いすゞ・エルフ ハイキャブ ショートボディー ドライバン(FR/5MT)/エルフ ワイドキャブ ロングボディー ドライバン(FR/6AT)
マイカーにしたい! 2016.10.12 試乗記 国内新車販売台数15年連続ナンバーワン! 日本の小型トラック市場における不動の人気モデル「いすゞ・エルフ」に試乗。ビジネスユースを徹底的に考え抜いたドライブフィールには、乗用モデルも見習うべき多数の美点が見受けられた。とにかく運転しやすい
あるクルマ(乗用車)を運転してみて、走りがよくなかった。快適じゃなかった。リファイン度が低かった。そんなときに「あんなの、トラックだよ」。いったことのある人や聞いたことのある人は少なくないんじゃないでしょうか。
いすゞ・エルフ、運転しやすい!! 具体的には、例えばハンドル関係がイイ。あとブレーキ関係とアクセル関係も。いうまでもないことだけど、クルマを運転する際に扱うというか操作するのは主にその3カ所である。あとはそう……ギアチェンジ関係。今回の2台のエルフのうち車体が短くて荷台がパネルバンになっているほうは3ペダルの5MTで、それに関しても扱いやすさはバッチリだった。冗談抜き、自動車学校の教習車にしたほうがいいレベル。
クルマの動質を評価する際に使われる言葉のひとつに“N感”というのがあって、これはヨリ具体的にはハンドルの手応えをウンヌンする際のタームである。N感のNはニュートラルのNで、簡単にいってしまうと、手応えがない感じ。あるいは手応えのなさ。エヌカン(さらに略して“エヌ”とも)。クルマが真っすぐ走っているとき≒前輪が真っすぐ前を向いているときはその前輪はCF(コーナリングフォース)やSAT(セルフアライニングトルク)をほとんどかまったくか発生していなくて、したがってハンドル手応え的にもゼロかほぼゼロ。本来は。
その手応えゼロの状態からハンドルを動かしていくと、タイヤが横方向のチカラを発生し始めて……のところで手応えが変わる、というか出始める。で、ここのところが“微舵”。ビダ、と読む。コーナリングをやっていないときのクルマの進路は、ハンドルでいうとエヌから微舵までのところを使って管理する。本来は。「本来は」なのは、いまの乗用車、そこらへんがかなり壊滅的なことになっているからである。ということはイットミーンズ、ただフツーに真っすぐ走るだけのことがラクじゃない。するとどうなるかというと、集中して疲れるか、あるいは気にしないで走らせて進路がヨタるか。
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あるべき手応えがちゃんとある
エルフを運転していてうれしいことに、ハンドルにそのN感や微舵がある。宇宙イチとまではいわないけれど、ちゃんとある。人間が扱う道具としてはあってアタリマエの手応えがあることをトクベツうれしく感じてしまうというのは、つまりそれだけいまの乗用車がヘンだということの裏返し。乗用車だけ乗っていると気がつかないかもしれないけれど、エルフを運転したらイッパツでわかる。
なおエルフ、ステアリングのギアボックスの形式はラック&ピニオンである。同クラス他車のなかにはリサーキュレーティングボールを使っているものもあるけれど、エルフは“ラッピ”で統一(サーボアシストはもちろんというか、油圧タイプ)。あとフロントの懸架装置に関しても、エルフは「インデペンデント」、ダブルウイッシュボーンを全車種に。つまり、車軸式は使われていない。
トラック業界のお約束として、試乗車は“定積”の状態にしておく。定積とは定格積載の略で、要は2t積みなら2tのオモリを積んでおく。動力性能的にはもちろん空荷のほうが有利であるわけだけど、乗り心地もふくめてその状態でバッチリになるようにクルマがしつけられている。今回の2台のうちの短いほうに関しては、荷台の床面には水満タンのポリタンクがビッシリ敷きつめられていた。9×9=81個ということは、1個あたり18kgとして約1.6t。自重に加えてそれだけの重さの荷物を、排気量2.99リッターのディーゼルで運ぶ。動かす。
車両重量はフロント1470kg+リア1030kg=2500kg。車検証より。同じく、車両総重量は4665kg(つまり、いまの普通免許で運転可)。ついでに書くと、全長×全幅×全高は498cm×189cm×301cmとあった。いまのトラック界ではエンジンのダウンサイジングが進んでいて、というかアタリマエで、総重量8トンとかまでは3リッター4気筒の受け持ち範囲に入る。もちろん、その場合は相応にブーストアップ→出力アップのバージョンを使うにしても。
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ドライブフィールそのものが“トリセツ”
5スピードMT。ということでギアレバーをニュートラル位置から左へ押してそこから前方へ……をやると、そこはリバース(笑)。左へ押してから手前へもってくれば1速だけど、これもお約束で発進は通常、2速を使う。ニュートラル位置から真っすぐ前へ押しだすとそこが2速で、つまり常用発進ギアのポジション。2.5t+約1.6t+運転手で4t超の状態でも、エルフは楽々、発進で2速が使えた。実質的にはこれ、前進4段+エクストラローである。でもって、「すぐ慣れる」と書くのもちょっとアレなくらい、パワートレイン関係の扱いはやりやすい。ペダルやレバーの手応えや足応え、それと音や振動の感じもふくめたエンジンのレスポンスそのものがわかりやすいトリセツになっている感じ。
ギアが何速でエンジン回転がいくつのときに何km/hで……関係の細かいことは、スイマセン忘れてしまいました。なのだけど、制限速度の各種数字に対していちいちキリのいいところがくるようになっていたのは覚えている。「こういう感じで乗ってくださいね」である。あと、常用回転域の上限はたしか2000rpmとか。もちろん、回せばもっと上までギュルルルンといくけれど。例えば5速の2000で80km/h、とかだったかなー。巡航中、「このへんで」と思ったところから速度が上がったり下がったり大きくブレたりしないのもイイ。そのへん、CVT物件はちょっとかもっと悪夢(「トヨタ・プロボックス」もその餌食になってしまった)。
4t超を減速させる。止める。当然ながら、トラックだからといって乗用車比ことさらゆっくりノッソリ走ってるわけではない。路上は混走。キミたちもいて、ボクもいる。でエルフ、ブレーキがヨイ。限界走行をやった際の耐フェード性がどうかは知らないけれど、狙ったところへピタリと止められる性能がすごく高い。要は、ペダルにかける踏力の加減でもって速度の殺し加減を調節するのがすごくカンタン。単純にギューッと踏み込んでいくだけでいい。踏力一定=制動G一定のブレーキングが、たぶん誰でもすぐにできる。こういうブレーキ、乗用車にも標準でついててほしい。もちろん、オプション装備でも可。
商用車だからと侮るなかれ
ハンドル関係とアクセル関係(ギアチェンジ関係含ム)とブレーキ関係の操作がラクなクルマは、それだけでかなり快適といっていい。で、いわゆる快適さ、つまり乗り心地関係はというと……「別に」。つまり、特に問題なし。長距離長時間のドライブをやったらひょっとしてシートのデキに関してなにかしらいいたくなったりするかもしれないけれど、今回はまあ、チョイ乗りに毛が生えた程度だったし。余談だけど、某社のトラックを欧州市場へ導入した際、試乗したドライバーの皆さんから「イスリングハウゼンをつけてくれ!!」という要望が多数あったという。イスリングハウゼンというのは乗用車界でいったらレカロみたいなブランドというかシート屋さんで、某社はイスリングハウゼン、オプション装備で用意した。
車軸式+板バネ(いわゆるリーフリジッド)のタイプをフロントに使っているクルマと比べると、バウンス時とロール時とでバネのカタさの感じのバランスが違う。エルフの場合、バウンス系の動きに対しては柔らかく沈み込み、その印象からするとロールに対しては意外にヤワくない。で、「ナルホドこれがダブルウイッシュボーン+コイルの……」と思った(シロート考えながらに)。あと、キツい段差や凸凹を越えたときのダダン!! やドシャン!!(およびそれによるハンドル手応えというか前輪のトーへの影響)が軽微だったのも。
トラックをバカにすることなかれ……ということでいうとエルフ、実は曲がり方面もナイスである。アジリティーとかスポーティーを気にしたものには全然なっていないけど(むしろ、なってないからイイともいえる)、N感と微舵がちゃんとあるハンドル手応えは、その先でもやはりイイ。なので、きり始めからきり終わりまでスーッといける。タイヤからくる反力を感じながら、その反力に応じたチカラをこちらから出しながら、ずーっと押していける。ちょっときってアッと思って手を止めたり等のイヤなことがない(乗用車だと、これがフツーにある)。リアの踏ん張りも、それが立ち上がるタイミングもふくめてちょうどいい。さすがリジッドアクスル。ということで、カーブをキレイに曲がれるかどうかはあくまで運転手の操作しだい。それはナンでも同じかもしれないけれど、うまくいかなかった場合、クルマのせいにはできない(笑)。
トラックと相性のいいハイブリッド
今回のもう1台、ワイドでロングで空荷のほうはハイブリッドだった。ハイブリッドといってもICE(インターナル・コンバスチョン・エンジン=内燃機関)がディーゼル機関なので、エンジンのチカラで発電機を回すことはやっていない……はず。なにしろ、軽負荷時の燃費率のよさがディーゼルの美点なので(軽負荷時の燃費がめちゃめちゃ悪いガソリン機関だからこそ「プリウス」用みたいなシステムがアリになる)。ハイブリッド用バッテリーへの蓄電はもっぱらエネルギー回生でというのは、メカタがたっぷりあるクルマとは相性がいい。質量×速度×速度、の半分。車両重量は、1800kg+1530kg=3330kg。
2ペダルで、トランスミッションは「スムーサーEx」。タイプとしてはシングルクラッチAMTで、ただし特徴として、クラッチにフルードカップリングを使っている。じゃあそのフルードカップリングとはナニモノか。カンタンにいうと流体クラッチ。トルクコンバーターにすごく近いけれど、トルコンと違ってトルク増幅はしない(トルコンも、トルクを増幅していないときはフルードカップリング)。クラッチにフルードカップリングを使った乗用車用のATということだと、大昔のベンツのが有名である。なお、ハイブリッド用のスムーサーExにはフルードカップリングのほかにエンジン切り離し用のプレートクラッチもついているので、これはこれでDCTといえないこともないかもしれない(違)。
仕事の道具は普通が一番
乗った感じは、シングルクラッチAMT。でもって、デキはイイ。全然フツー。流体クラッチ+電気アシストぶん有利ではあるかもしれないけれど、その電気関係のことでいうと、運転していて体感上、ハイブリッド感がほとんどない。その意味でも全然フツー。スイッチを操作して呼び出せばハイブリッド関係の情報というか状況が表示されるけど、なにも知らされずに運転したら、最後までソレと気づかずに返却……なんてことになっても不思議はない。スタート&ストップ機構(アイドリング停止)はフツーのエルフにもついてたし。EV走行モードには今回、ならなかったし(少なくとも、なったという記憶はない)。たとえEV走行モードになったとしても(あるいは、なっていたとしても)、その際、切り離されたエンジンはストンとお休みはしない。アイドリング状態で回り続ける。ハイブリッドの都合にこっちがいろいろ合わせないといけないのは御免こうむりたいので、フツーが一番。そんなの気にしてたら、仕事にさしつかえる。
ハイブリッドうんぬんとは関係ないけれど、長いのでそのぶん、クルマの動きがゆったりしている。加点要素。ロングなだけでなく、全幅……だけでもなく、前後のトレッドもワイド。ホイールベースは、標準モデルの2490mmに対して3395mm。短いほうだとコワい、とかはないが、リズム感的にはこっちのほうがやはりそれらしいキブンである。乗用車とは別世界な感じが強まる。もっと長くてもいい(ホイールベース3845mmの超ロングもあり)。でも残念なことにというか、こちらは空荷。いわばマスダンパー非搭載の状態で、オトシン側面の快適さではショート君に負けていた。ただし、ハンドルやブレーキやアクセル関係の扱いやすさは変わらず。つまり、定積でも空荷でも……ということになる。
毎日でも乗っていたい
ということでエルフ、ナイス。今回、唯一にして最大のツラかったところは、バックの車庫入れ系の取り扱いというか車両感覚。車庫入れじゃなくてもバック関係。さあ後退だということで思わず後ろを振り返ると、そこには白い鉄板があるばかり。たとえガラス窓があったところで、後ろのことはなにもわからない。あるだけムダ。なにしろパネルバン。パネルバンじゃなく平台だったとしても、うまくやるには慣れや練習が必要でしょう。
あと、幅。ワイドキャブだと全幅は2mを超え、今回のワイド君だと車検証記載値は222cm。それでも車両感覚はすごくつかみやすい(ただしバックの車庫入れ等以外)けれど、道が狭いとホントにギリ。狭い道で歩行者や自転車の横を通り過ぎるときなんかは、フツーに緊張する。
そういうことはあるにせよエルフ、乗った感じ的には正直、これだったら毎日でも乗っていたい。だって運転しやすいから。クルマのご機嫌をうかがいながら運転しなくていいから快適だから。信頼できるから。ドライビングプレジャーというと少々語弊があるかもしれないけれど、マトモな道具をちゃんと扱えている満足感はハンパない。これがフツーだとすると、乗用車はハッキリいってオモチャである。オモチャとはつまり道具未満という意味で。トラックみたいに運転しやすいクルマ、乗用車にもフツーにあるといいのに。
鹿島 茂(フランス文学者)の著書に『馬車が買いたい!』というのがあって、私はそれ、読んだことがない(笑)。ないけれど、エルフに乗って思った。「トラックをマイカーにしたい!」。
(文=森 慶太/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
いすゞ・エルフ ハイキャブ ショートボディー ドライバン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4980×1890×3010mm
ホイールベース:2490mm
車重:2500kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:150ps(110kW)/2800rpm
最大トルク:38.2kgm(375Nm)/1400-2800rpm
タイヤ:(前)195/75R15 109/107L LT/(後)195/75R15 109/107L LT(ブリヂストン・エコピア V-STEEL RIB R202)
燃費:11.4km/リッター(重量車モード)
価格:443万7000円/テスト車=454万7670円(ステッカー代は含まず)
オプション装備:みまもりくん(11万0670円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2244km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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いすゞ・エルフ ワイドキャブ ロングボディー ドライバン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=6470×2220×3090mm
ホイールベース:3395mm
車重:3330kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼ ルターボ
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/2800rpm
エンジン最大トルク:38.2kgm(375Nm)/1400-2800rpm
モーター最高出力:54ps(40kW)/1400-3850rpm
モーター最大トルク:27.9kgm(274Nm)/500-1400rpm
タイヤ:205/75R16 113/111L LT/(後)205/75R16 113/111L LT(ヨコハマ・スーパースチールRY108B)
燃費:13.0km/リッター(重量車モード)
価格:495万7000円/テスト車=624万1670円
オプション装備:シャシーオプション(20万8000円)/アルミバン(96万6000円)/みまもりくん(11万0670円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1万8028km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
※最高出力、最大トルクはいずれもネット値

森 慶太
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