第403回:神は細部に宿る
「日産ノートe-POWER」に“技術の日産”の神髄を見た
2017.04.15
エディターから一言
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不利といわれたシリーズ式ハイブリッドで、クラストップレベルの燃費性能を実現! 高い環境性能と他のモデルとは一線を画すドライブフィールをかなえた「日産ノートe-POWER」は、どのようにして誕生したのか? 開発者にエピソードを聞いた。
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日産にとって30年ぶりの快挙
「神は細部に宿る」という有名な言葉がある。モノ作りの神髄のような考えだ。
2017年3月29日、横浜にある日産本社にて、メディア向けの技術説明会「ノートe-POWER 開発における新発想」が開催された。その取材が終わった帰り道に、頭に浮かんだ言葉が、「神は細部に宿る」だった。
昨年(2016年)の11月に、日産は「ノート」にシリーズハイブリッドのパワートレインを搭載したノートe-POWERを発売した。これが驚くほど売れた。2016年11月の月間新車販売台数で、軽自動車をも含む全乗用車銘柄で1位を獲得。日産にとってはなんと30年ぶりの快挙である。しかも発売の1カ月だけでなく、その後もコンスタントに販売は続き2016年度下半期のコンパクトカー部門ではトップに輝いたという。
そのヒットの理由は、やはり新しいパワートレインの出来のよさにつきるだろう。モデル末期ともいえるノート自体に、それほどの勢いがあるわけもない。
ただ、新パワートレインとはいえ“本当に新しいもの”は意外と少ない。モーターとインバーターは電気自動車(EV)の「リーフ」そのもの。エンジンも以前よりノートに使われていたものである。新しいのはモーターの力をタイヤに伝えるギアと最新のリチウムイオン電池くらいだ。原理もシンプルそのもの。ガソリンエンジンで発電して、モーターで駆動する。それだけだ。しかし、出来上がりが良かった。
シリーズ式ハイブリッドでもやればできる
これまで、シリーズ式ハイブリッドは「トヨタ・プリウス」のようなパラレル方式よりも劣ると、散々に喧伝(けんでん)されてきた。しかし、ノートe-POWERは量販グレード(JC08モード燃費34.0km/リッター)でも燃費特化グレード(同37.2km/リッター)でもライバルを上回った。ただし、燃費特化グレードはエアコン非装備というおそるべきカタログ特化仕様で、ほとんど売れてはいないようだが……。とはいえ、「シリーズ式ハイブリッドがパラレル式よりも劣る」ということをノートe-POWERは、きっちりと否定したのだ。
さらに、ノートe-POWERは走行フィールも素晴らしかった。駆動をモーターだけに割り切ることで、ほとんどEVと同じフィールになった。震動や騒音の少なさ、力強くスムーズな加速などは、ガソリン車やパラレル式ハイブリッド車にはない大きな魅力だ。また、あえて回生ブレーキの利きを強くしており、その結果、アクセルペダルの操作だけで加速・減速を可能にしたのも新鮮である。この気持ちのよさや新しさが、われわれメディアがノートe-POWERを高く評価する理由であるし、一般の人たちがノートe-POWERをこぞって買い求めたのも同じ理由だろう。
そして、その気持ちのよさや新しさは、開発の現場で汗をながしたエンジニアたちの努力の成果であり、それが今回の説明会でよくわかった。
説明会は「モーター駆動の走り」「e-POWER Drive」「好燃費の実現」「静粛性の実現」の4テーマについて、実際に開発を手がけたエンジニアが、それぞれ5~6人のメディアを相手に30分ほどのプレゼンテーション&質疑応答を繰り返すというもの。そこで語られた内容は、非常に深く細かなものであった。
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気の遠くなるような細かな開発の積み重ね
例えば、加速時のモーターに送る電力については、1万分の1秒という細かい単位で制御。電動パワートレインにつきものの、アクセル系に発生する“ねじり振動”を抑制するためだ。また、ワンペダル操作ではアクセルオフすると走行抵抗&回生ブレーキで減速してゆくが、最後の最後、停止の瞬間を滑らかなものとするようこちらも制御に工夫を施している。
さらにワンペダル操作に関しては、アクセルペダルに足を載せている時間が長くなるので、右足を疲れにくくするようアクセルの中立位置にもこだわったという。回生ブレーキは最大0.15Gの減速力を発生できるが、0.13Gを超えるとブレーキペダルの操作なしでもブレーキランプを点灯させる。後続車への配慮だ。
エンジンによる発電については、優れた燃費性能を得るために稼働時間を限りなく短縮。そのかわり、稼働時はエネルギー効率が最もよい2500rpm前後でエンジンを回すようにした。エンジン始動を減らすため、リチウムイオン電池の充電率(SOC)の利用領域をワイドに設定したのもこのシステムの特徴だ。
静粛性にも配慮しており、遮音材の追加は最小限としつつ、低速域では極力エンジンを止めたままにするなど、騒音の発生源から問題に対応。速度を上げ、走行騒音が大きくなったときにエンジンを動かすようにしたという。インバーターや電池が発する「キーン」という騒音を抑制するため、音を可視化する装置を開発したというのも驚きであった。
このように、日ごろから自動車技術の取材をしているわれわれメディアの人間でも、「なるほど!」と感心させられるような話が数多く聞けたのだ。さらに質疑応答では、遠慮のない質問にも若い現場のエンジニアたちが真摯(しんし)な態度で答えてくれた。
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一つひとつに理由がある
「なぜ、EVモードが設定されなかったのか?」と聞けば、「電池の状況によってEV走行ができないシーンがある。ユーザーをガッカリさせたくなかった」と答える。「回生失効中(電池が満充電で、回生ブレーキで発生した電力をバッテリーが受け入れることのできない状態)はどうしているのか?」という疑問に対しては、「停止中のエンジンを電力で空回しさせて、電力を消費する。回生ブレーキは途切れない」というではないか。また、「SOCのレンジを幅広く使うと電池の劣化という点では悪影響があるのでは?」という意地悪な質問には、「劣化するかと問われればYES。だが、走行100万kmまでテストを行っていると、劣化は(蓄電量が)80~90%程度まで落ちたところで停滞する。普通に使う分には問題はない」という。
さらに、「高速走行はエンジン利用の方が効率がよいのでは? なぜ、高速域までシリーズ式ハイブリッドなのか? 高速域は、エンジンと車軸を直結した方がいいのでは?」という素朴な疑問には、「確かに速度域が高いとシリーズ式は不利になる。しかし、ノートのユーザーで、ゴルフやレジャーなど遠出を多用するのは2%程度。使い道にあわせた。また高速域で直結させる機構を作るとコスト高になって車両価格が上がる。また、小さなノートには、これ以上複雑な機構を搭載するにはスペース的に苦しい」と率直に回答。まさに重箱の隅をつつくような細かな質問にも、一生懸命な答えを返してくれた。
取材を通して得たのは、「細かいことまで、よく考えられている」という印象である。細かすぎて伝わらないような技術がノートe-POWERにはぎっしりと詰まっていたのだ。
あらためて、「技術の日産」という古いキャッチフレーズを思い出す。神は細部に宿るというが、まさにノートe-POWERは、細かな部分を詰めに詰めたからこそ、一般のユーザーにも魅力が伝わったのだろう。日産の30年ぶりの快挙となるヒットは、こうしたエンジニアの努力のたまものなのだ。
(文=鈴木ケンイチ/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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