な改良が視覚的にも効くのだ。
最大250台限定のGT PACKAGEには、前記のように、レカロ製の「SR」系バケットタイプシートがつく。このBRZ tSでは、そのレカロSRが日本初のサイドエアバッグ付きで供されるのも自慢だそうである。正規ディーラーで販売されるメーカー直系コンプリートカーだから「そんなの当然だろ!?」といわれれば、まさにそのとおり。ただ、この種の安全装置をスバルの名前で発売するには、それ相応の検証と実験が必要。それをtSのような少量販売車で実現したことは、ちょっとした快挙であるらしい。
ストリートで本気で踏むなら
実際の乗り味の美点は、特に乗り手を脅すような鋭さや硬さはないのに、直進安定性と路面変化に対する寛容さが増して……というSTIらしいもの。全体にはそれなりに硬めだが、ノーマルのように不整で跳ねたりチョロついたりしない。まるで左右にカベか、レールがあるような、あるいはパワステが重くなったように錯覚するたぐいの安定感である。
もともとBRZは86よりリアの安定感を優先したチューンだが、tSはそれをさらに強力にした感じ。前輪に荷重を残しながらターンインすると、早期にロールして敏感にノーズが入り込むBRZそのものの基本特性は変わっていないが、tSではそこからリアがきっちりと踏ん張る。ステアリングは敏感なままなのに、ハッキリと姿勢が崩れにくくなっている。
注目の大径ドライブシャフトの効果には驚いた。大径化のねらいは加減速時の微小なネジレを低減することで、右足でのスロットルオンから、車両の加速に実際に蹴りが入るまでのタイムラグを短縮することにある。ノーマルBRZだけに乗っているかぎりは、もちろん、そんなタイムラグなどみじんも感じない。しかし、tSに乗ると、そこには機械では測定できないくらいのラグが確実に存在することがわかる。
BRZ tSの、右足に直結した加減速レスポンスと、それにともなう一体感はノーマルとは別物。エンジンにまで手が入っているように錯覚する。この一体感の醸成にはブレーキも効いていて、絶対的な制動力はともかく、利きのリニアリティーとコントロール性、そして路面にフラットに吸いつくようなブレーキング姿勢で、BRZ tSはどこでも安心してブレーキペダルを蹴っ飛ばせる。それにしても、ドライブシャフトだけでこんなに変わるとは……。目からウロコだ。
もっとも、さすがのSTIでも、この規模のモディファイでは、時に敏感になりすぎるステアリングや、滑りだしが読みにくいリアの接地性など、BRZ特有のクセを完全に払拭(ふっしょく)できたわけではない。それに「とにかくケツを滑らせたい」という向きにはノーマルBRZ、あるいは86のほうが遊びやすいだろう。しかし、路面が刻々と変化する公道で真剣に走りを楽しむなら、明らかにtSのほうが安心感があり、高速ロングドライブでも疲れにくそうだ。
面白いのは、WRX系では必ず先行して売れたリアスポイラー仕様のほうが、受注の伸びがスローだという点。シャシー開発担当の渋谷氏によれば「スポイラーの効果は30km/hでもわかります」とのこと。私個人はさすがに30km/hでは分かったような分からんような……だったが、1時間も走れば、スポイラー仕様のほうがリアの安定感とグリップ感が高いことは明らかに感じ取れた。ご参考までに。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
スバルBRZ tS GT PACKAGE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1775×1290mm
ホイールベース:2570mm
車重:1250kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200ps(147kW)/7000rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/6400-6600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:429万4500円/テスト車=432万6000円
オプション装備:ボディーカラー<サテンホワイト・パール>(3万1500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1012km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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スバルBRZ tS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1775×1290mm
ホイールベース:2570mm
車重:1260kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/7000rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/6400-6600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:374万3250円/テスト車=374万3250円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:984km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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