アバルト595コンペティツィオーネ(FF/5AT)
チューナー泣かせ 2017.04.26 試乗記 マイナーチェンジでデザインや装備が改められた、ホットハッチ「アバルト595コンペティツィオーネ」に試乗。「スポーツ性能を限界まで高めた」とうたわれる走りの質を、ワインディングロードで確かめた。フィアットとの違いを強調
「フィアット500」系のアバルトにマイナーチェンジが施された。一番のトピックは、3桁の数字が595に統一されたことである。595とは、アバルト社が独立したレーシングカーコンストラクターだった時代、バックしているのかと思うほど遅かった(『ルパン三世』でおなじみの)空冷2気筒OHVのフィアット500をチューンしたそのモデル名に由来する。
今回の変更で、標準グレードの「アバルト500」も、「アバルト595」と名乗るようになった。フィアット500シリーズとの差別化を明確にして、アバルトのプレゼンスを高めるための“世界戦略”である。
試乗したのは、最も高性能なコンペティツィオーネ。この下の「ツーリズモ」と、素の「595」は今度のフェイスリフトでパワーを微増させたが、コンペティツィオーネのエンジンは変わっていない。とはいえ、1.4リッター4気筒ターボから180psを絞り出すハイチューンはツーリズモ(165ps)以下に差をつける。
振り返ると、160psでスタートしたコンペティツィオーネが180psになったのは1年前だ。180psといえば、2010年に世界限定1696台で登場し、日本では真っ先にイチロー選手が購入した、あの「695トリブート フェラーリ」と同じ出力である。間断なくブラッシュアップして、サソリ中毒から抜けがたくする。それが500系アバルトのやり方だ。
レーシングカー並みの“硬さ”
500系アバルトに乗るのは、1年半ぶり。190psユニットにドグリングミッションを組み合わせた「695ビポスト」以来である。常備モデルの595コンペティツィオーネには、もちろんリアシートもエアコンも付いているが、乗り手に感じさせる“ハジけかた”は、国内10台限定だった「695ビポスト フルスペック仕様」とそうそう変わらない。
走りだしのファーストタッチでまず驚くのは、グレード名どおりのレーシングライクな乗り心地である。専用の17インチホイールに履くのは、205/40の「ピレリPゼロ ネロ」。KONIのダンパーで締め上げられた足まわりは、「バネ、付け忘れたの!?」と思わせる硬さだ。運転しながら口笛を吹くと、ヴィブラートがかかる。
といっても、ズシンとしたアンコ型ではなく、軽くて、硬い。ボディー剛性も、ノーマル500とは異次元に強固だから、不愉快な硬さではない。個人的には全然嫌いではない。でも、「ランチア・デルタHFインテグラーレEVO2」をマイカーにしている編集部Sさんは、「体にきますね」とあきれていた。
コンペティツィオーネには、サイドサポートの峰が高いサベルト製スポーツシートが備わる。一部にアルカンターラを使い、とても上等に見える。これが、硬い乗り心地を和らげてくれる、なんて思ったら大間違いで、シートも硬い。サポート性はあるが、クッション性はない。座り心地のレーシーさは「ロータス・エリーゼ」のシート並みである。
ヤンチャな挙動も魅力
車重1120kgに180ps。595コンペティツィオーネが速いのは当然だ。
試乗車は500系アバルトの2ペダル変速機としてすでにおなじみの“アバルト・コンペティツィオーネ”を備える。シフトレバーはなく、代わりに4つのプッシュボタンがダッシュパネルに付く。
積極的に走りたいときは、キックダウンもシフトアップもしないMTモードを使うに限る。ATモードの自動変速は過不足ないが、かといってデュアルクラッチのようにスピーディーではない。MTモードでシフトパドルを使って変速をすべて自分でやると、シングルクラッチ自動MTとしては上出来のスポーツ性能を発揮する。
ダッシュボードにあるSPORTボタンを押すと、計器パネルが赤くなり、露骨にスロットルペダルの“つき”がよくなる。フル加速時にはオーバーブーストが働き、変速マナーもスポーティーになる。そうやってパワートレインにファイティングポーズを取らせて、ワインディングロードを駆けるのが、このクルマのマジックアワーである。
まったくたわみ感のないサスペンションがもたらすコーナリングは、まさにカート感覚だ。LSDの影響か、コーナーの頂点ではステアリングが巻き込まれるような挙動をみせたり、立ち上がりではトルクステアに見舞われたりするが、そうしたヤンチャさと渡り合うのもコンペティツィオーネの魅力である。
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もはやいじる余地はない
今度のフェイスリフトでは、シリーズ全モデルのフロントグリルに、“ABARTH”の浮き文字が入った。ただ、せっかく入った表札もナンバープレートでほとんど隠れてしまうのが残念である。
ボディー内外のあちこちに、サソリのエンブレムが配される。外側だけでも、数えたら9匹いた。リアライトの形状は、新たにAの字型に変わった。
後席へのアクセス時に前席背もたれを倒す赤いレバーは、レーシングカーのキルスイッチを模している。エンジンフードをめくると、左手前にギャレット製のターボチャージャーがある。いまどきこれだけターボ本体がよく見えるクルマも珍しい。
やけどしそうなほどアツいエンジンといい、スパルタンきわまる足まわりといい、数々の仕掛けやくすぐりといい、595コンペティツィオーネは、メーカー純正のチューニングカーである。
メーカーのできない大人げないことをやるのが、かつてのアバルト社のような独立系ファクトリーの仕事だったのに、これではもう、彼らの出る幕もなければ、生き残る余地もないだろうな、という、妙な感心をさせてくれるアバルト595コンペティツィオーネなのだった。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アバルト595コンペティツィオーネ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm
ホイールベース:2300mm
車重:1120kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段AT
最高出力:180ps(132kW)/5500rpm
最大トルク:230Nm(23.5kgm)/2000rpm ※SPORTスイッチ使用時は250Nm(25.5kg)/3000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR17 84W/(後)205/40ZR17 84W(ピレリPゼロ ネロ)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:381万2400円/テスト車=417万4200円
オプション装備:スペシャルソリッドカラー<Giallo Modena>(5万4000円) ※以下、販売店オプション アバルトオリジナルETC車載器(1万2960円)/パイオニア・カロッツェリアAVIC-CZ900(29万4840円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1012km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:272.8km
使用燃料:27.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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