BMWアルピナXD3ビターボ(4WD/8AT)
クラシックホテルに行きたくなる 2015.05.01 試乗記 アルピナ初のSUV「XD3ビターボ」に試乗。700Nmを誇るツインターボディーゼルユニットはスポーツカーを蹴散らすほどに強力で、しかもスムーズだ。アルピナと聞いて期待する感触は、このスーパーSUVにもしっかり継承されていた。創立50年目のSUV
最新作がいわゆるSUVと聞いても、近ごろでは正直、ああまたか、とちょっと食傷気味になるぐらいだが、それを作ったのがアルピナとなればがぜん興味がわく。ご存じアルピナは、特別なBMWを造り続けて半世紀の節目を迎えたスペシャリストメーカー、その代名詞は高性能ながら控えめで端正なスーパーリムジンである。完璧主義で知られるアルピナがSUVに手を染めたのも意外だが、ダイナミックな性能ではそもそも不利なSUVをどのように仕上げたのかが気になるところ。アルピナにとって初のSUVとなるXD3ビターボは、「BMW X3」をベースにしながら独自のツインターボディーゼルエンジンを搭載し、世界最速のディーゼルSUVを標榜(ひょうぼう)している。日本市場向けには180台の限定だという。
思い起こせばもう30年ほど前、『カーグラフィック』誌の先輩のお手伝いで出掛けた箱根山中でちょっとだけ運転させてもらったのが私のアルピナ初体験だった。当時の「B7」だったか「B10」か定かではないが、とにかく際限なく湧き出す分厚い滑らかなパワーにただただ圧倒されたことを覚えている。その頃に比べれば多少身近になったのかもしれないが、アルピナは今も年間生産1500台程度のごく小規模でスペシャルなメーカーながら、その彼らもついにディーゼルSUVを発売する時代になったのだ。
車の形はどうあれ、ドライバーズシートに座って青と緑のステッチが入った上等なレザーステアリングを握れば、なじみのホテルに着いたような安心感というか、ああこれこれという懐かしさのようなものがこみあげてくる。指に吸い付くしっとり滑らかな革(ラヴァリナレザーというらしい)の感触はそれだけでうっとりする。どんなにプレミアムと言い張っても、ラフな仕上げのステアリングホイールを握った途端に気持ちがシュンと萎(しぼ)んでしまうような車も多いが、アルピナはステアリングホイールの感触にその丹精が表れている。
怒涛のツインターボディーゼル
XD3ビターボには「D3ビターボ」と共通の3リッター直6ディーゼルターボエンジンが搭載されている。BMW本体のラインナップにも258psと560Nm(57.1kgm)を発生する直6ディーゼルターボは載っているが、“ツインパワーターボ”と称しているものの、その実シングルターボ(ツインスクロールタイプ)であり、しかも日本仕様でそのエンジンを積んでいるのは「X5 xDrive35d」のみ。それに対してアルピナユニットは大小2基の可変ジオメトリーターボをシーケンシャルに作動させる正真正銘のツインターボユニットだ。350ps(257kW)/4000rpm、700Nm(71.4kgm)/1500-3000rpmというスペックはちょっと前のV12ユニット並み、「3シリーズ」の4気筒ディーゼルターボと比べるとパワーもトルクもほぼ2倍であり、どんな場面でも怒涛(どとう)のトルクがとうとうとあふれ出して尽きることがない。
車重は1950kgと2トン近いが、強大なトルクとそれを十二分に生かす8段AT(アルピナ独自のスイッチトロニック付き)のおかげで0-100km/h加速は4.9秒、最高巡航速度251km/h。このパフォーマンスはその辺のスポーツカーなど足元にも及ばない。それでいながらJC08モードの燃費は15.9km/リッターを誇る。D3ビターボの同17.0km/リッターや「D5ターボ」の18.8km/リッターほどではないものの、高性能で鳴らすアルピナの燃費がこれほどに優秀とは、やはり時代は変わったのだと実感する。
しかも素晴らしく洗練されている。もちろんかつてのストレート6のベルベットのようなきめ細かな手触りには及ばないが、実にスムーズに回るせいで油断するとついレブリミッターに近い5200rpmぐらいまで回してしまうことになる。またスタート&ストップシステムも備わるが、リスタートの際の振動などは本家BMWのガソリン4気筒モデルよりもよほど小さいぐらいだ。最近はようやく日本でも新世代クリーンディーゼルの選択肢が増えてきたが、力強さと洗練度においてアルピナの6気筒ツインターボディーゼルは別格の存在である。
飛ばせ、飛ばせと車がささやく
アルピナは依然としてランフラットタイヤを採用しておらず、このXD3もミシュラン・パイロットスーパースポーツを履いている。パンクはもちろん、見事な出来栄えの20インチホイールを傷つけてしまう恐れのあるラフロードに好き好んで踏み入る人がいるとは考えられないが、実際走りだしてみると明らかにオンロード用SUVであることが分かる。
オンでもオフでも満足できるオールラウンダーを主張する今時のSUVとは異なり、ビシッと引き締まった足まわりは長いホイールストロークが必要なオフロードには向かない。尖(とが)ったハーシュネスやラフな突き上げ、ゴロゴロとしたバイブレーションなどはもちろん微塵(みじん)も感じさせないが、いかにも強力なバネとダンパーが路面の凹凸を踏みつぶしながら走る様子は、懐かしささえ感じさせる。同じエンジンを積むD3ビターボよりもずっとフラットで引き締まった硬さである。走るうちに車の方からまだ大丈夫、もっと飛ばせと快適速度域の“スイートスポット”は、もっとずっと上のほうにあると促しているような気がしてくる。都内近郊の交通環境でもまったく不満はないけれど、ノーマルモードでもかなり硬派な足まわりの真価はハイスピードでより輝くことは間違いない。
電動モーターを使って前後駆動力配分の鋭いレスポンスを実現したxDrive(4WD)システムは、多少の雪道など滑りやすい路面でもより安心できるという点にまず求めるべきだろう。
“高級車”のお手本
4WDの効果は、おあつらえ向きに(?)冷たい雨にぬれたコーナーからの立ち上がりでも実感することができた。アイドリングのちょっと上の回転数で間髪入れずに700Nmもの弩級(どきゅう)トルクが湧き出すのだから、思い切り踏めばさすがの285/35ZR20という太いミシュラン(前輪は255/40ZR20)もこらえ切れずにジリジリっとわずかに滑り出すが、そこで駆動力を絶妙に配分してくれるせいで、DSCが介入するかしないかの状態で、ほんのわずかなテールアウトかニュートラルかという姿勢を保ったまま猛然と加速する。4WDならではの強烈なトラクションとコーナリング軌道のコントロール性を両立させた見事なバランス。ぬれた路面でも安心できるこのハンドリングを他の普通のSUVと比べては無礼極まりないというものである。
XD3ビターボの車両価格は1234万円、ノーマルX3の2倍に当たる値段だが、X5の35dもなんだかんだで1000万円近いことを考えれば、決して高くはないと思う。走らせれば全然高くないという鷹揚(おうよう)な気分になる。だいぶ少なくなったとはいえ、例えば奥志賀高原や八甲田など、いまなお残る本物のぜいたくさに浸れるクラシックなホテルと同じ、もちろん古くからのこだわりを大切に磨き続けている老舗旅館も同様。効率性からは離れたところにあるぜいたく、洗練を感じるにはそういう選択をしなければならない。「ラグジュアリーな世界観」などという物言いや、インカム付けたスタッフが出迎えてくれる○○リゾートにちょっと辟易(へきえき)しているあなたなら分かっていただけるはず。いかに高級をうたってもチェーン店と専門店の違いは歴然とある。私はそう思います。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
BMWアルピナXD3ビターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1900×1690mm
ホイールベース:2810mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:350ps(257kW)/4000rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)285/35ZR20 104Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:15.9km/リッター(JC08モード)
価格:1234万円/テスト車=1256万1000円
オプション装備:パノラマ・サンルーフ(22万1000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6545km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:267.7km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター(満タン法)/12.4km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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