アウディQ5 2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT)/Q5 3.0 TDIクワトロ(4WD/8AT)
盤石の正常進化 2016.12.15 試乗記 フルモデルチェンジした「アウディQ5」を試すため、リポーターはメキシコへ。大ヒットモデルは、どのような進化を果たしたのか? ガソリンターボモデルと、従来型では国内未導入だったディーゼルモデルの試乗を通じて、そのポイントを探った。生産はメキシコの新工場で
5mを大きく超えた全長に、2mに迫ろうかという全幅。日本人の感覚からすれば“巨体”と表現をするしかなかったアウディ初のSUV「Q7」。これが2005年秋のフランクフルトモーターショーで発表されてから2年半後、すなわち2008年春に今度は北京モーターショーでアンベールされたのが、名称から“Q7の弟分”であることが明らかなQ5だった。今回の主役である。
こちらも1.9m級の全幅の持ち主ゆえ、やはり「コンパクト」という表現を使いづらいのは事実だ。
それでも、4.6m級の全長や5m台半ばの最小回転半径などから、Q7に比べれば“身の丈感”がグンと強かった。実際、日本の街中でもさほど持て余し感はなかったというのが、Q5に触れての個人的な印象でもあった。
そんなQ5が、初めてのフルモデルチェンジを実行。2代目モデルへと進化を遂げた。
2016年9月のパリモーターショーで披露された新型Q5を、早速テストドライブした。舞台はメキシコのカリフォルニア半島最南端。過酷さで知られるバハ1000マイルレースのゴール地点近くで、最近では世界的なホエールウオッチングの名所としても知られるロス・カボスにある、大規模なリゾートホテルが拠点となった。
それにしても、なぜドイツブランドがメキシコの地で国際試乗会を開催したのか?
その理由として、もちろん「年間300日以上が晴れで、平均気温も25度近く」という、テストドライブにはなんともふさわしい気候もあったことだろう。暗くて寒い冬のドイツを離れ、温暖な海岸地帯で過ごしたいという、イベント運営チームメンバーのたっての願望(?)も、少しは含まれていたのかもしれない。
が、新型Q5はそんな事情とは別に、メキシコという国とまさに切っても切れない縁が存在する。実は、ドイツ国内で生産が行われた従来型とは異なり、新型はそのすべての車両が、メキシコに新設された工場で生産されるからだ。
キープコンセプトで上質さを向上
「バーチャルテクノロジーを駆使したことでわずか3年半に工期を短縮した」と紹介されるその新工場は、プレスやボディー加工、塗装から組み立てまでを一貫して行うQ5専用のプラント。投資額は10億ドル、生産キャパシティーは年間15万台と発表されている。
この地に根を下ろした理由のひとつには、北米自由貿易協定(NAFTA)の存在があったはず。となれば、それに反旗を翻すトランプ新大統領の誕生は、「プレミアムブランドの工場としては初めてのメキシコ進出」をうたうアウディにとって、当然大いに気になるところだろう。
そうはいっても、この件がどのような展開を見せるかは、もはや「神とトランプのみぞ知る」というところ。ちなみに、Q5の生産がメキシコ新工場へと移管されたことで“空き”が発生したドイツ・インゴルシュタット工場では、先日発表された末っ子SUV「Q2」の生産が行われるという。
新しいQ5のルックスは、ひとことで表せば「予想した通りの正常進化」という印象が強かった。成功作となった従来型のイメージを受け継ぎつつ、プレスラインにシャープさを増すことなどによって上質さを高めたというのは、先にフルモデルチェンジを終えた「A4」などとも共通する。
率直なところ、「もう少し新しさを演出してほしかった……」という思いは皆無ではないが、従来型に好感を抱いた人には引き続き好評を博すであろうし、新鮮味にあふれるとは思えないながらも、ボディーカラーによっては、ヘッドライト上端からテールランプ上端まで続くパネルの張りが、ハッとするほど美しく抑揚に富んで感じられたりするのも、また新型ならではの見せ場であるといえよう。
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人間工学に基づく秀逸な操作性
ドアを開け、ドライバーズシートへと身を委ねると、こちらもさしたる目新しさは感じられないものの、いかにも最新アウディ車らしい機能的なデザインと高いクオリティーに、やはり好印象を抱いた。
左右方向への広がりが強調されたデザインのダッシュボードは、上部に視覚系をまとめ、操作系はその下側と、高く幅広いセンターコンソール部分に集中されるレイアウト。
ATセレクターレバー上部をパーム(palm=手のひら)レストとして使えるデザインも、昨今のアウディ車の流儀。実際、パームレストとして使ってみると、その前方のマルチメディアコントローラー(MMI)のダイヤル操作が極めて行いやすく、人間工学に基づいた秀逸なデザインだ。
同じく好感を抱いたのが、数は巧みに抑制しながら、あえて残されたスイッチ類に、いずれも確実な操作感を伴う物理スイッチを用いていること。いわゆるタッチパネル式の“スマホライク”な操作法は追わず、こちらも人間工学を考えた末に操作のシンプル化が図られた新型Q5の操作系は、実際にどれもこれもがすこぶる使いやすいのだ。
ただ一点の惜しむらくは、手書き入力パッドが“利き腕”に影響を受けるデザインであること。右ハンドル仕様の場合、ここで文字を描いたり、画面ズームやピンチイン/アウトの操作を行ったりするためには、左手での操作が必須となってしまうのだ。
この利き腕依存を回避するためには、もはや手書き入力パッドをステアリング中央に置く以外に考えられない。エアバッグとの両立などで苦労しそうだが、この先も普及を狙うのであれば、避けて通れない課題であるように思う。
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とても運転のしやすいSUV
ヒエラルキー上位のQ7が、大幅な重量削減とともにわずかながらもボディーを小型化するフルモデルチェンジを行ったこともあり、「従来型に対してサイズを大きく変えることは当初から考えなかった」という新型Q5。
とはいえ、そのキャビンには、大人4人が長時間を過ごすにあたって、何の不満もない居住空間が確保されていることは言うまでもない。
とりわけ、後席に座った場合に前席の下へ足が入れやすく、レッグスペースには大きなゆとりがある。また、後席使用時で550リッター、シートアレンジ時には1550リッターという容量をうたうラゲッジスペースも、「少なくとも日本では、これで不足を覚えるユーザーはほとんど存在しないだろう」とされ、そう実感できるボリュームだ。
パッケージングの面では、ほかに「視界全般が優れていること」も美点に挙げられる。
前方カウルトップやベルトラインが相対的に低く、全周にわたりボディー直近の死角が少ないというのがまずは1点。加えて、ドアミラー周辺の“抜け”が効果的に確保され、その背後にできる死角がさほど気にならないというのが、もう1点で、ここは大きなポジティブポイントだ。
こうした配慮が、前述の操作性の良さと相まって、端的に言うと新型Q5は「とても運転のしやすいSUV」へと仕立てられている。
昨今、各社からさまざまなモデルがローンチされるにつけ、SUVに“新しい乗用車のカタチ”という意味を持たせる場面が多くなったように思う。一方で、SUVには強い非日常性を感じたい、という意見もあるかもしれないが、新型Q5のように普遍性を増しつつ、実用モデルとしての扱いやすさを進化させていくというのも、またひとつのやり方であると思う。
ディーゼルモデルが待ち遠しい
今回テストドライブを行ったのは、まずは日本に導入されるであろう最高出力252psの2リッター直噴4気筒ターボエンジンを搭載した「2.0 TFSIクワトロ」と、シリーズ中で最もハイポテンシャルという位置づけの、最高出力286psを発生する3リッター直噴6気筒ターボディーゼルエンジンを搭載した「3.0 TDIクワトロ」の2グレード。
トランスミッションは前者がツインクラッチの7段DCTで、後者が8段ステップAT。4WDシステムも異なり、センターデフを用いたフルタイム方式を採用する3.0 TDIに対し、2.0 TFSIはリアアクスル部分にディカップリングクラッチを配し、後輪駆動力を必要としない場面ではプロペラシャフトの回転も止めてさらなる燃費向上を狙う、オンデマンド式4WDを採用する。
2.0 TFSIの走りのテイストは、同じパワーパックを採用するA4のそれと、路面をヒタヒタと捉えながら走る感触などがかなり近い印象。新型Q5では、標準位置を基点として、上方向に最大45mm、下方向には15mmのハイトコントロールが可能なエアサスペンションが設定されたのが売り物のひとつ。今回ドライブした2台にもそれが採用されていた。
軽快でしなやかなフットワークと静粛性の高さに、最近テストドライブを行い、極めて好感触が得られた「S4」に通じるテイストを実感。いずれにしても、“いいクルマに乗っている感”がしみじみと得られるのが、このモデルの走りでもあった。
一方の3.0 TDIへと乗り換えると、ディーゼルでありながら6気筒ならではのパワーフィールの緻密さと、絶対的な加速能力の高さは、やはり2.0 TFSIとは一線を画す。何しろ、このモデルの心臓が生み出す最大トルク値は、わずか1500rpmという回転数で63.2kgmと強大。蹴り出しの力強さからして圧倒的で、まさにトップグレードにふさわしいポテンシャルを味わうことができたのだ。
もちろん、3.0 TDIと2.0 TFSIには相応の価格の開きがあるはずだが、これはやはり魅力的。いまだ“検討中”という状態が続く日本市場へのディーゼルモデル導入だが、その実力を知れば知るほどに、“解禁”される日が待ち遠しくなるのである。
(文=河村康彦/写真=アウディ/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
アウディQ5 2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4663×1893×1659mm
ホイールベース:2819mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)235/65R17 104W/(後)235/65R17 104W
燃費:6.8リッター/100km(約14.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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アウディQ5 3.0 TDIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4663×1893×1659mm
ホイールベース:2819mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:286ps(185kW)/3250-4250rpm
最大トルク:63.2kgm(620Nm)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)235/65R17 104W/(後)235/65R17 104W
燃費:--リッター/100km(--km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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