第477回:スバル、マツダ、そしてヤマハ
ロサンゼルスで日本メーカーの元気に触れる
2016.11.25
マッキナ あらモーダ!
北米では「7人乗り」がアツい!?
ロサンゼルスオートショー2016に行ってきた。今回日本の四輪メーカーはトヨタ、レクサス、日産、インフィニティ、ホンダ、アキュラ、三菱、マツダそしてスバルの6社9ブランドが出展していた。はるばるイタリアから足を運んだボクが注目したのは、近年アメリカで元気な2ブランド、スバルとマツダである。
まずはスバル。同社は8年連続で北米における販売台数を伸ばし、2007年に1%だった市場シェアを、2016年には3.5%にまで向上させた。彼らが今回放ったコンセプトカーは「ヴィジヴ-7 SUVコンセプト」である。2018年初頭に発売するという7人乗りフルサイズSUVの姿を示唆したものだ。ボディーサイズは5200×2030×1860mm。そのまま量産化されれば、航空機などを除いて同社史上最大となる製品である。
かつてスバル・オブ・アメリカの会長も務めた日月丈志(たちもりたけし)取締役専務執行役員によると、2020年の世界目標である年間販売80万台のうち、半分の40万台を米国で生産する計画である。日月氏は今後のブランド戦略にも言及。顧客のさまざまなライフステージのなかで提案できる商品を取りそろえることにより、安定的な成長ができるよう努力していくという。
ところで今回のLAショーでは、フォルクスワーゲンが、同じくブランド史上最大の商品である7人乗りSUV「アトラス」を発表するなど、米国市場が多人数乗用車へとシフトする傾向がみられた。
米国といえば、1人1台の自動車社会の元祖であり、クルマは個人の移動を自由にする象徴だったはずなのに、なぜ? そのような筆者の質問に対して、スバル・オブ・アメリカのトム・ドール社長兼COOは、「大都市を中心に、UBERをはじめとするカーシェアリングや、通勤などで相乗りするカープーリングが発達してきたこと」を挙げる。
さらに、「今後米国では、コネクティビティーや自動運転などの機能が付加されることにより、クルマの車両本体価格が人々の収入増加を上回るスピードで上昇していくことが予想される」とドール社長は説明する。つまり、人々が複数の新車を所有しにくくなるということだろう。そうした観点から、多人数向けモデルの重要性を、スバルをはじめとする各メーカーが意識しているのは間違いない。実際、フォルクスワーゲン・アトラスの関係者も同様に、カーシェアやカープーリングを意識していることを明かした。
加えて、そうした多人数乗用車は、2016年4月の北京モーターショーで明らかになったように、一人っ子政策が終わったことで家族の人数が増える中国でも受け入れられる。グローバルな観点からは、メーカーの多人数乗用車の拡充は明らかに正しく、効率的な戦略といえる。
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期待がかかる新型「CX-5」
そのスバルと向かいあわせにブースを構えていたのは、マツダである。
同社は「CX」シリーズが好調で、その販売台数は2016年10月に前年比1.7%増の1万2334台を記録した。CXシリーズは、全販売台数の54.3%を占める。
今回は4年ぶりのモデルチェンジとなった2代目「CX-5」を世界初公開した。初代は年間販売台数の4分の1を占める基幹車種だっただけに、マツダが同車にかける期待は大きいに違いない。一般紙でも報じられているとおり、新型CX-5で、マツダは初めて米国市場にディーゼル仕様車を投入する。
デザインは、先代以上に好感が持てるクールなものに仕上がっている。しかし、こうした路線は、アメリカで最多販売台数を誇るフォードのピックアップトラックのような“マッスルなデザイン”を好む米国人に受け入れられるのだろうか?
その質問を、マツダでデザインとブランドスタイルを担当する前田育男常務執行役員に投げかけると、「もう『日本のデザインは子供っぽい』などとは言われない。凛とした感じで日本の美意識を表現しています」などと述べ、違うベクトルで挑む姿勢をみせた。
とはいっても、販売サイドから、「もっと他ブランドの人気車種のようにしてほしい」といった要求を突きつけられることもあるだろう。しかし前田氏によると、それはないという。「世界で受け入れられてきたことが、彼らの自信につながっている」と説明する。
新型CX-5では、デザイン上の地道な改良も重ねられている。視認性の確保はクロスオーバーモデルの悩みのひとつだが、それを改善すべく、Aピラーの根元の位置を後方へと引っぱっている。5人乗りのインテリアの質感も秀逸だ。比較でしかモノを語れないのは書き手の能力不足とは知りつつも、米国ブランドをはるかにしのぎ、アウディと比肩すると言っても過言ではない。
いまやマツダはプレミアム
研究開発担当の藤原清志専務執行役員からも、近年のマツダの取り組みについて興味深い話が聞けた。コスト革新担当という役職も担当する氏は「これは“機能を上げ、コストを下げる革新”であって、コストカットではない」と強調する。鍵となるのはマルチファンクション化だ。藤原氏はわかりやすい例として、バイオプラスチックの地の色を生かすことで塗装工程を省略した「ロードスター」用リトラクタブルトップのパーツを挙げた。そうした理念に基づく技術を、新型CX-5の各部にも盛り込んだという。
マツダノースアメリカンオペレーションズの毛籠勝弘(もろまさひろ)CEOが筆者に説明してくれたところによると、北米におけるマツダ購入者の年収は、4年前に8万ドルであったのが、今日では社会の平均を上回る9万3000ドルにまで上昇したという。デザイン、クオリティー、テクノロジーをアピールすると同時に、値引き販売をしない姿勢がブランド力向上につながったと説明する。
そうしたマツダの話を聞いているうち、筆者がふと思い出したものがある。「アマティ」だ。1990年代中盤、マツダが北米展開を目指し計画していたプレミアムブランドである。まさにレクサスやインフィニティのような位置付けになるはずだったが、その後マツダの経営状態が思わしくなくなったことから、計画は中断された。
しかし今日、米国におけるマツダのプレステージは、幻のアマティを超えているといってよいのではないか。ボクのように国外に住んでいるとわかるのだが、今日でも日本車には「装備満載でお買い得なクルマ」という長年の既成概念が残る。それを同じブランド名のまま、プレミアムといえるレベルへと引き上げるためには、新ブランドを立ち上げるのと同じくらいの困難があったものと想像できる。実際、毛籠氏は、米国でディーラーの選別を果敢に進めてきたという。
楽器もクルマも情熱は同じ
プレスデー2日目の終盤、プログラムを再確認すると、また日本のブランドを発見した。ヤマハである。
会場案内図をたどって行ってみると、「GARAGE」というパビリオンである。主にチューニング&ドレスアップショップに充てられたコーナーだ。プレスプリーフィングの時間に訪ねてみれば、世界初公開の新製品はない代わりに、バイク、船外機、クワッドバイク、そしてヘリコプターといった、同社製のあらゆるプロダクトが展示されている。
それらに囲まれて、まるで卒業パーティーのような仮設ステージが設けられている。やがてバンド演奏が始まった。ヤマハ発動機の米国法人「ヤマハ・モーター」と、楽器やオーディオを手がける「ヤマハ・コーポレーション」、ふたつのヤマハの合同社員バンドによる熱演だ。これは、モーターショーにおける隠し球としか言いようがない。
“ふたつのヤマハ”の本社は10マイルほど離れているのだが、こうした交流があるという。そして彼らは、「楽器も乗り物も、人に『Wow!』と言わせ、記憶に残る仕事がしたいというパッションは共通」と説明した。
ガレージバンドによる『ルート66』が響く。メンバーのひとりで、ヤマハ・コーポレーションでマーケティング広報マネジャーを務めるデイヴ・ジュウェル氏はドラム演奏を終えたあと、「浜松には数え切れないくらい出張したよ」と興奮しながら教えてくれた。そしてボクが「今でもYAMAHAの6文字を見ると、子供時代に毎日泣きながら練習していたピアノを思い出す」というと、彼は大笑いした。
LAショーで、小さくも心に残る、日本ブランドのブースであった。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、マツダ/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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