第489回:「イタ車&フラ車はMTだ」なんて、もう古い!
最新データが語る、現地オートマ車比率の現実
2017.02.17
マッキナ あらモーダ!
ルノーのミニバンはほとんどAT
2016年1月~10月にフランスで販売された乗用車のうち、24%がオートマチック(AT)車だった。このデータはフランス自動車製造業協会(CCFA)によるもので、1995年は3%、2004年は8%、そして2015年は20%と、AT比率の高まりは加速している。
フランスのAFP通信は、モデル別のAT比率も報じている。ルノーの高級車「タリスマン」は66.5%、同じルノーのミニバン「エスパス」に至っては90%がATだ。ルノー全体では、過去6年でAT車販売比率が5倍に増えた。日産とのアライアンス強化で、新しいATが導入されたことが背景にあるという。
プジョーの場合、2016年のパリモーターショーでデビューした新型「3008」は、販売の65%がATだ。2016年10月にプジョーの新社長に就任したジャン-フィリップ・インパラート氏がAFPに話したところによると、「より人間の感覚に近くなった変速方式と、デジタル化されたコックピットとの相性」が人気の要因と分析されている。
つまり、マニュアルトランスミッション(MT)を操作する必要性を忘れさせ、空いた右手でディスプレイ操作が快適にできるため、ATは有用であるという考えだ。参考までに付け加えれば、3008のATはアイシン・エィ・ダブリュ製の6段AT「EAT6」である。
フランスでは一般車より先に、タクシーでAT車比率が上がった。特にハイブリッド車や電気自動車が積極的に導入されるようになってから、うなぎ上りに上昇していった。例えば、大手タクシー運営事業社「G7」は、いまや登録車両の3割にあたる3000台が、「トヨタ・プリウス」「メルセデス・ベンツEクラス」のハイブリッド車、「テスラ・モデルS」といった環境対策車だという。つまりAT車だ。
楽しいオートマが増えてきた
実際のフランス人ユーザーの考えはどうだろうか? かつて動画「トラクシォン・アヴァンの運転」に登場してもらった、知人のフランス人・ディディエ氏(1959年生まれ)に聞いてみた。
普段15年ものの「シトロエン・エヴァジオン」(MT車)に乗る彼は、「フランスでは、長年ATには『壊れやすい、燃費が悪い、トロい、運転の楽しみが感じられない、リセールバリューが低い』といった負のイメージがつきまとっていた。しかし、近年のATはすばらしく進歩していて、今までのデメリットをすべて払拭(ふっしょく)したね」と説明する。
そのうえで、「もし今のエヴァジオンを買い換えるなら、ボクもATにするね」と語った。バリバリのヒストリックカー・エンスージアストも、もはやAT派なのである。
そんなフランスに次いで、ATの普及率が上昇しているのはイタリアだ。新車におけるAT比率は、2003年から2013年の間に5%から15%へと、3倍に増えている。そして2020年には25%に達すると予想されている(UNRAEイタリア自動車輸入組合資料から)。
中古車検索サイト『アウトスカウト24』が2016年11月に発表した調査によると、「欲しいオプション」の首位はATで、29%に及んだ。ちなみに以下は、アルミホイール(16%)、パーキングセンサー/リアビューカメラ(14%)などだった。
背景には、前述のディディエ氏と同じくAT車に対する既成概念の変化があり、さらにDCTやパドルシフトなど、運転好きのイタリア人でも満足できるATが登場してきたことが挙げられる。
MT車は“ホビーの対象”に?
クルマを運転するジェネレーションの変化もある。イタリアでは第2次大戦中、アルバニアなど戦地において地雷で足を失った人が多かった。そのため、戦後長きにわたってAT車はハンディキャップのある人のためのクルマという印象が強かった。それはボクが住み始めた1990年代末まで続いていて、ATの中古車を探すと、かなりの確率で、障害のある人が前オーナーというクルマが見つかったものだ。そして、そうしたことも過去のものとなりつつあるのだ。
いかがでしたか?(←最近のキュレーションサイト風)
「イタリア車やフランス車はマニュアルじゃなきゃダメざんす」などという知ったかぶりは、本場では通用しなくなりつつある。一方で、MT車が希少になってくると、逆にある一定の人気が高まるのでは? とボクは見ている。
アナログレコードやカセットテープがそうであるように、MT車も現役時代を知らない世代からの支持を獲得するかもしれない。
特に、「シトロエン2CV」や「ルノー4」といった、トランスミッション部分も含め各部の修理が容易なMT車たちは、お金のかからぬホビーの対象として、人気を博す可能性が高い。
そこで思い出すのは、2015年にシトロエン2CVの国際ミーティング「2CVフレンズ」を取材するため、ポーランドを訪れたときのことである。多くの若者たちが、ほほを紅潮させて語った。「ちょっとやそっとじゃ故障しないし、壊れても自分でなんでも修理できる。このクルマなら地球の果てまで走っていけるんだよ」と。
そうした彼らに「ダブルクラッチ!」とか「2速をなめる(注:シンクロメッシュがない時代のクルマで1速に入れるとき、2速に軽くシフトし、滑らかにギアチェンジする術)って、知ってるか?」などと自慢げに講釈を垂れる迷惑なオッサンにはなるまいと、今から自分に言い聞かせている。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、プジョー・シトロエン、ルノー/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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