メルセデスAMG GT S(FR/7AT)
汗もかけるスーパースポーツ 2015.06.03 試乗記 「メルセデスAMG」ブランドのスーパースポーツカー「AMG GT」に試乗。新開発の4リッターV8ツインターボエンジンを搭載する新型2シータークーペは、富士スピードウェイでいかなる走りを見せるのか。パフォーマンスは文句なし
このようなスーパースポーツをサーキットで試乗する機会をいただけるのは実にありがたい。0-100km/h加速3.8秒、最高速度310km/h(GT Sの数値)の超高性能車ともなれば、普通の道ではその実力のほんの一片を垣間見るのが精いっぱい、高速域はそもそも試せない。誠にありがたいことではあるが、ただし同時にサーキット走行ゆえの制約もあるし、何より速い車ほどあっという間に試乗が終わってしまうのだ。当たり前だけど。
メルセデスAMG GTの試乗会は富士スピードウェイのピットガレージで国内発表会を行った直後に、本コース上でのテストドライブという段取りだった。ピットアウト/インの周回を含めてひとり4周という割り当ては少ないと思われるかもしれないが、発表直後のスーパースポーツでは実はそんなに珍しいことではない。はるばるマラネロまで出掛けて富士の半分ほどの距離のフィオラーノ4周だけということもあったし、突然F1のテストが入ったからここで切り上げ、なんて経験もある。
コックピットのあちこちをあらためて見回しながら、7段デュアルクラッチ式のAMGスピードシフトDCTのシフトアップのスムーズさなどを確認しつつピットアウト、と前方に目を戻せば先導車はもう小さくなっているではないか。え、アウトラップはノーマルモードで確認しながら行きます、てなことを言ってなかったっけ? ちなみに先導車の「SL63 AMG」のドライバーはAMGドライビングアカデミーのインストラクターも務めている元F1ドライバー高木虎之助選手、いや今ではスーパーGTの監督だから、ちょちょっと待ってカントクさんということになるが、スケジュールがタイトだったというよりせっかくの高性能を存分に体験してもらおうという配慮からだと思うが、いきなり容赦ないペースである。あまり離れてしまっては後続車にも迷惑をかけることになるので、各部観察を諦めてスロットルペダルを踏みつける。途端に4リッターV8ツインターボはちょっとアメリカンな野太い咆哮(ほうこう)を轟(とどろ)かせながら、猛然とかつスマートに加速する。上記性能データを納得させる瞬発力である。
やや小さいボディーに新型V8ツインターボ
このAMG GTはメルセデスAMG社による自社開発スポーツカーの第2弾という位置づけだ。デビュー前は「SLS AMG」の後継モデルともうわさされたが、実際には微妙に異なるようだ。まず「SLSクーペ」(4640×1940×1265mm)と比べると全長×全幅×全高は4550×1940×1290mmで全長が90mm短く、ホイールベースも2630mmと50mm短縮されている。いっぽうで全幅は変わらず、奇をてらわない伝統的なクーペスタイルながら迫力は十分だ。SLS同様アルミスペースフレームを採用するAMG GTの車重は1615kg、高性能版のGT Sは1670kgでSLSより20kgほど軽いが、GTは国内発売が9月以降とやや遅れるためにこの数値は欧州仕様のものだ。ほかにもドライサンプ式潤滑やフロントミドシップ、リアデフ直前に7段DCTを配置するトランスアクスル・レイアウトなどの技術的特徴をSLSから受け継ぐが、エンジンは一新されている。
長いエンジンフードを開けると、組み立て担当の熟練メカニックの名が刻まれたAMGのエンブレムがまず目に入るはずだが、エンジン本体はそのカバーの下ではなくずーっと奥のターボチャージャーが2基Vバンクの内側に並んだ場所の下、つまりフロントアクスルの後ろに低く搭載されている。4リッターV8直噴ツインターボは、エミッション規制強化で引退を余儀なくされたあの名機、「63AMG」用M159型6.2リッター自然吸気V8に代わるAMGの新主力ユニットで、間もなく日本にも導入される新型「AMG C63」に搭載されているV8ツインターボ(M177型)も基本的に同じ一族だが、ドライサンプ化されたGT用ユニットはM178という型式名となる。そのスペックは510ps(375kW)/6250rpm、66.3kgm(650Nm)/1750-4750rpmで、SLSのV8(571ps/66.3kgm)にピークパワーではちょっと譲るものの、ずっと低い回転域で湧き出る同レベルの最大トルクがそれをカバーして余りある。ちなみにGTは462ps(340kW)/6000rpm、61.2kgm(600Nm)/1600-5000rpmと若干出力が低い。
涼しい顔で270km/h超
トリッキーな上りコーナーが続く最終セクションを慎重に抜けてストレートに出ると、すでにペースカーははるか先である。こちらも遠慮なく全開にすると、オートモードでもほぼリミットに近い7000rpmまで軽々と回ってシフトアップ、それを繰り返しているうちに見る見るスピードが乗って行く。SLSの荒々しく、野性味溢(あふ)れるV8と比べると拍子抜けするほどの洗練度だが、フライングラップ1周目だからどこかで少し緩めるのかなと思った時にはスタート/フィニッシュライン辺りで270km/hを超えてしまっていた。涼しい顔でこれほどの速度に達する車はめったにない。
当然注意はしていたものの、その先のブレーキングでは意外にストロークが深くちょっとヒヤッとした。フロントには大径390mmのドリルドコンポジットディスク(GTは360mm)を備えるものの、サーキットの連続走行ではやはり多少ブレーキが深くなるのは仕方ないことかもしれない。時々サーキットを走るつもりだという方は、GT Sにオプション装着(およそ100万円)できるカーボンセラミックブレーキを注文した方が安心できるはずだ。
コーナリング時の長いノーズの反応は適切にシャープといえる。SLS AMGやかつての「SLRマクラーレン」は目の前に伸びたノーズが動き出してから比較的後部に座るドライバーが旋回力を感じるまでタイムラグというか、“よっこいしょ”感があったが、AMG GTは自ら鋭く切れ込む最新のミドシップほどでもなく、少なくともサーキットでは正統派後輪駆動らしいリニアで自然な挙動を見せた。さらにコーナー脱出時には、バランスの良い前後重量配分(47:53)を生かしながら、電子制御の助けを借りて(GT Sは電子制御LSDを標準装備)、ジリジリッとわずかにテールを振り出すファイティングポーズを構えることも容易である。トラクションコントロールの作動を知らせるランプが頻繁に点滅するが、それでもパワーを絞ってがっくりと加速が鈍ったりしないところは巧妙であり、切り替えできるドライブモードをC(コンフォート)からS(スポーツ)、S+(スポーツプラス)に進めるにつれてよりアグレッシブな姿勢を積極的に維持できるようになるが、I(インディビジュアル)とGT Sだけに設定されるサーキット走行用の「RACE」モードを試す暇はなかった。リスクは犯したくないが、ハラハラドキドキする感覚は経験したいという現代的で都合のいい要望にはSかS+で十分に応えられるはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ゴルフに行ける実用性も
これまでAMG各車の呼称は「メルセデス・ベンツSLS AMG」や「メルセデス・ベンツSL63 AMG」というものだったが、今回から「メルセデスAMG GT S」、「メルセデスAMG C63」という表記に変更された。メルセデス・ベンツ・グループ全体の中での位置づけを明確にし、ライバルに対抗するためのラインナップ拡充に備える狙いらしい。
このAMG GTの仮想敵は、GTで1580万円、GT Sで1840万円という、車の成り立ちやスペックを考えるとかなり戦略的な値段を見れば明らかだ。第一に「ポルシェ911」、そして「ジャガーFタイプ」などの15万ドル級スポーツカーである。SLSは2490万円だったから、カテゴリーが違うことがよく分かる。911を向こうに回すには当然実用性も重要だが、例えばハッチゲートの下のラゲッジスペースはミドシップの「ポルシェ・ケイマン」のように浅いものの、ボディーが幅広く大きい分、VDA方式で350リッターとかなりの容量を備える。ゴルフのキャディーバッグと着替えのバッグぐらいなら楽に2人分を収められるぐらいのスペース(横にも積めるらしい)も同じく176リッターだったSLSとの大きな相違点である。サーキットだけでなくグランドツーリングでも活躍できるというわけだ。
そのためにも、実は一番確認したかった乗り心地については残念ながら何とも言えない。海外試乗会からの情報によると明らかに硬くスパルタンだというが、サーキットではまったく問題には感じられなかった。日常使用に支障があるほど硬派な足まわりを持つのかどうかは、公道を走れるようになるまでお預けである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GT S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1940×1290mm
ホイールベース:2630mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:510ps(375kW)/6250rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/1750-4750rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y/(後)295/30ZR20 101Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:1840万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
NEW
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。





























