日産ノート オーラNISMOチューンドe-POWER 4WD(4WD)
ただの武闘派にあらず 2024.10.30 試乗記 日産の「ノート オーラNISMO」にファン待望の4WDモデルが登場。もちろんNISMOの仕事だけにただの4WDにはあらず。「NISMOチューンドe-POWER 4WD」という大仰な名前がついた専用チューニングが施されているのだ。公道試乗でその仕上がりをチェックした。好事家にとっては割安(?)なNISMO
2021年秋に発売されたオーラNISMOは、この2024年夏のマイナーチェンジまでのおよそ3年間で、累計2万1000台を売り上げたそうだ。同時期のノート/オーラの合計販売台数は27万台ほどだから、ノート/オーラ全体に占めるNISMOの比率は7~8%。これは先代にあたる「ノートNISMO」のモデルライフを通じての平均値と同等か、ちょっと上くらい……という計算になる。さらにいうと、ノートとオーラの販売割合はおよそ6:4で、オーラ内でのNISMO比率は2割弱。つまり、ノート系のNISMOはしっかり安定して売れている。
2024年はNISMOの誕生40周年という。1980~1990年代のルマン24時間やツーリングカーから現在のSUPER GTにいたるまで、NISMOは少なくとも国内モータースポーツ活動を途切れさせることはなかった。また、「スカイラインGT-R」(R32)時代からNISMOを名乗る市販モデルは常に特別。とくに中高年世代のクルマ好きの間では、NISMOというブランド名はそれなりに輝いて見える。
オーラのマイチェンに合わせて登場した新しいNISMOと、標準といえる「G」グレードの価格差は30万円弱。国産コンパクトカーのスポーツグレードとしては安くはないが、NISMOの場合は、外観の特別感に加えて、シャシーとパワートレインにも明確に手が入っている。内容を考えると、好事家は逆に割安感をおぼえる。こうした巧妙な商品性も根強い人気の理由かもしれない。
新しいオーラNISMOの外観は、一見しただけだと、マイチェン前と代わり映えしない。標準オーラのマイチェン顔には賛否あるから、変わらないNISMOに逆に好感をもつ人が一定数いるかもしれない。ただ、実際はフロントグリルやリアバンパー形状が見直されており、空力性能が向上しているんだとか。こういうシブいウンチクも好事家にささる。
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4WDのための専用チューニング
マイナーチェンジしたオーラNISMO最大のトピックは、4WDが追加されたことだ。しかし、4WDも出しました……だけにとどまらないのが、NISMOの心憎いところだ。標準のオーラと同様に後輪は電動駆動だが、そのリアモーターの性能を最高出力82PS、最大トルク150N・m(標準は68PS、100N・m)に引き上げたうえで、トルク制御も専用化してNISMOチューンドe-POWER 4WDと名づけている。
それだけではない。4WD化にともなう100kgあまりの重量増を補うべく、4WDだけに専用軽量ホイール(サプライヤーはエンケイ)を履かせている。しかも、同ホイールはホイールハウスの内圧を軽減させる(=車体で発生させたダウンフォースを邪魔しない)専用デザインだ。繰り返しになるが、こういうウンチクをいちいち突っ込んでくるところが、NISMOのうまさ。これで標準オーラの約30万円高におさまるなら、やっぱり好事家は安いと思わされてしまう(笑)。
というわけで、今回試乗したオーラNISMOは、当然のごとく4WDである。インテリアもマイチェン前と大きくは変わらないが、カーボン調の加飾パネルが赤色が織り込まれた新色となっている。
試乗車には以前から好評のレカロシート(メーカーオプション)も装着されていた。そのレカロのリクライニング調整が新たに電動化されたことは、好事家にとっては朗報と申し上げたい。ドライバーが同一人物なら、スライドを動かすことはほぼないが、背もたれの角度だけは、走るシーンやその日の体調(?)によって微調整したくなるものだし、休憩時には大きく倒すこともあるので、そこを電動化するのは理にかなっている。実際、こうした“リクライニングだけ電動”のスポーツシートはポルシェにも採用例がある。
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シミュレーターを駆使して見つけたセッティング
今回のマイナーチェンジで、パワートレインやシャシーの味つけに大きな変更はない。エンジンと電動システムが高度に絡み合った昨今のハイブリッドでは、一部グレードだけを大きくパワーアップさせるのはむずかしい。実際、オーラNISMOでも、メイン部分は加減速特性の専用化にとどまっている。
ただ、オーラNISMOの場合、その開発エピソードが興味深い。現在の市販NISMO全車の味つけをつかさどるグランシェフは、R32スカイライン時代から最後のR35(の初期)までGT-Rの開発ドライバーをつとめた神山幸雄さんだ。オーラNISMOの加減速特性は、その神山さんと担当エンジニアが、ドライビングシミュレーターを駆使して開発した。
ここでいうドライビングシミュレーターとは、教習所やゲームセンターにあるような固定式では当然なく、内部にコックピットをあつらえたカプセルが45m×15mのレール上を高速移動して、最大加速度1.2Gを発生させる最先端の巨大施設だ。オーラNISMOの加減速特性は、神奈川県厚木市の日産自動車本体のテクニカルセンターにある同シミュレーターに、神山さんが3日間こもって、1000以上のパターンから選び出したという。
3つあるドライブモードのうち、「エコ」が標準の「スポーツ」モードに相当して、「ノーマル」はさらに鋭く、「NISMO」はより激しく……という加減速マップは今回の4WDでも変わっていないようだが、自慢のNISMOモードはマイチェン前(のFF車)の試乗時に体感したような過激さより、その裏側にあるリニアな伸びが前面に出てきたのは、4WDによる重量増のおかげだろう。そのぶん、絶対的な加速力もちょっと“お上品”になった感があるので、マイチェン前のような刺激を求めるなら、FFを選んだほうがいいかもしれない。新しいオーラNISMOのFFは4WDより約40万円安い。
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大人びたドライビングフィール
シャシーの仕立て手法もマイナーチェンジ前と変わらない。17インチの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」に合わせて、コイルのバネレートと減衰力を明確に引き上げただけでなく、ダンパー構造も根本から強化されている。前後バンプラバーも専用で、電動パワステや横滑り防止装置の制御も専用。さらに車体後部に補強材も追加している。つまり、この種の量販スポーツモデルとしては凝った内容だ。マイチェン前からあるFFと比較すると、4WDでは重量増に合わせてリアのバネレートがさらに1割ほど強化されているという。
その味わいは今どきの純正スポーツモデルとしては素直に硬く、ジョイント通過時などの衝撃も正直に伝えてくる。その点では、いかにも古典的スポーツモデルな乗り心地ともいえるが、といってクルマが跳ねたりせず、ザラついた不快な振動もないのは、ダンパー構造や空力のおかげか。舵角を問わずに手応えが一定したステアリングフィールにも感心する。
NISMOチューンの4WDは後輪優勢トルク配分になることもあるという。しかし、リアモーターの最大トルクが増強されたといえ、絶対的には強力とまではいいがたい。なので、今回のような公道試乗では、たとえばGT-Rのような後輪駆動主体の4WDのようにリアから曲がり込むような挙動は見せない。
ただ、典型的なFFベースの4WDとも異なり、旋回中に間髪入れずに加速しても前輪がはらむような挙動は皆無。コーナーでは、アクセルを踏み込むほどに安定感が高まる。全体的には回頭性が上がったというより、まさしくオンザレールの大人っぽい所作を見せる。
真正面からスポーツモデル然とした見た目から想像する以上に幅広く売れているオーラNISMOには、以前から4WDへの要望が少なからず寄せられていたという。マイチェン前のジャジャ馬感を所望ならFFもアリかと思うが、日常生活をこれ1台で済ませるような使い方なら、非積雪地域でも4WDがよさそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産ノート オーラNISMOチューンドe-POWER 4WD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1735×1505mm
ホイールベース:2580mm
車重:1390kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
フロントモーター最高出力:136PS(100kW)/3183-8500rpm
フロントモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3183rpm
リアモーター最高出力:82PS(60kW)/3820-1万0024rpm
リアモーター最大トルク:150N・m(15.3kgf・m)/0-3820rpm
タイヤ:(前)205/50ZR17 93W/(後)205/50ZR17 93W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:--km/リッター
価格:347万3800円/テスト車=455万1729円
オプション装備:特別塗装色<NISMOステルスグレー×スーパーブラック>(7万7000円)/RECARO製スポーツシート<パワーリクライニング機能付き>(44万円)/ステアリングスイッチ+統合型インターフェイスディスプレイ+USBソケット<タイプA×2、タイプC×1>+ワイヤレス充電器+Nissan Connectナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+BOSEパーソナルプラスサウンドシステム<8スピーカー>+ETC2.0ユニット+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+プロパイロット緊急停止支援システム+SOSコール(42万1300円)/ワイパーデアイサー>(8800円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水<12カ月>(1万3255円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(8万5674円)/NISMOフロアマット(3万1900円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3147km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:596.5km
使用燃料:45.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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