ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
そのタイプR、激速につき 2017.09.23 試乗記 ところはホンダの鷹栖プルービンググラウンド。われわれの目の前にいよいよ現れた「ホンダ・シビック タイプR」は、“リトル・ニュルブルクリンク”ともいえそうな鷹栖のワインディングコースを、無慈悲なまでの速さで駆け抜けた。だからこそ筆者の心には、またあの難問が渦巻くことになったのだ。速さとは何なのか、スポーツカーとは何なのか、と!シャシーが主役
ホンダにとってスポーツスピリットの象徴である「タイプR」が、10代目シビックをベースに待望の日本復活を果たした。シビックそのものが日本市場から7年間姿を消し、タイプRに至っては500台限定となってしまった先代モデルに対して、この新生タイプRは純然たるカタログモデル。となれば誰もがその速さや性能に興味を持つのは当然だが、果たしてその走りは……。あきれるほどに、すさまじかった。
車両を構成する要素はこれまで通り。先代からターボ化された2リッター直列4気筒VTECを横置きに搭載し、6段MTを介して前輪を駆動する、至ってコンベンショナルなFWD(前輪駆動)スポーツである。しかしその走りは……。まったくもって尋常じゃない。いや正確に言えば、筆者にはまったく底が見えなかったと白状してもいい。
試乗コースに選ばれたのは、このタイプRを鍛え上げたホンダの聖地、北海道の鷹栖テストコース。まるで“小さなニュルブルクリンク”といえるそのワインディングコースを、新型タイプRは豪快に走り抜いた。
その印象は、ひとこと“骨太”。今回の主役は、間違いなくシャシーだ。2リッターのターボユニットは、ついにその出力を「フォルクスワーゲン・ゴルフR」をしのぐ320psにまで跳ね上げた。にもかかわらずこのシャシーは、完全にフロント2輪でこれを封じ込めてしまう。曲率の高いコーナーでフルスロットルを与えれば多少のトルクステアは生じるものの、「もっとパワーがあってもいいんじゃない?」と感じてしまうほど、険しい鷹栖のワインディングでアクセルを踏み倒していけるのだ。
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基本骨格を鍛え上げる
なぜここまで高いボディー剛性を、新生タイプRは得ることができたのか? それは10代目シビックで、ホンダがセダン、5ドアハッチ、そしてこのタイプRの開発を同時に行ったからだという。つまり今度のタイプRは、完成した5ドアハッチを後からドーピングしてできたエボリューションモデルではない。お互いに情報を共有し、タイプRを作るための土壌をそのプラットフォームに持たせたということである。
たとえばその軽量化は、重心高が影響する部位に高張力鋼板を使って肉薄化を行った。またこれまで上下別々に組み立て、後に溶接結合していたボディーを、まず骨格部分から組み上げて最後に外板パネルを溶接する「インナーフレーム構造」に変更し、これによって補強部材の使用を最小限にとどめることができた。そしてここにタイプR専用のアルミエンジンフードをアドオンして、そのボディーは、先代から約16kgの軽量化が果たされたという。
たったの16kg? と思うかもしれないが、それはボディーのねじり剛性を約38%も強化した上での軽量化だ。重量を抑えながら剛性を上げることに貢献したのは溶接技術の進歩だった。また巨大な開口部を持つリアセクションは、クオーターパネル部分に接着接合を採用し、点ではなく面で部材を貼り合わせた。
補強としてはダンパーとテールゲート、それぞれの取り付け部をぐるりとつなぐ環状骨格を持たせ、フロアにはFWDにもかかわらず、リブ効果を出すためにセンタートンネルを与えたという。
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空恐ろしい速さ
もちろんエンジンだって、バカが付くほど気合が入っている。まずそのターボにはレスポンスを重視するべく低慣性のシングルスクロールタービンを採用し、過給圧をコントロールするウェイストゲートバルブは電動制御とした。吸入空気量はターボの過給で確保できるため、VTECは排気側のみに採用。かつ吸排気両方にVTC(連続可変バルブタイミングコントロール機構)を装備することによって、レーシングエンジンの常とう手段であるオーバーラップ制御をより広範囲に使えるようにした。
これ以外にも超軽量なカウンターウェイトを採用したクランクシャフト、アルミ製VTECロッカーアーム、アルミ製ピストン、高強度な鍛造コンロッドの採用など、数え上げればきりがないほど、このエンジンには手が入っている。その開発目標は「世界で一番軽量なレシプロエンジン」。そして「ニュルを全開で3ラップしても、熱ダレしないエンジン」を作ることだったという。
こうしてできあがったタイプRは、恐ろしく速い。いや、その速さをもってどこまでも攻めていけるから、空恐ろしいのである。
基本的なハンドリングはアンダーステア。しかしそれはフロントタイヤのキャパシティーが足りないという意味ではない。入力軸と転舵軸を分けたストラットは、開発の狙い通りに路面からの入力やトルクステアを抑え込み、操舵に対して正確な応答でノーズをねじ込んでいく。
つまりリアタイヤの接地性が、異様に高いのだ。それがマルチリンクの影響なのか、文金高島田のようにいかついリアウイングをはじめとした空力性能のせいなのかは判然としない。きっと両方だろう。
高速コーナーからのブレーキングではブレンボのブレーキシステムが、アッという間に速度を削り取る。それは減速というよりも速度を合わせるといった方が適切であり、そのえげつない旋回速度には恐怖を通り越して、思わず笑ってしまった。
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そこには極上の速さがあるが……
どこのコーナーもそうだった。最初は「こんな速度で入っていけるのか!!」と自分で驚き、慣れていくほどに進入速度が上がっていく。強烈な旋回G、連続する素早いターン。もはやこんなシチュエーションで6段MTの操作には無理があると思っていたけれど、ヒール&トウいらずで回転を合わせるレブマッチ制御が助けてくれる。これならDCTいらずだ。
路面にタイヤを削り取られる感触。普通ならアンダーステアが盛大に出そうな場面からステアリングを切り増すと、4輪の適所にブレーキをかけてアンダーを打ち消すのは「アジャイルハンドリングアシスト」の効果だ。そしてこれを織り込み済みで、タイプRはどっしりとリアを落ち着かせたまま曲がっていく。
理想的な弱アンダーステア。こんなマシンだからこそ、ニュルのようなコースで7分43秒80という市販FWDモデル最速ラップをたたき出すことができたのだろう。
しかし同時に、筆者の中では何か判然としない気持ちも湧き上がった。そこには極上の速さしかないのだ。ホンダが2リッターターボのレーシングカーを作りたいなら、これでいい。しかしタイプRという“スポーツカー”には、クルマを操る高次元の喜びが必要なんじゃないか……。
そう簡単に本性は見せない
ニュルで最初に「FWDスポーツ最速」をうたった「ルノー・メガーヌR.S.」は、実はこの点で一切のブレがなかった。どんなにブレーキを強烈に踏んでも、どんな風にこれをリリースしても、絶対にその姿勢を崩さないタイプRに対して、メガーヌR.S.はブレーキ操作で荷重の移動量を調節し、コーナーではリアの滑り出しによって得られたヨーモーメントで向きを変える。そしてそのバランスを取るようにステアリングとアクセルを連携させて走る。その走りはまさに、スポーツだった。
そのためにはメガーヌR.S.は乗り心地が悪化するのを承知で、剛性の足りないサスペンション、特にリアを固めた。ルノースポールの開発ドライバーであるロラン・ウルゴン氏に、このセッティングはあまりにトリッキーすぎないか? と尋ねると彼は、「ルノースポールを望むドライバーは、マシンをコントロールする楽しさがないと怒るんだよ。それに、普段はESCがあるじゃないか(笑)」と(いった趣旨の内容を)、かつて“鈴鹿”で話してくれた。
対して新生タイプRは、その圧倒的なボディー剛性を武器に速さを磨き、可変ダンパーまで備えて日常領域での乗り心地をも両立させてきた。だが筆者は、タイプRがたとえばゴルフRのような、「誰もが安全に速さを楽しめるハイパワースポーツ」であってほしくない。誰もが安全に、スポーツドライビングの喜びを得られる、尊敬に値するスポーツカーであってほしい。われわれに買える「ポルシェ911 GT3」であってほしいのだ。
こうした印象を得たのは、鷹栖という特殊な環境だったからなのかもしれない。もっとさまざまなシチュエーションで走りを見つめ直さなければ、タイプRの本性は見えないのだろう。
だから、底が見えないと言ったのである。
(文=山田弘樹/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1875×1435mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:320ps(235kW)/6500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y XL/(後)245/30ZR20 90Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:12.8km/リッター(JC08モード)
価格:450万0360円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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