アバルト595コンペティツィオーネ(FF/5MT)
伝統は生きている 2016.03.22 試乗記 アバルトのパフォーマンスモデル「595コンペティツィオーネ」に試乗。マイナーチェンジを受けて160psから180psにパワーアップした“ピッコロ・スコルピオーネ”の走りをワインディングロードで解放する!より強力に、精悍に
アバルトはフィアット車のチューニングを得意とするチューナーとして、1949年にイタリアで設立された。71年にフィアットに買収されてからは、同社のモータースポーツ部門を任された。近ごろではフィアット車のグレード名として使われる程度にとどまるなど、有効活用されていない時期もあったが、2007年にフィアットが「500(チンクエチェント)」を復活させたのに合わせ、アバルトブランドの再構築にも着手。500や「グランデプント」のハイパワーバージョンにアバルトの名を冠して販売した。トレードマークはサソリ。創業者のカルロ・アバルトの誕生月の星座からきている。
現在のアバルトのラインナップはすべて500がベースで、チューニングの度合いに応じて5種類のモデルがある。今回マイナーチェンジした595コンペティツィオーネはチューニングの度合いも価格も上から2番目のモデル。マイチェンでは、エクステリアの変更点は最小限にとどまるものの、だれもが“595コンペティツィオーネのままなんだけれど、確実に何かが違う”と感じるような、ツボを押さえた変更が加えられた。
まず17インチホイールが新デザインに。コンパクトなクルマなので17インチでも十分に大きく見える。フロントホイールの隙間から見えるのは、新たに装着されたブレンボ製4ポッドブレーキキャリパーだ。見えないけれど、KONI製ショックアブソーバーも標準装備される。リアへ回ると、バンパー下から顔をのぞかせる4本のテールパイプが「俺を見てくれ!」と訴えかけてくる。レコードモンツァのエキゾーストシステムが装着されている。このほか、フロントグリル、ドアハンドル、ドアミラーなどが触るとざらついた感触のつや消しガンメタリックで塗装されていて、精悍(せいかん)な印象となった。
フロント左右にシートベルトのブランドとして有名なサベルト製の、ヘッドレスト一体型のレザー/アルカンターラ・バケットシートが備わる。バケットが深いのと、アルカンターラ素材が滑り止めとしても効果的で滑りにくい。そして見た目がカッコいい。ガンメタ推しはインテリアでも展開されていて、ダッシュボードパネルなどガンメタの加飾パネルが用いられる。触るとザラザラして気持ちいい。
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衝動を抑えられるか?
タイトなバケットシートに腰を落ち着け、シートポジションを合わせる。背もたれ調整用のダイヤルを回そうとするのだが、シートとドアの間にスペースがほとんどなく、ダイヤルを回しにくい。ドアを開けて調節すればよいのだが、家族でクルマを共有するためしょっちゅうポジション調整を迫られるようなケースだと、まどろっこしいだろう。幸いいったんベストポジションを獲得してしまえば体全体をガッチリとホールドしてくれる。
シートの次にステアリングをチルト調整し、好みのドライビングポジションを獲得したらエンジン始動。ボボボ……と低くくぐもったアイドリング音が聞こえる。ギアを入れて走り始める。ステアリングは軽い。絶対的なサイズがコンパクトなので、街中の混んだ交通でも気を使わずスイスイ走り回ることができる。エンジンの回転数が上がるにつれてエキゾースト音が高まり、それがまた古典的かつ官能的な音で、ドライバーのやる気モードを刺激してくる。いくら「いや違うんだ。今日はデートなんだからジェントルな走りに徹するんだ」と自制心を働かせても、何かの拍子についアクセルペダルを踏み込んで「ブォン!」という音を轟(とどろ)かせてしまうと、ドライバーは自分を抑えるのが難しくなるはずだ。思い切り走らせたい、アバルトを解き放ちたいと。
そんなタイミングで助手席の彼女が「なにこれ?」と、ダッシュパネルにある「SPORT」モードのスイッチを押しちゃったらもうダメ。アクセル操作に対するレスポンスが向上し、エキゾースト音がより獰猛(どうもう)な音色に変わる。そうなるともう抑えはきかない。助手席の彼女の存在を忘れ、海辺のおしゃれなレストランだったはずの目的地は、「ハチロク」や「ランエボ」あたりがうじゃうじゃしている山道に変わってしまいかねない。
全域でトルクが豊かに
新型はタービンの大径化などによってパワーアップを果たした。それまでの最高出力160ps/5500rpm、最大トルク21.0kgm/2000rpm(SPORTモード時:同23.5kgm/3000rpm)から、同180ps/5500rpm、同23.5kgm/2000rpm(SPORTモード時:同25.5kgm/3000rpm)へ。車重は変わらず1120kgなので、パフォーマンスは確実に向上した。最高出力の20psアップはともかく、最大トルクの2.5kgm(SPORTモード時:2.0kgm)アップは一般道でも十分に体感できる。マイチェン前よりも全域でトルクが豊かで、エンジン回転数がどこにあっても踏めばクルマがスッと前へ出ていく。
SPORTモード時の研ぎ澄まされたレスポンスで180ps、25.5kgmを制御するのは爽快かつ刺激的だ。構造上、タービンを大径化すればパワーは出しやすいものの、アクセルを踏んでから加速するまでに時間差、いわゆるターボラグが生じるはず……なのにまったく気にならないのは、このクルマがパワーに対して車重が軽いからか、それともエンジンのチューニングが絶妙だからだろうか。ワインディングロードを走行中、ついついより大きく、よりパワフルで、より高額なクルマを探してしまう。楽々追従できるのが痛快なのだ。昔からレースシーンで「ジャイアントキラー」と呼ばれてきたアバルトの伝統は生きている。
クルマが“走れ”と求めてくる
乗り心地は、はっきりとかたい。ノーマルの500とほぼ同じ姿をしているが、各部が補強された結果、剛性感はまったくの別物だ。かためられた足まわりとあいまって、ハンドリングはきわめて正確で、わずかなステアリング操作が明確に挙動となって表れる。その代わり、疲れてダラっと走らせたい時にもクルマがスポーツドライビングを求めてくる。これに文句を言うようなら端から595コンペティツィオーネを選んではいけない。
最初に右ハンドルの5段ロボタイズドMT(ATモード付き)に試乗してそう書こうと決めていたのだが、その後に左ハンドルの5MT車に乗り換えると、ボディー剛性感などは変わらないものの、足まわりはいくぶんソフトに感じた。2台ともマイレージが1000km未満のド新車状態だったので、たまたま差が出ただけかもしれず、数千kmを走ったあたりで再度確認したい。
MTはハンドルを左右から選べ、353万1600円。ロボタイズドMT(フィアットでいうデュアロジックで、アバルトの場合には「アバルト・コンペティツィオーネ」という名が付いている)は右ハンドルのみで、369万3600円。楽しさに違いはないので好きなトランスミッションを選べばよいと思うが、ロボタイズドMTの変速時のサウンドが特徴的で好みが分かれるかもしれない。ぜひ試乗でこの点を確認して決められたし。
クルマ好きははるか昔からこうしたパワーのあるコンパクトカーを「ホットハッチ」と呼んで面白がってきた。現代の500のモデルである1957年から20年にわたって販売されたヌオーバ500にも、アバルトがチューンしてホットハッチに仕立てたモデルがあった。このブランドがやってることは50~60年前から一緒だ。要するにホットハッチがもたらす喜びは普遍的であり、古いも新しいもないのだろう。あー楽しかった。
(文=塩見 智/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
アバルト595コンペティツィオーネ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3655×1625×1500mm
ホイールベース:2300mm
車重:1120kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:180ps(132kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/2000rpm ※SPORTスイッチ使用時は25.5kgm(250Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR17 84W/(後)205/40ZR17 84W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:353万1600円/テスト車=358万7220円
オプション装備:ナビゲーションシステム(4万5360円)/ETC(1万260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:618km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:182.7km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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