日産ノートe-POWER X(FF)
巧みな“EV風味” 2016.11.21 試乗記 外部充電機能を持たないシリーズハイブリッド車ながら、静かで加速のよい“EV風味”を持つ「日産ノートe-POWER」。200万円を切る手ごろな価格で実現した“ワンペダルドライビング”がもたらす走りとは? 中間グレードの「e-POWER X」に試乗した。“陰陽”2つの表情を持つ
横浜駅に隣接してそびえ建つ、日産のグローバル本社。横浜のある神奈川県は同社創業の地である。ノートe-POWERの試乗会は、2009年に完成した、この本社ビルをベースに開催された。
参加者はまず、階上ミーティングルームでのプレゼンテーションを受けた後、地下駐車場へと移動してそこからスタート、という流れ。それにのっとって概要説明を受けエレベーターで階下へと下りると、すでに準備の整った同行メンバーがちょうど駐車スペースを後にしようという場面に遭遇した。
スルスルと音もなく目の前を走り去る姿は、なるほどEVそのものだ。このシーンのみを切り取るならば、「電気自動車のまったく新しいカタチ。」という、日産がこのモデルに対して用いたキャッチコピーも“さもありなん”と納得できる。
ところが程なくすると、今度は別のノートがエンジンノイズも賑々(にぎにぎ)しく、柱の陰から現れた。「こっちは“エンジン車”だナ」と当初は思いつつ、フとその後ろ姿に目をやると、そのテールゲートには「e-POWER」のエンブレムが燦然(さんぜん)と輝いているのを発見した。
そう、実はこのノートも同一モデル。ただし、こちらは駆動用バッテリーの充電レベルが下がり、発電用エンジンが通常車両のアイドリングを大きく上回る回転数で稼働した状態だったのだ。
実はこれこそが、e-POWERの“陽と陰”の2態となる。前出キャッチコピーはもちろん、「エンジン稼働中の状態には目をつむったもの」に他ならないのだ。
電気自動車の新形態!?
こう言っては何だが、このモデルの本質は単なるハイブリッドカーそのものだ。エンジンは発電機の駆動に徹し、駆動力は電気モーターが発生させる。すなわち、それはシリーズハイブリッド・システムの持ち主だ。
「レベル2」段階にとどまる運転支援システムに対して、「自動運転」という4文字を含んだコピーを用いる新型「セレナ」の例も含め、ユーザーを混乱させかねない表現が多用される最近の日産の“強過ぎる営業部門”の力は、正直ちょっと気になるもの。
一方で、このノートに対してはどうしても「電気自動車」という表現を用いたかった理由も分からないではない。
その根拠は恐らく、トヨタやホンダ製をはじめとする既存のハイブリッド車とは異なって、このモデルがエンジンの回転力を直接駆動力として用いる伝達経路を備えないこと。駆動力を生み出すのがモーターのみなのは、ピュアEVと同じ……と、そんな“拡大解釈”が行われたということだ。
加えれば、このモデルが“電気自動車の新形態”と紹介されるのは、これまで「リーフ」のセールスが順調に軌道に乗らなかった事に対する、再度のテコ入れ策とも考えられる。
電気モーターのみから駆動力を得るEVならではのフィーリングを、航続距離に不安のないハイブリッド車でも再現することでより幅広い層に知ってもらう――これによって、EV販売のハードルを下げるという目的もあったに違いない。
“EV風味”が利いている
というわけで、その誕生の背景にはいろいろと“伏線”もありそうな、そんなノートe-POWERで走り始める。
当方に割り当てられたモデルは幸いそれなりの充電量が残されていて、出発段階ではエンジンが始動することはなく、まずは完全なEV状態からのスタート。
地下駐車場からのスタートゆえ、まず待ち構えるのは急な登りのスロープ。が、そこでアクセルペダルを深く踏み込んでも、エンジンはなお始動しない。冷静に考えれば、そもそもエンジン出力を直接駆動力に変換する経路を持たないシリーズハイブリッド車ゆえそれも当然の理屈。
が、大パワーが必要となる場面ではエンジンによる駆動力補てんを前提としたこれまでのハイブリッド車の場合、「あっ、掛かっちゃった……」とガッカリする場面も少なくなかっただけに、こうしていくらアクセルを踏んでもエンジンが掛からないのは、なるほど“EV風味”の演出には重要なポイントであるはずだ。
一方、フロントシート下に搭載される駆動用バッテリーの容量は、ごくわずか。条件が良くてもピュアEVとして走行が可能なのは、数kmにとどまる。充電残量が減少すると今度はアクセル開度にかかわらず、通常のアイドリングよりもはるかに高い、恐らくは2000rpm台と思われる回転数でエンジンが回り続け、それなりのエンジンノイズが耳につくことに。
エンジン始動の要件には「40km/h以上で走行」という項目もあるというが、そんな状態ではタイヤなどが発するノイズもそれなりのレベルで、実はエンジン音はあまり気にならない。耳障りなのはそうした“暗騒音”が小さい低速、あるいは静止状態だ。ただし、今回試乗を行ったXグレードに対し、最上級の「メダリスト」では「ウインドシールドが遮音ガラス化され、一部には遮音材もより多く使用している」というので、印象がより好転する可能性は大きそうだ。
一方、エンジン始動の有無によるそんな音振関係の変化に対して、絶対的な走りのポテンシャルは一定。変速ショックは存在せず、発進の瞬間から大きなトルクが実感できる“EVフィーリング”は、駆動用バッテリーの残量に左右されず、常にキープされるのだ。
爽快な“ワンペダルドライビング”
ところで、そんなノートe-POWERならではの特徴的な走りのテイストには、“ワンペダルドライビング”も挙げられる。
ノーマルモードDレンジ選択時のアクセルオフ場面では、「通常のガソリン車と同等の減速Gが発生するように回生ブレーキを働かせる」という。
一方で、ノーマルモードBレンジではそれよりもやや強め。そして、Sモード/エコモード選択時には、「通常Dレンジの3倍相当」の減速回生を行うというセッティングが採用されているのだ。
ブレーキシステムが、油圧と回生の協調制御を行っていないこのモデルの場合、走行エネルギーを可能な限り多く回収するためには、それを熱として捨ててしまう油圧ブレーキではなく、電気に変換してバッテリーに回収する回生ブレーキを最大限活用したいという思いがまずは念頭にあったはず。そして、その“副産物”として強力な減速回生が行われるS/エコモードでは、アクセルペダルの踏み加減ひとつで、通常シーンで必要とされる発進から停止までのすべての加減速Gを、発生させることができるのだ。
同様の“ワンペダルドライビング”は、やはり強力な減速回生を可能とした「BMW i3」が先鞭(せんべん)をつけているが、慣れてしまえばこれはかなり爽快にして痛快なもの。
ちなみにノーマルモードの場合、回生による減速はクリープ現象発生の段階で終了するが、S/エコモードでは完全停止までを実現。その状態からアクセルペダルを“タップ”すると、新たにクリープ現象が発生するというロジックが採用されている。
不快なショックが発生しないよう、停止に至る直前に減速Gを軽く抜く制御が盛り込まれていることを含め、なかなか「分かった人」がこれら一連の減速セッティングを担当したことは明らかだ。
“クルマを操る楽しみ”はある
リーフ発売当初に、「走行時は完全ゼロエミッションであるピュアEVと、わずかでも排出ガスを吐き出すハイブリッドカーとは、似て非なる存在だ」と強調していた日産。
それゆえ、この期に及んでノートe-POWERを、ハイブリッドモデルの一種としてアピールしづらい事情は分からないではない。
が、そうはいっても現実には、シリーズハイブリッドシステムの持ち主以外の何物でもないのがこのモデル。それを、無理やりに“電気自動車の一員”として紹介しようというやり方には、正直なところ個人的にはどうにも賛同はしかねるものだ。
そもそも、たとえ“100%電気自動車”であっても、それが真に環境に優しいモデルであるか否かは、それがいかほどのエネルギーを用いて生産され、そこにチャージされるのがいかなる方法で生み出された電気かによって左右されるもの。
そうした論点を抜きにして、EV=エコカーと断言するのは、ある種世間に対する背信行為と言っても過言ではないだろう。
一方で、モーターのみが生み出す完全シームレスな加速感や、ワンペダルドライビングといった新たなる“クルマを操る楽しみ”を、200万円を大きく切るスターティングプライスで用意した点は、純粋にこのモデルならではの魅力だと称するに価する。
そんなこんなを知るにつけ、今の日産の技術部門と営業部門の思いのかい離を象徴する存在とすら感じられてしまうのが、ノートe-POWERというモデルでもあるということだ。
(文=河村康彦/写真=池之平昌信/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
日産ノートe-POWER X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4100×1695×1520mm
ホイールベース:2600mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:79ps(58kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:10.5kgm(103Nm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)/3008-10000rpm
モーター最大トルク:25.9kgm(254Nm)/0-3008rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストンB250)
燃費:34.0km/リッター(JC08モード)
価格:195万9120円/テスト車=259万3358円
オプション装備:LEDヘッドランプ<ロービーム、オートレベライザー付き、プロジェクタータイプ、LEDポジションランプ付き>(7万5600円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ、リア2スピーカー、GPSアンテナ、TVアンテナ、TVアンテナ用ハーネス>(2万7000円)/185/65R15 88Sタイヤ&15インチアルミホイール<15×5.5J>、インセット:40、P.C.D:100<4穴>(6万4800円)/SRSカーテンエアバッグシステム(4万8600円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物 検知機能付き>+スマート・ルームミラー<インテリジェントアラウンドビューモニター表示機能付き>+踏み間違い衝突防止アシスト+フロント&バックソナー+ヒーター付きドアミラー(9万7200円)/ヒーター付きドアミラー+PTC素子ヒーター+リアヒーターダクト+高濃度不凍液(2万4840円) ※以下、販売店オプション ETCユニット 日産オリジナルナビ連動モデル MM516D-W、MM316D-W用<SRSカーテンエアバッグシステム付き車用>(2万6179円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ付き車用 MM516D-W(21万8667円)/デュアルカーペット<ブラック>e-POWER車用、e-POWER寒冷地仕様車用(2万4300円)/マルチラゲッジボード(2万7052円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1353km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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