第127回:ミレニアルズはフォード・フォーカスに乗らない
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
2016.07.21
読んでますカー、観てますカー
脚本の評価が高い監督の新作
ホンと編集が映画の出来を決める。この2つの要素がダメだと、どんな名優を出そうが派手なCGを使おうが無駄なこと。鳴り物入りの大作が続々とコケているが、どれも脚本がひどすぎた。『ズートピア』が大ヒットしたのは当然のことだ。7人の脚本家チームが関わったそうで、実によく練られたストーリーだった。『教授のおかしな妄想殺人』や『エクス・マキナ』も脚本が秀逸である。平野勝之監督の『青春100キロ』はドキュメンタリーなので脚本はなく、編集の力で傑作に仕上がった。この作品については内容に触れるのがはばかられるので、ぜひ検索してほしい。
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』に関しては、観る前からまったく心配の必要がなかった。監督・脚本はノア・バームバック。『ライフ・アクアティック』でウェス・アンダーソン監督と一緒に脚本を書いて注目された人物である。監督も務めた『イカとクジラ』ではアカデミー脚本賞にノミネートされた。『グリーンバーグ』『フランシス・ハ』も、地味な作品ながら脚本が高く評価されている。
主人公のジョシュはドキュメンタリー映画の監督。ただ、このところ8年間は新作を発表していない。アートスクールの講師がすっかり本業になってしまっている。演じているベン・スティラーは、2010年の『グリーンバーグ』でも主演していた。彼のキャラクターには、どうやらバームバック監督自身の経験が反映されているらしい。
若い世代はレトロが好き
ジョシュアの妻コーネリア(ナオミ・ワッツ)は映画プロデューサー。40代の夫婦には子供がおらず、ずっとブルックリンで暮らしている。インテリ同士で、典型的なアート系オシャレカップルだ。何よりも自由を大切にするライフスタイルは都会的で超イケている、と本人たちは思っているフシがある。しかし、同じようなタイプだと思っていた友人たちは、子供を作って“普通の”生活を選んでいく。
彼らもこのままの生活を続けていけないことはうすうす感じている。内心は不安なのだ。惰性で日々を過ごしていたが、新鮮な刺激をもたらす出会いがあった。講義を聞きにきていた20代の夫婦が、ジョシュのファンだと言って声をかけてきたのだ。新作もない自分の作品をどこで知ったのかと疑うこともせず、ジョシュは有頂天になる。
世代の違うカップルの生活はジョシュにとって新鮮なことばかり。最先端ではなく、むしろレトロなのだ。iPhoneに頼りきっているジョシュとは対照的に、彼らはアナログなアイテムを好む。CDではなくレコード、DVDではなくVHSテープがお気に入りだ。監督志望だというジェイミーを演じるのはアダム・ドライバー。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のカイロ・レン役で一躍スターになった俳優だ。
彼はバームバック監督の『フランシス・ハ』にも出演していて、その時も彼の部屋にはLPレコードのコレクションがあった。人物造形はどこかつながっている。妻のダービーは『レ・ミゼラブル』のコゼット役が可憐だったアマンダ・サイフリッド。見るからに好感の持てるカップルだ。ダークサイドに堕ちているとは到底思えない。
自転車に乗ってニューヨークを走る
2人に刺激を受け、ジョシュは若さと快活さを取り戻していく。SNSにかまけていないで外に飛び出せば、ニューヨークの街は出会いと発見に満ちている。彼らの移動手段は自転車だ。狭くて人口の密集した都会では、クルマよりもはるかに有用な乗り物である。東京と同じだ。
『グリーンバーグ』でベン・スティラーが演じた人物は、ロサンゼルスからニューヨークに移住してクルマの運転ができなくなってしまっていた。15年ぶりにロサンゼルスに戻ってくると、クルマがなくては不便この上ない。ロサンゼルスはクルマでの移動を前提に設計された都市である。この映画では、運転ができないことが主人公の心の欠落と重ね合わせて描かれていた。
ジェイミーに誘われてジョシュがカフェに入ると、義父のブライトバート(チャールズ・グローディン)がいた。ドキュメンタリー映画の巨匠でジョシュは以前アシスタントを務めていたが、久しく絶縁状態が続いている。気まずい空気になるが、ジェイミーはすかさず自分を売り込みにかかる。
彼には以前から温めていたドキュメンタリー映画の企画があった。最初は気乗りのしなかったジョシュだが、撮影に協力することを申し出る。ブライトバートも支援を約束した。ジェイミーにはまわりの人間を巻き込んでいく魅力と勢いがあるらしい。
若いつもりでも、人は確実に年をとる
彼らは取材でポキプシーを訪ねることになる。ブルックリンからは100km以上離れている場所で、さすがに自転車では行けない。クルマに乗っていくのだが、ジェイミーはここでもこだわりを見せた。1990年頃の「オールズモビル・カトラス」を持ちだしたのだ。恐らく友人に借りたのだろう。彼らのコミュニティーでは、ちょっと古いものがクールだという共通認識がある。
ミレニアルズ、あるいはジェネレーションYと呼ばれる世代だ。ジョシュとコーネリアは、ジェネレーションXに属する。日本で言えば、新人類から団塊ジュニアあたりに相当するだろうか。ミレニアルズはゆとり世代とだいたい重なる。何でも世代論で片付けるのは乱暴だが、考え方が時代の影響を受けるのは確かだ。ずっと新しいものを追い求めてきたジョシュたちと違って、若い世代は新しさに価値を見いださない。
ジョシュは後に1人で再びポキプシーに向かうことになる。彼はレンタカー屋で借りた「フォード・フォーカス」に乗っていく。合理的な選択だ。実用的でバランスのとれた性能のモデルである。カトラスより出来のいいクルマと考えるのが普通だが、ジェイミーには面白みのない工業製品だと映る。
世代間の考え方の違いはほかにもある。ジェイミーたちは文化と芸術が大転換を遂げた後に生まれ、 過去と現在は同じ平面に並んでいるという感覚だ。ジョシュはオリジナルに敬意を払い、創作の過程を重視する。同じ行為をめぐって、盗用なのかリミックスなのか、見解は真っ二つに分かれることになる。
バームバック監督は、世代間の価値観の違いに判定を下すようなことはしない。ジェイミーたちだって、そのうちにもっと若い世代から突き上げを食う。原題は『While We're Young』。若いつもりでいても、人は確実に年をとる。その事実をかみしめつつ、くちばしの黄色い連中に対してはふてぶてしい態度で居丈高に臨むのがオヤジ世代のたしなみである。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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