三菱ランサーエボリューション ファイナルエディション(4WD/5MT)
一時代の終焉 2015.07.17 試乗記 10代、23年間にわたって進化を続けてきた「ランサーエボリューション」にいよいよ終止符が打たれる。その最終進化形である「ファイナルエディション」に雨のサーキットで試乗した。進化は“民衆化”でもある
「ランエボ」の愛称でおなじみのランサーエボリューションは、たびたび改良型が送り出されてきたが、10代目にあたる今回でいよいよ最終型が出て“打ち止め”となることになった。そのプレス試乗会が富士スピードウェイのショートサーキットで行われた。
ランエボは、元を正せばラリーへの出場を前提にしたチューンドカーであり、いわば究極の高性能車だ。市井にあまたあるスペシャリストの作とは異なり、単にパーツ交換しただけのクルマではない。メーカーが製作する市販車である以上、すべての点でキッチリ造られ、最新鋭の技術に裏付けられていることは言うまでもない。
その時点で最高の性能を誇った上で、さらにその発展型として10代目ともなると、まさに究極の完成度を誇るはずだ。細部まで煮詰めて、欠点難点をつぶしていくと、性能の追求だけでなく安全性も徹底して考慮されているわけだから、そうした意味ではランエボは、万人向けの“超安全高性能実用車”的な性格も兼備していることになる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ウエットでも破綻知らず
試乗会当日は雨で、路面は完全なウエットであった。しかし、そんなことをまったく気にせず、ドライ路面と同じように走れてしまう破綻知らずの高性能ぶりには恐れ入った。
許容度が大きいというか懐が深いというか、大ざっぱに扱っても速く走れてしまう。コーナーへの進入が速すぎると思えば、途中でブレーキを踏めば姿勢を乱すことなく減速するし、ヘアピンなどで2速でパワーが足りないと思えば1速にだって落とせる。エンジン回転が頭ウチになることなしに、十分高回転まで許容するからだ。
また、エンジンをリミット上限ギリギリまで回さず、途中でシフトアップしてしまってもターボ過給が走りを補ってくれるから、どこでスロットルペダルを踏んでもさしてパワー不足を感じることなく、期待する速度が得られる。
4WDの駆動力伝達もうまく働いて、ラフな操作であってもホイールスピンなどの“抜け”はない。よって4輪に適切な駆動力や減速力がかかっているから、ヨー方向の無用な姿勢の乱れもなく、舵角(だかく)に沿った進行方向に正しく導いてくれる。
メインストレートに続く、ショートサーキット唯一の高速コーナーっぽい左コーナーでは、4速から3速に落として進入。速すぎれば車自身が適当に減速してコーナーをクリアしてくれるし、クラッチを踏むなどして前後のトラクションを抜いて、ボディーのヨー慣性で流してみようと試すと、ヨーコントロールが働いて姿勢も制御してくれる。だからスピンなどとは無縁だ。適当な操舵(そうだ)で進行方向を指定し、スロットルとブレーキで加減速を加えれば、最終的にはいろいろな方法で目的の脱出速度に到達する。
試乗会の最終日ともなると、多数のテスターによっていじめられたシフトノブが緩んでいて、頭が回ってしまう点だけは興ざめであった。しかしまあ、こんなものは締めれば済むわけだが……。
“付加物”なしのベース車両も試してみたい
今や313psにもなる高性能エンジン車のサーキット試乗ということに対する期待からすれば、ランエボの破綻知らずの高性能ぶりにはやや呆気(あっけ)なさを覚えた。もっとも、メーカーが造る量産商品となれば、めったに破綻しない安全性にこそ意が注がれなければならないのだ、という考えも、10分の試乗を3回こなすうちに変わってきた。
“短期決戦型ドライバー”から見たランエボの嗜好(しこう)面における問題は、あらゆる面でのレスポンスというか、入力に対して即応する繊細さや機敏さがもっと欲しい点にある。だから、現代のハイテクで電子デバイス満載モデルの対極にある、一切の付加物を外してシンプルにした軽量なベース車両などにも興味はある。
ある程度、能力が未熟であっても、そこをテクニックでカバーしたりコントロールすること自体がクルマを操縦する楽しみというか、面白みでもある。それを全部クルマに勝手にやられてしまっては、ドライバーにとって旨味がないというものだ。
でも、競技となれば話は別で、ソッチ方面では速くなければ意味がない。そんなふうに勝ち負けをうんぬんするなら、ランエボのこの特性は正解である。ラリーフィールドでは湯船に漬かってリラックスしたまま乗るような、そんな柔軟性こそが、千変万化するステージでタイムを稼ぎやすく、戦いに勝てる要素なのだろう。カミソリのようにシャープで機敏な特性では、ドライバーが疲れてしまって長丁場では神経がもたない。人間が操作するより、機械や電気作動の方が正確でもある……。
なんだか話が支離滅裂になってきたが、もう少し続けてみよう。
これからの三菱に期待
ダイレクトなレスポンスを阻害するものとして、例えば過給機とインタークーラーを結ぶパイプなどは気になるところだ。ランエボの場合、弾力性のある材質で作られており、指で押すと変形するほどだから、これでは瞬間的な圧力の高まりは逃げてしまうだろうし、スロットルオフでその膨らんだ部分が戻る時に、遅れて吹け残ることになる。
ランエボではないが、他車でそれが時間経過とともにブカブカに柔らかくなってしまった例も知っている。どの程度ならば許容するとかの問題ではないと思う。なぜなら、ランエボは一般的なものに満足できないユーザーのための一台だからだ。
またこのクルマなら、ドライバーはシートベルトでシートに縛りつけられていることが大前提なのだから、極論すれば、ステアリングのエアバックなどはなくても構わないとすら筆者は思う。こういうクルマの場合、それよりよほど大事にされなければならないものは操舵フィールなのであり、ステアリングホイールの慣性モーメントの軽減には留意してほしいところである。
そうした量産車では得にくい繊細な操縦感覚こそ、ランエボに求められる性格の一面だと思う。しかし繰り返すが、実際にはそれとは逆に一般性を考慮しなければならないところが、メーカー主導で高性能車を造る上での難しいところなのかもしれない。
単に楽チンで速いだけでよいならばATの需要もあるわけで、ランエボXのツインクラッチSST搭載車以外にも、過去にワゴン版でそんな仕様もあったと記憶している。
いずれにせよ、ランエボはこのファイナルエディションでその歴史に終止符を打つ。特殊な高性能車にありがちなマニアックで個性的、そんな扱いにくさを大きく改善し、操縦する面白さと安全性という両面を追求した成長過程を経て、そろそろここいらでいったん区切りをつけて、また新たな気持ちで出直そうという機運も社内外ではあるに違いない。
ともあれ、このファイナルエディションは1000台の限定である。価格は429万8400円と高価格車でもある。すでに予約受け付けも始まっており、7月2週目の時点でもう1桁台数しか残っていないと聞いた。ランエボとはそんな超人気車種である。残り物に福あれ。そして次なる新規高性能車に期待するところも大である。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
三菱ランサーエボリューション ファイナルエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1810×1480mm
ホイールベース:2650mm
車重:1530kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:313ps(230kW)/6500rpm
最大トルク:43.7kgm(429Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93W/(後)245/40R18 93W(ヨコハマ・アドバンA13)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:429万8400円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2633km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

笹目 二朗
-
メルセデス・ベンツCLA220シューティングブレーク(FF/8AT)【試乗記】 2026.9.21 メルセデス・ベンツの「CLA」がフルモデルチェンジ。シャシーやパワーユニット、さらにインフォテインメントシステムなど、すべての要素を刷新したとされる、メルセデスの次世代を切り開くモデルだ。1.5リッターハイブリッドの「シューティングブレーク」を試す。
-
ホンダ・シビックe:HEV RS(FF)【試乗記】 2026.9.19 ホンダのCセグメントハッチバック「シビック」に、スポーティーな走りが身上の「e:HEV RS」が登場。ハイブリッドのパワートレインと専用チューニングのサスペンションが織りなす走りは、いつもの道でこそ輝くものに仕上げられていた。
-
BYDラッコ300プレミアム(FWD)【試乗記】 2026.9.16 中国BYDの軽スーパーハイトワゴン「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。価格の安さや装備の充実度はすでに報じられているとおりだが、やはり自動車の仕上がりは実際に動かしてみなければ分からない。高速道路やワインディングロードでの印象をリポートする。
-
マツダ・ロードスターPS/ロードスターS/ロードスターRF VS【試乗記】 2026.9.15 デビュー以来、不断の進化を続ける「マツダ・ロードスター」。2026年の改良は、“走り”の特別仕様車「PS」の設定が話題だが、試乗すると、ほかにも多くの変化が見てとれた。日本を代表するライトウェイトオープンスポーツの、最新モデルの仕上がりを報告する。
-
スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】 2026.9.14 「スズキ・ジムニー ノマド」でロングドライブ。本格クロカンとして悪路での走りに定評あるジムニーの5ドア・ロングボディー版は、カジュアルなSUVとしても使えるのか。多くの人が多くの時間を過ごすであろうオンロードにおける日常的シーンで、その実力を確かめた。
-
NEW
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由
2026.9.23デイリーコラム国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。 -
NEW
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地―
2026.9.23カーデザイン曼荼羅今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。 -
NEW
日産ムラーノ プラチナム(4WD/9AT)【試乗記】
2026.9.23試乗記ドナルド・トランプ米大統領の圧力のおかげで(?)新しい「日産ムラーノ」の国内導入が決まった。日本を留守にしていた約11年の間にどう変わったのか、まさに「朋有り、遠方より来たる」の気分だ。本格導入よりもひと足早く北米仕様車の仕上がりを試した。 -
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【試乗記】
2026.9.22試乗記フェラーリの最新ラグジュアリークーペ「アマルフィ」に試乗。2+2のシートレイアウトを持つ優雅な一台は、その姿にたがわぬ快適な乗り心地を備える一方で、スーパースポーツにも比肩する高いパフォーマンスも秘めたマシンとなっていた。 -
「長く愛されるクルマ」の開発で大事なことは?
2026.9.22あの多田哲哉のクルマQ&A欲しかったクルマを購入したなら、長く付き合いたいと思うユーザーは多いはず。では、“長く愛されるクルマ”を実現するための条件とは何か? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いてみた。 -
メルセデス・ベンツCLA220シューティングブレーク(FF/8AT)【試乗記】
2026.9.21試乗記メルセデス・ベンツの「CLA」がフルモデルチェンジ。シャシーやパワーユニット、さらにインフォテインメントシステムなど、すべての要素を刷新したとされる、メルセデスの次世代を切り開くモデルだ。1.5リッターハイブリッドの「シューティングブレーク」を試す。





























