BMWアルピナXD3(4WD/8AT)
蝶よ花よ 2019.05.21 試乗記 アルピナの商品群において、数少ないSUVの一台である「XD3」。控えめを旨とするアルピナが手がけると、ディーゼルエンジンを積むSUVはどのようなクルマに仕上がるのか? 最大トルク700Nmの豪快さと、繊細なドライブフィールが織り成す妙味を楽しんだ。“M”との違いを知りたい
先ごろBMWの「X3」に追加されたグレード「M40d」は、その名の通りディーゼル版のMパフォーマンスとして企画され、その3リッター直6直噴ディーゼルターボは、最高出力326ps&最大トルク680Nmを発生。怒涛(どとう)の加速力でドライバーを驚かせる一台だ。日本的な感覚でいえばサイズが若干気になるものの、それはベースモデルも同じ。価格も含めてかなり魅力的な選択肢だと感じていた。
と、そこで思い出したのがこのクルマの存在だ。日本で買えるアルピナのモデルとしては、唯一のSUVとなるXD3。ベースとなるのはG01系X3で、M40dと同じB57系3リッター直6を搭載するものの、シーケンシャルツインターボの採用をはじめとした独自のチューニングが施され、パワースペックも同333ps&同700Nmと微妙な差がつけられている。コスパ的優劣はともあれ、ドライブフィールにどれほどの違いがあるのかという点も興味深い。
そんなわけで、試乗のために預かることになったXD3との初対面。アルピナの名に期待するアンダーステートメントをあまり感じなかったのは、立体的にかたどられたフロントスポイラーのエンブレム、そしてオプションの22インチホイールを履く足元などの“圧の強さ”が故だろうか。対して内装はお約束のエルムウッドも施されない黒ずくめで、かえってブルーのメーターパネルの主張が程よく効いており、落ち着きが感じられる。ステアリングやシートのステッチはあえてブルー&グリーンを避けているが、いざ自分で購入する段になると、ここまで“アルピナ色”を抑える選択は勇気がいるだろう。ちなみに、これらのフィニッシュは予算と納期さえ許容できればコンフィギュレーションが可能だから、もちろんいやらしい位に地味にも派手にも仕上げることができる。
乗り心地を取るべきか、美しさを取るべきか
アルピナの美点として挙げておきたいのはステアリングの仕上げだ。基準車と同等の機能や操作性は維持しつつ、細身のスポークにラヴァリナと呼ばれる仔牛(こうし)の革を巻き付けたそれは、ちくわを握っているかのようなM系の極太仕立てとは対照的に、微細な入力を積極的にドライバーに促してくれる。手動によるAT変速のためのロジックも搭載されるが、大仰なパドル的なものはなく、その作業はスポーク左右の裏側に仕込まれた豆粒のようなボタンをポチポチと押すかたちだ。確たるスポーティネスを標榜(ひょうぼう)しながら、よくあるレーシーな演出とは断固として一線を画す。クルマ趣味にのめり込みすぎてこじらせた御仁に、アルピナが評価されるのもよくわかる。
独自のチューニングが施されたエンジンに一切の気難しさはない。キーをひねれ……ではなく、ボタンを押せばスルッと始動する。ガラガラ系のディーゼル的なノイズは、始動時や低速域では若干目立つだろうか。振動は、気にかけるほどでもない細かい高周波のものがわずかに手のひらに伝わるくらいで、ストレート6の素性の良さが確実に表れている。
日常的に多用する低中速域での乗り味に関しては、誰もが期待するアルピナのそれとは微妙に一線を画している。もちろん、高架のジョイントや路面に刻まれた凹凸、路肩の段差などで下世話なアラが飛び出してくるわけではないが、まれに若干のトゲを感じるのも確かだ。この点、リムジン系は徹頭徹尾絶品のフットワークをみせるが、そこはXD3。モノがSUVゆえの高重心もあり、さすがにサスセットはロール側との折り合いもつけにくいだろう。加えて試乗車はオプションの22インチホイールを履くことも勘案しなければならない。乗り心地を優先するなら当然標準の20インチ一択。しかし、キリッと繊細なフィンが立った22インチの見た目も捨てがたく……と、ここはオーナー候補の方々におかれては悩ましいことになると思う。
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“蝶よ花よ”と扱いたい
2つのターボは作動や協調のラグも一切感じさせず、低回転域から車体をゴンゴンと押し出してくる。なにせ1750rpmから発せられる最大トルクは700Nm。遅かろうはずもない。が、その加速感には狂気も暴力性もない。アクセルをベタッと踏み込めば即座に体全体がシートにグーッと押し付けられ、そのままの状況で4500rpmの向こうまで同質の加速が続く。最近乗った「ジャガーIペース」やメルセデスの「EQC」などといったツインモーターBEV(電気自動車)と、加速の質感は似ているかもしれない。ただしこちらは内燃機。スピードの伸びも音の臨場感もまったく異なる。
中高速域になると、ディーゼルのノイズ感はまったく影を潜め、サスペンションのアシさばきはがぜん生き生きとしてくる。板ゴムを巻き付けたような22インチはものの見事に路面に染み入り、大きなうねりを受けてもバネ下はきっちり追従。そして上屋は見事にフラットネスが保たれる。この追従性の高さもまた、700Nmの暴力性を感じさせないために大きく貢献していることは間違いない。そして、本来なら体格的に不得手であろう、タイトなワインディングロードのクリッピングポイントでも、安心してアクセルを踏み込んでいけるグリップ力を思えば、確かにアルピナが22インチという選択を設けた理由がわかる。くしくもその間となる、21インチを用意したM40dの見識も評価すべきだろう。
ともあれ思うのは、SUVの体をしてこのアルピナの繊細な味わいは一体どこからにじみ出てくるものなのだろうかということだ。それを考えだすと夜も眠れない……ということはないにせよ、露天の駐車場で毎夜を過ごさせるのもしのびないし溝がなくなるまでタイヤをすり減らすなんてもってのほか。もちろん生菓子のように気遣うものではないにせよ、できることなら冷暗所で保管しておきたいとさえ思わせる。
スーパーカーでもないというのに、ドライバーをそこまで過保護な感情にさせるクルマというのはそうはないだろう。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMWアルピナXD3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1895×1675mm
ホイールベース:2865mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:333ps(245kW)/4000-4600rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR22/(後)285/30ZR22(ピレリPゼロ)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:1094万円/テスト車=1246万8000円
オプション装備:ステアリングホイールヒーティング(4万円)/電動ガラスパノラマサンルーフ(20万2000円)/ランバーサポート(5万2000円)/ドライビングアシストプラス(18万円)/テレビチューナー(13万5000円)/ヘッドアップディスプレイ(13万2000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(9万4000円)/ノンスモーカーパッケージ(0円)/シートバックレストアジャストメント(2万円)/ラヴァリナステアリング(6万8000円)/フロントヘッドレストのひし形マーク(9万2000円)/ALPINA CLASSIC 22インチホイール&タイヤセット(49万円)/ガルバニック・フィニッシュ(2万3000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:5707km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:232.5km
使用燃料:20.0リッター(軽油)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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