シトロエンC3(FF/6AT)
個性的とはこういうことだ 2017.06.30 試乗記 自動車メーカーの地力はコンパクトカーにこそ宿る。ユニークな顔つきが印象的なシトロエンの新型「C3」は、特別に速くもなければ、豪華でもハイテク満載なわけでもない。しかし小型実用車としての基本は外さぬ、フランス車らしい実直さに満ちている。個性的とはこういうクルマのことを言うのである。ぴっちりスーツではないがジャージでもない
シートが柔らかい。こういう些細なことが記憶の箱のふたを開けることがある。しっかりとした反力を予想して腰を落としたけれど、思いの外柔らかくお尻が沈み込んだ時の小さな驚き。ふかっとソフトに沈む大ぶりのシートクッションの感触は、どこか昔のシトロエン、それも「BX」以前の車を思い起こさせる。「C4カクタス」のシートもソフトだったが、このC3のほうが懐かしい。もうこれだけで、この車が他とは違う場所にいることが分かる。また走りだす際にも停まる時もヨイショ、という具合にひと揺れする。近頃では珍しいぐらいコンプライアンスがたっぷり取ってあるようだ。最近はコンパクトカーであってもとにかくスポーティー路線で引き締まった足まわりを持つ車ばかり、特に輸入車はわざわざスポーツサスペンションを日本仕様の標準にするものも少なくない中、こういうのどかな足まわりに接するとどこかホッとする。皆が皆、筋肉質な体の線をアピールするかのようなきっちりタイトなスーツを着たいわけではないのだ。といってもだらしないルーズさでは決してない。ちょうどいい遊びというか余裕があり、着ていて楽チンなトレーナーのような心地よさである。
無論ボディーが頼りないということもない。いったん走りだせばしっかりした骨格は明らかで、緩やかにジワーッとロールしながら荷重がかかると、そこからがシトロエンの真骨頂と言うべきか、執拗(しつよう)に路面を捉え続ける頼もしさがある。ラフな路面を突破しても当たりは柔らかだが芯はしっかり、ガチガチに固めているわけではないのにへこたれない。まさに柳に雪折れなしの風情である。
大胆な路線変更
2002年のデビュー以来350万台を売るシトロエン随一のボリュームモデルであるにもかかわらず、きわめて大胆に変身を遂げたのがこの3代目C3である。「フォルクスワーゲン・ポロ」などがライバルとなるBセグメントのコンパクトカーだが、従来のコロリとしたハッチバックからクロスオーバーSUV風のスタイルに生まれ変わった。押し出しの強い大げさなグリルを持つわけでもなく、テールゲートが“クーペライク”に低く傾斜しているわけでもないが、不思議な存在感を放つ姿である。あえてボンネットを高く、ルーフラインもほぼ真っすぐ高い位置で引いたフォルムは、癒やし系の雰囲気とともにタフさも感じられる。このC3をベースにしたラリーカーがWRCで大暴れしているせいかもしれない。
ダブルシェブロンのエンブレムからつながるLEDライトは、ようやく日本でも認められるようになったデイタイムランニングライトであり、本当のヘッドライトはその下、いわゆる「ファントム」風の錯覚を誘うデザインである。そのヘッドライトもフォグランプのフレームも長方形の角を丸めた形で、このモチーフはエクステリアだけでなくインテリアにも繰り返し使用されている。
本国ではボディーカラーは9色、ルーフは3色、2トーンではないシンプルなカラーも含めると計36通りのカラーを選べるという。ルーフの色はフォグランプのフレームやドアミラー、そして特徴的なドアサイドの“エアバンプ”のアクセントにも反復され、コーディネートされる。ちなみにこの車は市販前の暫定仕様であり、日本仕様の細かな装備の詳細はまだ分からない。おそらく安全装備などを含めかなり充実した内容となるはずだが、たとえばミラーは電動調整式ながら折り畳みは手動のままだった。2トーンのボディーカラーやエアバンプも、本来は上級グレードでしか選べない装備なので念のため要注意である。
コンパクトカーの基本は外さない
小さなステアリングホイールの上からメーターをのぞき見るようなプジョーのiコックピットとは対照的に、C3のインストゥルメントパネルはオーソドックスだが明るくカジュアルな雰囲気だ。メーター類もシンプルで、センターコンソール中央には7インチのタッチスクリーンが備わり、ナビやオーディオだけでなく空調なども含めほぼすべての操作をこのスクリーン上で行う方式だ。ありがたいのは、スクリーン下部に指を支えるための軒先が張り出していること。何の手がかりもないツルリとしたパネルのアイコンを間違いなく触るのは(特に走行中は)難しい。本当は物理キーのほうがうれしいが、このぐらいの配慮は欲しいところだ。試していないが、ルームミラー背面には動画を撮影できるコネクテッドカムなるカメラが仕込まれているのも新型C3の特徴という。
C3の外寸は全長3996×全幅1749×全高1474mm、ホイールベースは2540mm、見た目の印象は大きく異なるものの、これは兄弟車に当たる現行「プジョー208」とほぼ一緒である。全高を生かし、ボディーサイドも絞りこまれていないため室内は十分に広く、リアシートのスペースにも不満はない。雰囲気はどうあれ、小型実用車としての基本性能は外さないのがフランス車らしい。ちなみに現行フォルクスワーゲン・ポロ(本国で発表されたばかりの新型はついに全長4m超となったが)の3サイズは全長3995×全幅1685×1460mm、ホイールベースは2470mmである。
ライバルはカングーのみ?
本国では自然吸気1.2リッターや1.6リッターディーゼルターボなども用意されているが、当面の日本向けエンジンは3気筒1.2リッターターボ、最高出力は110ps(81kW)/5500rpm、最大トルクは205Nm(20.9kgm)/1500rpmというものでプジョー208の「シエロ」や「アリュール」に搭載されるものと同一、EAT6と呼ぶ6段ATと組み合わされるのも同じだが、なぜか発進など、極低速での挙動が何となくぎこちなく、C4カクタスと同じクラッチ式のETG5かと疑ったほどである。昨年限定発売されたC4カクタスはターボなしの1.2リッター3気筒でわずか82psと118Nm(12.0kgm)に過ぎず、1070kgと比較的軽量とはいえ、のんびりした走りっぷりだった。それに比べればずっと小気味よく走る。もちろん鋭く敏しょうにというタイプではないし、いささかゆるめのATのせいで切れ味鋭いわけでもないが、すがすがしい軽快感がある(C3の車重は車検証上で1160kg)。特に下りの山道などでは、粘り強く接地感あふれるサスペンションのおかげで侮れない速さを見せるはずだ。参考までに5MTの欧州仕様は0-100km/h加速10.9秒、最高速188km/hの公称データを持つ。現行「プリウス」や「リーフ」の加速タイムは11秒ちょっとだから、それには引けを取らないということだ。
特別に速くもなければいわゆるスポーティーでもなく、豪華でも最先端の技術が搭載されているわけでもないが、小型ハイブリッドと軽自動車ばかりが幅を利かせる現代の日本には、貴重で個性的なニューカマーである。ルノー本社が驚くほど「カングー」が集結する国の若い人たちには、案外大歓迎されるのではないだろうか。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
シトロエンC3(日本仕様プリプロダクションモデル)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3996×1749×1474mm
ホイールベース:2540mm
車重:1160kg ※車検証記載値
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:110ps(81kW)/5500rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/1500rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:4.6リッター/100km(約21.7km/リッター 欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:805km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:297.0km
使用燃料:26.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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